清酒酒造・日本酒業界のM&A・売却・買収事例、業界動向
清酒酒造・日本酒業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。清酒酒造・日本酒業界は国内需要の停滞に伴い、海外展開が加速している業界です。
本記事では、そうした清酒・日本酒業界の市場動向を解説するとともに、清酒・日本酒業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
清酒酒造・日本酒業界の概要・市場動向
清酒酒造・日本酒業界とは
清酒酒造・日本酒業界とは、清酒や日本酒の酒造や販売を主な事業として手掛ける業界をいいます。
清酒・日本酒ともに米を原料としますが、清酒が海外産も含めた米を原料とするのに対して、日本酒での原料は国内産の米のみを原材料とします。
2013年に和食がユネスコにより無形文化遺産として登録されたことで、日本酒も世界的に認知されるようになりました。
清酒酒造・日本酒業界の市場動向
酒類国内消費量の減少
日本国内での清酒・日本酒の販売量は1990年代以降減少しています。
国税庁「酒のしおり(令和4年3月)」によると、清酒・日本酒の販売数量は昭和50年の1,675千キロリットルをピークに、令和2年には417千キロリットルまで減少しています。また清酒・日本酒の製造免許場数も平成22年から令和2年にかけて1,736から1,550まで減少しています。
国内市場縮小の要因は以下の二つが挙げられます。
第一に、清酒・日本酒に限らず飲酒習慣が変化していることです。その背景には特に若者のアルコール離れがあります。
厚生労働省「平成28年度国民健康・栄養調査報告」によると、20代の飲酒習慣者の割合は平成15年から平成28年にかけて男性が20.2%から10.9%に、女性は7.0%から4.4%まで下がっており、飲酒をする若者が減っていることが分かります。全年代では男性が37.4%から33.0%と減っていますが、女性が6.6%から8.6%と増加していることから、特に若い人々の飲酒機会が減ってきていることが、国内酒類市場が縮小している要因の一つと言うことができます。
第二に、嗜好の多様化によりアルコールへの需要が分散していることです。
清酒・日本酒の販売量が減少している期間でも果実酒、ウイスキー、リキュールの販売量は増加しています。特にリキュールの普及は顕著で、平成元年には全体の1%程度の販売量でしたが、令和2年には33%を占めるまでに拡大しています。
これらの状況を打破するために、清酒酒造・日本酒業界には国内・海外需要を喚起するためのブランド戦略が求められています。
海外への販路拡大
日本国内での需要減少に反して、海外への清酒・日本酒の輸出は好調です。
国税庁「酒類の輸出動向」によると、日本産酒類の海外輸出は2013年以降一貫して増加しており、2021年には過去最高とな1,146億58百万円を記録しました。
このうち清酒・日本酒は35%を占めておりウイスキーに次ぐ輸出品目となっています。2022年1月-8月の輸出金額は前年同期比で22.9%増加しており今後も堅調な海外輸出が期待されます。
日本酒の輸出促進には国税庁による取り組みも追い風になっています。国税庁はこれまでに酒造ツーリズムの推進、ブランド化の推進、販路開拓支援のほか、日本酒などのユネスコ無形文化遺産登録に向けた取り組みも実施しています。
今後も上記取り組みが重点的に行われることが宣言されており、国からのバックアップを受ける形で清酒・日本酒事業者は海外展開を加速させています。
清酒・日本酒のブランディングが課題
国内外で清酒・日本酒の魅力をアピールするために、業界内でも以下のような取り組みが実施されています。
2013年からは一般社団法人Miss SAKE主催で「Miss SAKE(ミス日本酒)」が展開されています。同コンテストは、外務省・農林⽔産省・国税庁・観光庁・⽇本酒造組合中央会などが後援しており、「伝統ある日本酒と日本文化の魅力を日本国内外に発信する、美意識と知性を身につけたアンバサダーを選出する」ことを目的としています。選出されたMiss SAKEにより、世界各国で⽇本酒および⽇本の⾷⽂化の啓発・⽇本への観光誘致活動などが行われます。
国内では、「パ酒ポート(パシュポート)」という日本酒普及活動が展開されています。パ酒ポートとは、JTBと北海道のアルコール業界や自治体が開始した取り組みで、日本酒の酒蔵・ワイナリー・ウイスキー醸造所・焼酎醸造所などを巡るスタンプラリー帳BOOKを通じて地域の活性化を図ります。
また、近年では業界全体で品質志向に焦点を当てた動きが活発です。清酒・日本酒の価格帯は他の酒類と比較すると安価であるため、コンテストなどを通じて高価格・高品質の日本酒醸造が推進されています。
清酒酒造・日本酒業界のM&A動向
清酒・日本酒業界では国内需要の減少に伴って廃業を迫られるメーカーも少なくなく、業界でのM&Aは増加傾向にあります。
業界のほとんどを中小企業が占めることから、大手企業による買収に留まらず中小企業同士のM&Aによりノウハウや設備を共有して競争力を高めようとする動きが活発です。
また、後継者不足は清酒・日本酒業界でも課題の一つであり、承継を目的としたM&Aも頻繁に見られます。
清酒酒造・日本酒業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
清酒・日本酒業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手の安定した経営基盤の下で醸造に取り組める
- 買い手の持つ伝統やブランドを承継できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
清酒・日本酒業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 売り手保有するの銘柄を販売できるようになる
- 買い手との事業統合によるスケールメリットを享受できる
- 新規参入の場合、ノウハウや経験のある人材を確保できる
- 売り手の持つ販売網を活用できる
- 酒造技術を共有することで技術の質を高めることができる
清酒酒造・日本酒業界のM&A・売却・買収事例
東洋製罐グループホールディングスとAgnaviの資本業務提携
包装容器事業、エンジニアリング・充填・物流事業、鋼板関連事業、機能材料関連事業、不動産関連事業などを手掛けるグループの持ち株会社である東洋製罐グループホールディングスと、180mL缶入り日本酒ブランド「ICHI-GO-CAN」を展開するAgnaviが資本業務提携を締結しました。
- 実行時期:2022年4月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:日本酒一合缶の充填基盤構築・拡充
リオン・ドールコーポレーションによる栄川酒造のM&A
福島県内を中心に67店舗の食料品主体のスーパーマーケットを運営するリオン・ドールコーポレーションは、福島県会津地方で約150年の業歴を誇る酒造事業者である栄川酒造を第三者割当増資を通じて子会社化しました。
- 実行時期:2021年6月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:自社スーパーマーケットでの酒類販売強化
AFC-HDアムスライフサイエンスによるなすびのM&A
健康食品受託製造、化粧品・医薬部外品の受託製造などを手掛けるAFC-HDアムスライフサイエンスは、飲食店の経営・企画運営事業のほか、静岡県内産日本酒の輸出販売を手掛けるなすびの株式80.2%を取得し、AFC-HDアムスライフサイエンス:なすび=1:57.51の割り当て比率で株式交換を実施しました。
- 実行時期:2021年7月
- スキーム:株式交換
- 取引価額:非公開
- 目的:業務提携関係の強化
公楽による菊の司酒造のM&A
岩手県を中心に飲食事業や遊技場経営、ドローン事業、メガソーラー事業を手掛ける公楽は、1772年創業の老舗酒蔵である菊の司酒造の全株式を取得しました。
- 実行時期:2021年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:商品開発力の強化
キッコーマンによるキリンホールディングスのM&A
醤油を中心に調味料、加工食品事業を手掛けるキッコーマンは、キリンホールディングスから、ブラジルで清酒「東麒麟」や食料品の製造・販売を手掛ける東麒麟飲料食品製造販売の全株式を譲り受けました。
- 実行時期:2020年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:南米への事業展開
友桝ホールディングスによるハクレイ酒造のM&A
ソフトドリンク・健康飲料・酒類の企画・開発・製造・販売を行うグループの持株会社である友桝ホールディングスは、京都の老舗酒造メーカーであるハクレイ酒造の全株式を取得しました。
- 実行時期:2018年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:後継者不在を背景とした事業承継
盛田による銀盤酒造のM&A
食品類や酒類、飲料の製造および販売事業を手掛ける盛田は、1910年に富山県荻生村で創業した酒蔵である銀盤酒造の議決権株式95%を取得して子会社化しました。
- 実行時期:2017年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:5億100万円
- 目的:商品の共同開発
おわりに
本記事のまとめ
清酒・日本酒業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
清酒・日本酒業界では、酒類全体の消費量減少や嗜好の多様化により、清酒・日本酒需要も減少しています。他酒類との競争に打ち勝つため、清酒・日本酒に馴染みがない層へ向けた取り組みや需要が拡大している海外進出が近年加速しています。
このような市場環境下で後継者不足や競争力の低下を解消するための手段として、清酒・日本酒のM&Aは今後ますます活発化すると予想されます。
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