保険代理店業界の業界動向、M&A・売却・買収事例28選

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保険代理店業界はM&Aが活発な業界の一つです。近年では代理店以外の販売チャネルの台頭を背景に、M&Aを通じて競争力を高めようとする動きが加速しています。

本記事では、そうした保険代理店業界の市場動向を解説するとともに、保険代理店業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。

目次

保険代理店業界の概要・市場動向

保険代理店業界とは

保険代理店業界とは、保険会社が提供する保険商品を、保険会社に代わって被保険者に販売する業界をいいます。主な業務は、顧客に対する保険商品の紹介、契約に関する手続きの代行、保険金や給付金の請求支援があります。

保険代理店は、事業者が取り組む事業によって「専業形態」と「副業携帯」の二つの形態に分類されます。

専業形態では、保険代理店は保険業に特化したサービスを提供しています。副業形態では保険業以外の事業を本業としており、保険事業を副業として位置付ける形態をいいます。自動車ディーラー、自動車整備工場、旅行代理店、不動産会社などが保険代理店を副業として営むことが多く、それぞれ本業に関連した保険を提供しています。

保険代理店は、取り扱う保険商品の種類によっても「専従型店舗」と「乗合型店舗」に分類されます。

専従型店舗では、特定の保険会社のみと契約し、その保険会社が提供する商品だけを提供する保険代理店をいいます。商品のラインナップは制限されるものの、商品特性に精通しており迅速で的確なサポートを行えることを強みとしています。乗合型店舗では、複数の保険会社と提携して各企業の商品を取り扱う保険代理店をいいます。課せられるノルマが増えることで事業の質が損なわれる可能性がある一方、顧客のニーズに最適な商品を提案できることを強みとしています。

保険代理店業界の市場動向

保険代理店数の減少

一般社団法人生命保険協会「2021年版生命保険の動向」によると、保険代理店数は2016年から2020年まで一貫して減少傾向にあり、特に代理店全体の4割を占める個人代理店の減少が顕著です。

この背景には、保険商品の販売チャネル多様化により代理店経由で契約する顧客が減少していることが挙げられます。また、業界に対する法規制が強化されたことで、代理店業界全体の事業が制限されていることも原因の一つです。

代理店に保険商品を提供する保険会社にとっても販売チャネル内での代理店の重要度が低下しています。新規契約を取らずに既存の契約料のみで利益を確保している代理店に対しては、保険会社が自ら保険契約を買い取ったり他の代理店と合併させるような動きが加速しています。

販売チャネルの多様化

公益財団法人生命保険文化センター「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、直近加入契約が保険代理店経由である割合は、2018年調査(2013年~2018年に加入した契約を対象)の17.8%から2021年調査(2016年~2021年に加入した契約を対象)では15.3%まで低下しています。

3年ごとに行われる同調査において、保険代理店経由の割合は2009年調査の6.4%から一貫して増加していたため、近年の傾向として保険代理店離れが確認できます。

保険代理店のシェア低下に対して銀行経由のシェアは増加しています。この背景としては、各金融機関が取り扱うことのできる金融商品が拡大していることが挙げられます。

また、インターネット経由のシェアも増加しています。インターネットでの保険契約には、地理的・時間的制約がないために手軽に手続きできる、実店舗がないためにより安価で契約できる、テレビやインターネットでの広告宣伝により顧客自らが保険契約を見直す機会が多いなどのメリットがあります。

現状、インターネット経由の販売シェアはチャネル全体の4%と低い一方で、今後保険に加入する際に利用したいチャネルを尋ねた調査では、代理店経由の12.3%に対してインターネット経由は17.4%と回答されています。

したがって、インターネット契約での課題である事故時の対応など応対の満足度が改善されることで、インターネット契約の利用者が急増する可能性があります。

法規制強化による市場縮小

保険代理店業界の市況は法規制の改正により大きく変動します。

2019年3月に国税庁が節税保険の取り扱いを見直す方針を発表したことで、節税保険と呼ばれていた保険商品が実質販売中止に追い込まれました。発表以前は、中小企業の経営者を主な対象として、解約返戻率が高いにもかかわらず払込保険料を全額損金として計上できるために節税効果が期待できる保険商品が人気でした。

しかし、国税庁の税制改正により数千億円規模まで拡大したこれらの市場が消滅したため、この影響はバレンタインショックとも呼ばれています。

また、金融庁の規制厳格化の影響を受けて、保険会社が保険代理店から販売権を取り上げる「売り止め」が発生しています。売り止めの原因は、代理店が取り扱い商品の多さから商品内容を把握できなくなった結果として生じる保険会社へ相次ぐ問い合わせやずさんな販売体制です。過去には大手損害保険会社が保険代理店での売り止めを実施した例もあります。

今後も商品設計の複雑化に伴って各種法規制が改正される可能性があり、保険代理店は随時取り扱い商品への影響度合いを検討することが求められます。

保険代理店業界のM&A動向

保険代理店業界のM&Aは、中小保険代理店同士のM&Aと大手保険代理店による中小保険代理店のM&Aの2パターンに大別されます。

代理店以外の販売チャネルの台頭や法規制の強化によって、特に小規模の保険代理店にとってはますます競争環境が厳しくなっていると言えます。

前述したように保険代理店数は減少傾向にある一方で、登録営業職員数は緩やかな上昇傾向にあり、M&Aを通じて経営資源を集約することで競争力を高めようとする動きが見て取れます。

また、専従型店舗から乗合型店舗への転換といった保険商品の取り扱いを拡大する目的でもM&Aが多く活用されています。

保険代理店業界におけるM&Aのメリット

売り手のメリット

保険代理店業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 廃業せず既存顧客との契約を継続できる
  • 買い手の知名度やブランド力を活用してさらに事業展開できる
  • 現在取り扱っていない新たな保険商品を販売できる
  • 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
  • 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
  • M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット

保険代理店業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 売り手の販路を活用し更なる事業拡大を目指せる
  • 売り手の保有する既存店舗を活用できる
  • 保険販売のノウハウを持った人材を確保できる
  • 既存の保険契約に係る手数料を一括して獲得できる

保険代理店業界のM&A・売却・買収事例

朝日生命によるNHSインシュアランスグループのM&A

生命保険の販売・引受け事業や資産運用事業を手掛ける朝日生命は、保険代理店事業を運営する「株式会社NHS」、「株式会社創企社」「株式会社FEA」「ライフナビパートナーズ株式会社」の4社を傘下に持つNHSインシュアランスグループの全株式を取得しました。

  • 実行時期:2021年1月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:新たな営業スタイルの構築

トータル保険サービスによる信和実業のM&A

がん保険や医療保険、自動車保険など、多種多様な商品を取り扱う総合保険代理店であるトータル保険サービスは、不動産を主力事業とする会社であり、白洋舎子会社の信和実業の保険代理店事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2021年1月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:2億2,000万円
  • 目的:営業基盤の拡大

新生銀行によるファイナンシャルジャパンのM&A

リテールバンキング事業、コンシューマーファイナンス事業、法人向け事業を手掛ける新生銀行は、訪問型の保険乗合代理店を展開するファイナンシャルジャパンの全株式を取得しました。

  • 実行時期:2019年5月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:販売チャネルの拡大

ヒューリック保険サービスによるデン・ホケンのM&A

損害保険代理業や生命保険の募集業務を手掛けるヒューリック保険サービスは、幸楽苑ホールディングスの子会社で保険代理店事業を手掛けるデン・ホケンの保険代理店事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2018年11月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:販売チャネルの拡大

メットライフ生命によるフォルテシモのM&A

外資系の生命保険会社であるメットライフ生命は、複数の生命保険会社や損害保険会社の商品を販売する総合保険代理店を手掛けるフォルテシモの全株式を取得しました。

  • 実行時期:2019年6月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:総合保険代理店としての基盤強化

第一生命によるアルファコンサルティングのM&A

保険事業、資産運用事業を手掛ける第一生命は、乗合保険募集代理店を手掛けるアルファコンサルティングの全株式を取得しました。

  • 実行時期:2018年4月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:商品ラインナップの拡充

日本生命保険によるほけんの110番のM&A

生命保険事業、資産運用事業を手掛ける日本生命保険は、複数の保険会社と代理店契約を結ぶ店舗型乗合代理店で、九州地方を中心に全国で90を超える保険ショップを手掛けるほけんの110番の全株式を取得しました。

  • 実行時期:2017年3月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:新規顧客の獲得

銀泉によるサクサプロアシストの保険代理店事業のM&A

損害保険代理店事業などを行う銀泉は、キャリアサポート事業や保険代理店を行うサクサプロアシストの保険代理店事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2021年12月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:3,500万円
  • 目的:業務効率改善

アジアゲートホールディングスによるNSアセットマネジメントおよびNSインシュアランスのM&A

グループを統括するアジアゲートホールディングスは、NSアセットマネジメントおよび保険代理店事業を行っているNSインシュアランスが運営する保険事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2020年7月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:代理店ライセンスの維持

日本社宅サービスによるリスクマネジメント・アルファの保険代理店事業のM&A

人事・総務分野に関すすソリューション提供を行う日本社宅サービスは、保険代理店事業を展開しているリスクマネジメント・アルファの保険代理店事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2019年7月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:5,325万6千円
  • 目的:収益拡大

ZUUによるAWZのM&A

資産運用に関する総合プラットフォーム事業を行うZUUは、生命保険および損害保険代理業等を展開するAWZを子会社化しました。

  • 実行時期:2023年1月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:1億5,450万円
  • 目的:効率的な顧客獲得

日本精化による日精バイリス、日精興産2社のM&A

総合ファインケミカルメーカーの日本精化は、不動産関連事業なども行っている日精バイリスと、保険代理業を行っている日精興産を合併しました。

  • 実行時期:2023年4月
  • スキーム:吸収合併
  • 取引価額:非公開
  • 目的:組織運営効率化および収益力の強化

JR九州保険コンサルティングによるJR九州旅客鉄道の損害保険代理業その他の保険媒介代理業のM&A

旅客鉄道事業を行うJR九州旅客鉄道は、損害保険代理業その他の保険媒介代理業を、新設子会社であるJR九州保険コンサルティングへ承継しました。

  • 実行時期:2023年10月
  • スキーム:吸収分割
  • 取引価額:非公開
  • 目的:より機動力のある組織の構築

IDOMによるガリバーインシュアランスのM&A

中古車の買取・販売などを行うリーディングカンパニーのIDOMは、保険代理店事業を行っているガリバーインシュアランスを吸収合併しました。

  • 実行時期:2023年2月
  • スキーム:吸収合併
  • 取引価額:非公開
  • 目的:経営体制および管理体制の見直し

エムエスティ保険サービスによるバーンのM&A

損害保険・生命保険代理業を展開するエムエスティ保険サービスは、損害保険代理店業等の業務を行っているバーンの事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2023年2月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:8,000万円
  • 目的:ガバナンス体制強化および事業効率の改善

アイリックコーポレーションによるユニアックスのM&A

生命保険コンサルティング・損害保険代理業などを行うアイリックコーポレーションは、自動仕訳システムを提供しているユニアックスの第三者割当増資を引き受けました。

  • 実行時期: 2022年08月
  • スキーム:第三者割当増資
  • 取引価額:非公開
  • 目的:自動仕訳するシステムの導入企業拡大

マネーフォワードによるNext SolutionのM&A

金融系のウェブサービスを提供しているマネーフォワードは、ファイナンシャルコンサルティング業務を行っているNext Solutionを子会社化しました。

  • 実行時期:2022年5月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:提供価値の向上

FREE STYLEによるクサナギの生命保険事業のM&A

生命保険事業等を手掛けるFREE STYLEは、保険事業を手掛けるクサナギの生命保険事業を取得しました。

  • 実行時期:2022年03月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:顧客満足度の高い事業の展開

NFCホールディングスによるアスモ少額短期保険のM&A

保険代理店関連事業等を展開しているNFCホールディングスは、少額短期保険商品の販売を行っているアスモ少額短期保険を子会社化しました。

  • 実行時期:2022年1月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:経営資源集中の強化

日本ハウズイングによるMESファシリティーズのM&A

マンション管理事業、ビル管理事業などを行う日本ハウズイングは、人材派遣業、建設業、保険代理店業等を行うMESファシリティーズを子会社化しました。

  • 実行時期:2022年4月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:事業基盤の強化および関連事業拡大

CRGホールディングスによるWDCのM&A

人材派遣紹介事業をはじめとする事業を行うCRGホールディングスは、生命保険の募集および保険代理店業等を行うWDCと資本業務提携を行いました。

  • 実行時期:2021年12月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:人材確保やカスタマーサポートセンターのオペレーション強化

D&Dホールディングスによる室蘭ダイヤモータースのM&A

北海道で自動車販売事業を展開しているD&Dホールディングスは、自動車のリースならびに各種損害保険代理業を行う室蘭ダイヤモータースを子会社化しました。

  • 実行時期: 2021年12月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:北海道エリアの特性を生かしたビジネス展開

九電工によるセントラル総合開発のM&A

配電事業、電気事業などを行う九電工は、分譲マンションの企画・販売や保険代理業務を行うセントラル総合開発と資本業務提携契約を行いました。

  • 実行時期:2021年8月
  • スキーム:第三者割当増資
  • 取引価額:6億8,871万7,600円
  • 目的:品質・コスト力の向上

リログループによる日商ベックス、日商管理サービスおよびグランインテリアの3社のM&A

社宅事業や観光事業等を展開しているリログル―プは、損害保険代理店業務を行っている日商ベックス、日商管理サービスおよびグランインテリアの3社を子会社化しました。

  • 実行時期:2021年4月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:86億円
  • 目的:賃貸管理全国7ブロック展開の拡大

オートバックス・ディーラーグループ・ホールディングスによるTAインポートのM&A

ディーラー事業を統轄するオートバックス・ディーラーグループ・ホールディングスは、ディーラーおよび損害保険代理店を行っているTAインポートを子会社化しました。

  • 実行時期:2021年4月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:収益拡大

JKホールディングスによる坂田建材のM&A

総合建材卸売事業等を行うJKホールディングスは、損害保険代理店業を展開する坂田建材を子会社化しました。

  • 実行時期:2021年3月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:企業価値向上

UTグループによるスリーエムのM&A

無期雇用派遣事業を展開しているUTグループは、経営指導の為の企業管理および経営受託の業務等を行うスリーエムを子会社化しました。

  • 実行時期:2021年5月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:30億5,300万円
  • 目的:雇用環境・顧客企業のニーズへの対応力の強化

東京海上ホールディングスによるGcubeのM&A

保険事業会社大手の東京海上ホールディングスは、再生可能エネルギー事業分野の保険を引き受ける保険総代理店のGCubeを買収しました。

  • 実行時期:2020年4
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:収益拡大

おわりに

本記事のまとめ

保険代理店業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。

保険代理店業界では、インターネット・銀行などの代理店以外の販売チャネルのシェア拡大に伴い代理店数が減少傾向にあります。この傾向はニーズの多様化に伴って今後も継続していくと予想されます。

経営資源を集約して他チャネルに対する競争力を高めるための手段として、保険代理店業界のM&Aは今後もますます活発化していくことが見込まれます。

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