警備業界の業界動向、M&A・売却・買収事例24選
警備業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。警備業界では、警備需要の高まりに反して深刻な人材不足が課題になっています。
本記事では、そうした警備業界の市場動向を解説するとともに、警備業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
警備業界の概要・市場動向
警備業界とは
警備業界とは、依頼者の需要に応じて生命や身体、財産への侵害を警戒・防止する業務を請け負う業界をいいます。
警備業は警備業法第2条によって、施設巡回警備、交通・雑踏警備、貴重品警備、身辺警備に分類されます。個人や団体などの依頼者と警備会社が契約を締結して警備にあたるため、ボランティアや自社社員による巡回などは警備業に該当しません。業務内容や警備対象によっては有資格者による警備を要する場合もあります。
日本での警備業は1962年に日本警備保障株式会社(現セコム株式会社)が開始したと言われており、1964年の東京オリンピックでの警備を契機に警備の必要性が全国的に認識されました。
警備業界の市場動向
警備需要の拡大
警備業界は防犯意識の高まりを受けて、年々警備需要が増加しています。
警察庁生活安全局生活安全企画課「令和3年における警備業の概況」によると、リーマンショックが発生した2008年には3兆3,413億円あった市場規模は、2019年の3兆5,534億円まで緩やかに増加していることが分かります。
直近ではコロナによるイベント中止の影響を受けて市場規模が減少に転じましたが、コロナによる規制緩和や2025年に控える大阪万博の開催に伴い市場の拡大が見込まれています。
警備事業者数や警備員数も増加傾向にあることから、業界全体で警備需要の増加に対応している動きが見られます。
労働環境に起因する人手不足
警備需要の増加に反して、警備業界は人手不足が課題です。
一般社団法人全国警備業界「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」によると、警備会社のうち93%が警備員不足と回答しています。
また、厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年4月分)について」によると、令和4年4月の全業種の有効求人倍率が1.23倍である一方、警備員が該当する「保安の職業」の同倍率は5.67倍であり、他業種と比較しても人材不足が顕著であると言えます。
警備業界の人手不足の要因としては労働環境が挙げられます。警備業界では長時間労働が常態化しており、人材確保のために早急な解決が求められています。
現状では警備需要の増加に人材確保が追いつかず、一人当たりの負担が増すことで労働環境が一層悪化するといった事象が見られます。また、休憩時間中に緊急時の対応を求められた場合は拒否できない場合が多く、長時間労働を助長しています。
現在では、機械化を通じた省人化や各警備員の事情に配慮した多様な働き方など長時間労働の是正に向けた改革が加速しています。
警備の機械化
警備業界では、大手警備会社を中心に警備ロボットやドローンにより労働力に依存する業態からの脱却が図られています。
これらの施策は警備員の人材不足の解決策となるほか、人為的なミスを防ぐことで警備の効率化や高度化も期待されています。
実際、AI・液晶タッチパネル・3Dカメラなどを搭載した自律移動型ロボットやドローンが大手警備会社により導入されています。これらは主に施設巡回警備を担当する場合が多く、警備会社の3分の2は施設巡回業務に従事していることから今後は同分野で機械による警備員の代替が加速すると推測されます。
警備業界のM&A動向
警備業界では、労働力の確保を目的とした同業者同士のM&Aが盛んに行われています。
警備会社は警備業法第21条第2項により、「警備業者は、警備員に対し、警備業務を適正に実施させるため、教育を行うとともに、必要な指導及び監督をしなければならない」と規定されているため、新たに人材を採用した場合は自社で人材育成をしなければなりません。
この点、他社の買収を通じて警備経験の豊富な人材を確保できるため、M&Aにより教育コストの削減も期待できます。
異業種とのM&Aでは、IT・介護・建設業界などの警備との親和性が高い業種とのシナジー効果を期待した事例も見られます。
警備業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
警備業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 対象とする商圏を拡大することができる
- 採用において買い手の知名度を活用できる
- 自社が提供していない分野での警備ノウハウを獲得できる
- 安定した経営基盤の下で人材を育成できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
警備業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 売り手の抱える経験のある人材を確保できる
- 売り手が得意とする分野の警備ノウハウを獲得できる
- 売り手の持つ事業エリアへ事業を拡大できる
- 有資格者を確保することで教育コストを削減できる
- 売り手の顧客層にアプローチできるようになる
警備業界のM&A・売却・買収事例
東洋テック株式会社による五大テック株式会社のM&A
警備事業やビル管理事業を手掛ける東洋テック株式会社は、施設警備やセキュリティシステムの設計・施工・捕手を手掛ける五大テック株式会社の全株式を取得しました。
- 実行時期:2022年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:施設警備業務のノウハウ獲得
綜合警備保障によるALSOKリースのM&A
東京都港区を拠点に警備・セキュリティサービスを手掛ける綜合警備保障は、綜合警備保障グループの顧客に対して、防犯カメラ・出入管理装置などの警備機器、自動火災報知機などの防災設備をはじめとするさまざまな物件のリースおよび割賦販売を手掛けるALSOKリースを吸収合併しました。
- 実行時期:2022年4月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:グループ体制の効率化
セントラル警備保障によるワールド警備保障のM&A
常駐警備や機械警備、輸送警備の事業を手掛けるセントラル警備保障は、宮城県に本社を置く警備会社であるワールド警備保障の株式36%を取得し持株比率を67%に引き上げました。
- 実行時期:2021年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:東北地区での事業拡大
エルテスセキュリティインテリジェンスによるアサヒ安全業務社のM&A
東京都千代田区を拠点に警備DXに関わるソリューションの開発・提供および警備業を手掛けるエルテスセキュリティインテリジェンスは、列車見張業務、雑踏・交通誘導警備業務、施設警備・常駐保安警備などを手掛けるアサヒ安全業務社の全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:警備業でのデジタル化促進
セコムと共栄セキュリティーサービスの資本業務提携
セキュリティサービス、防災、メディカルサービスなどの事業を手掛けるセコムは、施設警備、雑踏・交通誘導警備、ボディーガード事業を手掛ける共栄セキュリティーサービスの株式2.99%を取得し、資本業務提携を実施しました。
- 実行時期:2020年5月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:1億2,748万円
- 目的:警備業務の品質向上
東洋テックによる明成のM&A
警備事業、ビル管理事業を運営する東洋テックは、電気工事や施設警備、メンテナンスなどの事業を運営する明成の全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:電気工事事業のノウハウ獲得
綜合警備保障によるらいふHDのM&A
セキュリティ事業や防災事業の運営を手掛ける綜合警備保障は、介護事業を展開する「らいふ」を中核に、食品検査・衛生管理を主要なサービスとする「エムビックらいふ」を運営するらいふHDの全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:隣接分野への事業拡大
日輪によるライフ・コーポレーションのM&A
愛知県で人材派遣事業を運営する日輪は、愛知県で施設常駐警備事業を運営するライフ・コーポレーションの全株式を取得しました。
- 実行時期:2019年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:警備事業への進出
セントラル警備保障による東亜警備保障のM&A
施設警備などを行うセントラル警備保障は、栃木県内を中心として常駐警備や機械警備等を展開している東亜警備保障を子会社化しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:収益最大化
センコーグループホールディングスによる日制警備保障のM&A
大手物流会社のセンコーグループホールディングスは、大学等での常駐警備を行っている日制警備保障を傘下に収めました。
- 実行時期:2023年02月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:警備事業のさらなる拡大
共栄セキュリティーサービスによる合建警備保障のM&A
警備業を行っている共栄セキュリティーサービスは、四国および関西で警備業を行っている合建警備保障を子会社化しました。
- 実行時期:2023年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:人的警備事業の体制強化
トスネットによるトップロードのM&A
交通誘導警備、および施設警備を主力とするトスネットは、建築関係の警備を中心に行うトップロードを子会社化しました。
- 実行時期: 2023年01月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:警備業等のシナジー効果創出
アウトソーシングによるアーク警備システムおよびアークミライズの2社のM&A
有料職業紹介事業を展開しているアウトソーシングは、交通誘導警備請負業務等を行っているアーク警備システムおよびアークミライズの2社を子会社化しました。
- 実行時期:2021年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:グループの事業安定化と業容拡大
セントラル警備保障によるCSP東北のM&A
常駐警備、機械警備などを行うセントラル警備保障は、警備業務・防犯防災機器の販売を行っているCSP東北を子会社化しました。
- 実行時期:2021年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:収益最大化
トスネットによる北日本警備のM&A
交通誘導警備、および施設警備を主力とするトスネットは、建築関係の警備を中心事業として行う北日本警備を子会社化しました。
- 実行時期: 2019年07月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:2億円
- 目的:シナジー創出
トスネットによるトスネット首都圏およびトスネット茨城のM&A
交通誘導警備、および施設警備を主力とするトスネットは、連結子会社であるトスネット首都圏およびトスネット茨城を吸収合併しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:業務の効率化
ファーストブラザーズによる富士ファシリティサービスのCRE・BPO事業のM&A
アセットマネジメント業務などを行うファーストブラザーズは、ビル運営や警備等を行う富士ファシリティサービスのCRE・BPO事業を新設会社を通して吸収分割しました。
- 実行時期:2022年12月
- スキーム:吸収分割
- 取引価額:非公開
- 目的:事業ポートフォリオの見直し
共栄セキュリティーサービスによるダイトーセキュリティーのM&A
警備業を行っている共栄セキュリティーサービスは、施設警備業務や交通誘導警備業務等を行うダイトーセキュリティーを子会社化しました。
- 実行時期:2022年08月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業拡大
セコムによるセノンのM&A
セキュリティ事業を中心に事業を展開するセコムは、総合セキュリティ企業として事業を展開しているセノンを子会社化しました。
- 実行時期:2022年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:高品質かつ高効率的なサービスを提供
永旺永楽物業服務有限公司による浙江美特来物業管理有限公司のM&A
ファシリティマネジメント事業を行う永旺永楽物業服務有限公司は、警備や設備管理等を行っている浙江美特来物業管理有限公司を子会社化しました。
- 実行時期:2022年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:4億8,400万円
- 目的:医療施設関連の業容拡大
セコムによるADTマレーシアとADTシンガポール2社のM&A
セキュリティ事業を中心に事業を展開するセコムは、セキュリティ事業を展開しているADTマレーシアとADTシンガポール2社を子会社化しました。
- 実行時期:2020年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:海外での業容拡大
セコムによるセコムトセックのM&A
セキュリティ事業を中心に事業を展開するセコムは、東芝グループ各社の工場やオフィスを中心に施設警備を行うセコムトセックを子会社化しました。
- 実行時期:2018年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:約26億円
- 目的:付加価値の高いサービスを開発・提供
セコムによるEagle Eye Networks, Inc.およびBrivo, Inc.2社のM&A
セキュリティ事業を中心に事業を展開するセコムは、VSaaSの米国代表企業のEagle Eye Networks, Inc.およびBrivo, Inc.の第三者割当増資を引受けました。
- 実行時期:2023年05月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:サービスやシステムの進化
エルテスセキュリティインテリジェンスによるAnd SecurityのM&A
デジタルリスク対策の先駆者のエステルグループのエルテスセキュリティインテリジェンスは、常駐保安警備等を提供しているAnd Securityを子会社化しました。
- 実行時期:2020年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:6億5千万円
- 目的:2号警備の領域へデジタルテクノロジーを融合
おわりに
本記事のまとめ
警備業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
警備業界は、防犯意識の高まりとともに警備需要が増加している一方で、労働環境を理由に人材確保が追いついていない状況です。また多様な警備需要に対応するために大手企業では警備の機械化が進行しています。
警備人材の教育コストや機械化に向けた事業投資には安定した事業基盤と巨額の資本を必要とするため、今後警備業界では大手警備会社による中小企業の買収がさらに加速すると考えられます。
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