調剤薬局のM&A動向・売却・買収案件事例、失敗しないポイント

調剤薬局業界は個人、法人経営を問わずM&Aが活発な業界です。一方、買い手と売り手ではM&Aを選択する目的が異なり、それぞれメリットやデメリットを把握したうえでM&Aに望むことが重要です。
本記事では、そうした調剤薬局業界の市場動向を解説するとともに、調剤薬局におけるM&Aのメリットや、M&A・売却・買収事例を、売り手・買い手それぞれの立場からまとめてご紹介します。
調剤薬局業界の概要・市場動向
調剤薬局業界とは
調剤薬局は、調達した医薬品を、患者が医療機関から交付された処方箋に基づき調剤し、提供する役割を担います。調剤薬局を開くには、都道府県知事の許可や管理者の設置などが義務付けられています。
対価として患者に調剤報酬を請求しますが、この調剤報酬の7~9割は医療保険者から支払われており、残りが患者負担分となっています。
調剤薬局は、主に医薬品メーカーや医薬品卸から医薬品を調達しており、医薬品メーカーなどからの調達価格と、厚生労働大臣が告示する医薬品の定価である薬価(公定価格)との差額は薬価差益と呼ばれ、調剤薬局の収益源の1つとなっています。


調剤薬局業界の市場動向
薬剤師の確保が課題
調剤薬局では、薬剤師1人当たりの処方せん枚数が40枚/日と制限されていることで、規模拡大に向けては薬剤師の採用が不可欠になっています。
一方、調剤薬局業界は学校教育法改正および薬剤師法改正によって2006年から薬学部が4年制から6年制に移行したことを背景に慢性的な薬剤師不足に陥っている業界です。
製薬会社、病院、大手ドラッグストアなどが薬剤師を積極採用している中で、薬剤師の確保には多額の採用費や教育費が必要となっているのが現状です。


店舗立地が優勝劣敗を左右
日本では、医薬分業の動きの高まりを背景に約7割の医療機関が院外処方をしています。そのため、調剤薬局は医療機関で処方せんを交付された患者をいかに薬局店舗に呼び止めるかが重要となっています。
2015年に内閣府が行った「医薬分業に関するアンケート調査」では、69.1%の方が医療機関からなるべく近い薬局に行くと回答しており、より多くの患者を捕捉するために、医療機関からの動線は調剤薬局にとって重要な要素となっています。
診療報酬や調剤制度改正の影響
近年の診療報酬制度の改正では、処方箋の受付回数や、特定の医療機関からの調剤率に応じた調剤報酬料を引き下げる旨が明記されました。
これによって、病院の前に店舗を構える門前薬局や、グループを形成する薬局などへの影響が想定されています。
制度の改正が行われた背景には後発医薬品(ジェネリック)への切り替えや、かかりつけ薬局の推進などが深く関係しています。後発医薬品に切り替えることで、薬価の値下がりによる利益減少を抑えることが可能になります。
調剤薬局業界のM&A動向
調剤薬局業界は、業界上位10社の占有率が約1割強と、大手占有率が低い業界で、小規模事業者が多数存在することが特徴の業界です。
OTC医薬品の販売規制緩和による異業種との競合や、慢性的な薬剤師不足、薬価の引き下げなど、外部環境が厳しい中、経営資源が豊富でない小規模事業者は、M&Aを積極的に活用し大手薬局チェーンの傘下に入ることで、店舗の存続を図る事例が見られます。
また、大手薬局チェーンについても、調剤報酬改定による収益減を規模で補うために、積極的に資本提携先を探している様子がみられています。
こうした背景から、今後も調剤薬局業界におけるM&Aの取引件数は引き続き増加していくことが見込まれます。
調剤薬局業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
調剤薬局のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 大手資本傘下で安定的な事業経営ができる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し従業員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット
調剤薬局のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 医薬品の購入などにおいてスケールメリットを享受できる
- 資格保有者(薬剤師)などの優秀な人材を確保できる
- 好立地な店舗物件を獲得できる
- (株式譲渡の場合)開設許可などの手続きを省略できる

調剤薬局のM&A・売却・買収事例
クオールホールディングスによる勝原薬局のM&A
全国に薬局796店舗・医療機関内売店21店舗を展開するクオールグループ(クオールHDは持株会社)は、兵庫県姫路市を中心に薬局11店舗を運営する勝原薬局の全株式を取得し、完全子会社化しました。
- 実行時期:2021年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:かかりつけ薬局としての地域医療に貢献を通じた企業価値向上

ツルハホールディングスによるJR九州ドラッグイレブンのM&A
薬局併設型ドラッグストアや介護ショップなどを全国展開するツルハホールディングスは、九州地方でドラッグストア・薬局228店舗を運営するJR九州ドラッグイレブンの発行済株式の51%を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:140億円
- 目的:九州・沖縄地域でのドミナント強化、共同仕入れや経営資源共有によるコスト削減

ウエルシアホールディングスによるネオファルマーとサミットのM&A
薬局併設型を含むドラッグストアを全国展開するウエルシアホールディングスは、愛媛県を中心に地域密着型の薬局を展開しているネオファルマーとサミットの発行済株式の100%を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年7月
- スキーム:株式譲渡、吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:四国地域での店舗網拡大、調剤事業推進、共同仕入れによるコスト削減

マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合
全国に薬局併設型ドラッグストアなどを展開するマツモトキヨシホールディングスと、ドラッグストアや薬局1,444店舗を全国展開し、訪問介護やサービス付き高齢者住宅運営なども手掛けるココカラファインは、地域包括ケアシステム構築の推進役となることなどを目的として、経営統合に合意しました。
- 実行時期:2021年2月
- スキーム:株式交換、会社分割
- 取引価額:非公開
- 目的:相互の顧客基盤を活用したマーケティング体制やアジア地域の事業基盤確立


中部薬品によるアオイ薬局のM&A
岐阜県・愛知県を中心にドラッグストア・薬局を展開する中部薬品は、岐阜県羽島郡と加茂郡で薬局2店舗を運営するアオイ薬局の発行済株式の100%を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:岐阜県周辺地域でのドミナント出店を通じたヘルスケアネットワーク構築
寛一商店による共生商会のM&A
京都市に拠点を置き、薬局48店舗を展開する寛一商店は、青森市などで薬局4店舗を運営する共生商会の株式を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:東北エリア進出の推進

地域ヘルスケア連携基盤によるベストシステムのM&A
病院・薬局・訪問看護などのヘルスケア分野の企業に対し、医療現場の視点に立った経営支援を手掛ける地域ヘルスケア連携基盤は、静岡県浜松市を拠点に薬局9店舗を運営するベストシステムの株式を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2021年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域包括ケアシステムの担い手としての企業グループへの発展
おわりに
本記事のまとめ
調剤薬局業界のM&A・売却・買収事例や業界動向についてご紹介しました。
調剤薬局業界は業界全体として大きな転換期を迎えており、今後さらなる業界再編が加速する業界です。大手チェーンによるM&Aだけでなく、中堅・中小調剤薬局においてもM&Aを積極的に活用する動きが見られ、また、ファンドによる投資も活発化しつつあります。
今後は買い手、売り手のいずれにおいても、M&Aを経営戦略上どのように活用して発展していくか、積極的に検討していくことが求められています。

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