病院・クリニックの業界動向、M&A・売却・買収事例24選!

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病院・クリニック業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。病院・クリニック業界は、医師の高齢化や高齢化に伴う後継者問題を課題とする業界です。

本記事では、そうした病院・クリニック業界の市場動向を解説するとともに、病院・クリニック業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。

目次

病院・クリニック業界の概要・市場動向

病院・クリニック業界とは

病院・クリニック業界とは、医師や歯科医師などが患者に医業を提供する事業を営む業界をいいます。

病院とクリニックは病床数によって区別されており、病床の数が20床以上の医療施設は病院、20床未満の医療施設をクリニックとして分類されます。

病院の形態には国立、公的医療機関、医療法人などがあります。

医療法人とは、病院や、医師・歯科医師が常時勤務している診療所・介護老人保健施設の設立を目的として医療法に基づき設立される法人を指します。

病院・クリニックの市場動向

医師の高齢化

病院・クリニック業界では、医師の高齢化が問題視されています。

厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、病院に従事する医師の平均年齢は平成2年には40.3歳でしたが、令和2年には45.1歳まで一貫して上昇しています。

診療所に従事する医師の平均年齢は平成4年の58.7歳から平成16年には58.0歳まで低下しましたが、令和2年にかけて60.2歳まで上昇しています。

国内での医師不足

日本では医師不足も課題とされています。

OECDによると、2020年において加盟国の中で1,000人当たりの医師数が最も多いのはオーストリアで5.35人です。日本では2.6人とされておりOECDの平均値よりも国民あたりの医師数が少ないことが分かります。

医師数は平成2年の211,797人から令和2年の339,623人まで約1.5倍増加していますが、高齢化による医療需要の増加ペースに追いついていない状況です。

厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第19回)」では将来にわたる医療の需給推計が行われおり、医療需要が上振れた場合には2033年頃に医師数と医療需要が均衡すると推測されています。

需給が均衡する2033年時点での1,000人当たりの医師数は3.1人とされており(日本医師会総合政策研究機構 前田由美子「医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-」)、現在は医師不足であることがうかがえます。

後継者不足による休廃業

各医療機関では代表の高齢化が進行することで、休業・廃業・解散数が増加しています。

帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」によると、医療機関の休廃業・解散数は2016年の469件から2021年には567件まで増加しています。業態別の内訳をみると診療所が最も多く、375件から471件まで増加しています。

いずれの年も休廃業・解散の件数は倒産件数の10倍以上となっており、後継者不足が深刻化していることが分かります。

医療機関の代表者のうち70歳以上の割合は、病院で50.4%、診療所で42.0%です。病院の場合は組織自体が大きいことや理事長と院長が別に設置されていることで後継者候補が既に存在するケースが多いですが、診療所では小規模で開業医一代で廃業する意向を持つ代表者が多いことが原因です。

現在、地域間で医療格差が見られます。厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」では、都道府県別にみた人口10万人当たりの医師数は最多の徳島県で338.4人である一方、埼玉県では177.8人、茨城県では193.8人、新潟県では204.3人とされています。

地方を拠点にする診療所も多いことから、今後も診療所の休廃業・解散が進行した場合、地域間の医療格差が一層拡大することが懸念されます。

診療報酬の引き下げ

病院・クリニックは診療報酬の改定により収益が大きく変動します。

診療報酬とは、診療に対する対価として受け取る報酬を指します。医療機関が保険診療として提供したサービスに対して、厚生労働省大臣が中央保険医療協議会に諮問して設定された報酬が支払われます。

診療報酬は2年ごとに改訂され、医療機関自身で価格を設定することはできません。

診療報酬は医師の診察や手術などの技術料(本体部分)と、薬剤や治療材料などの価格(薬価部分)に分類され、それぞれ数千以上の項目において点数化されています。

近年は医療費抑制の動きや、ジェネリック医薬品の普及により薬価部分は一貫してマイナス改定が継続しています。2010年代には本体部分がプラス改訂されましたが、増税を加味すると実質的にはマイナス改定になります。

診療報酬は、特定の診療を普及させたいときにプラス改訂を行い、その診療がある程度普及した段階でその改定分を修正するといった形で政策誘導としても用いられます。

これは医療機関からすると報酬の先読みができない要因になるため、医師が開業する際の懸念点になり得るというデメリットがあります。

病院・クリニックのM&A動向

病院・クリニック業界では、既存の診療科目ではカバーできていない分野を得意とする病院・クリニックを対象としたM&Aが頻繁に見られます。

また、医療需要の急拡大が見込まれるアジア圏への事業拡大を図って海外現地の医療法人を買収する病院・クリニックも増加しています。

近年では同業者以外にも、業務の効率や医療の高度化への対応を促進するためにIT関連企業を買収する動きが加速しています。

病院・クリニックにおけるM&Aのメリット

売り手のメリット

病院・クリニック業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 患者に継続して医療サービスを提供できる
  • 買い手との間で医師や看護師を融通できる
  • 買い手の資本力を活用して設備や機器へ投資できる
  • 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
  • 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
  • M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット

病院・クリニック業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 医師や看護師を確保できる
  • 新たな地域へ進出できる
  • 経験豊富な人材を確保できる
  • 施設や設備をそのまま活用できる
  • 診療科目を拡充できる

病院・クリニックのM&A・売却・買収事例

徳洲会によるベテル泌尿器科クリニックのM&A

全国に計340施設の病院・クリニック・介護老人保健施設・訪問看護ステーション・介護福祉関係施設を展開する医療法人グループである徳洲会は、札幌市北区にある泌尿器科の有床診療所であるベテル泌尿器科クリニックから事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2022年3月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:非公開

医療法人社団竜山会による藤井病院事業のM&A

金沢市で病院を運営する医療法人社団竜山会は、不正請求により保険医療機関指定取り消しの処分を受けていた医療法人社団博洋会から藤井病院を譲り受けました。

  • 実行時期:2021年6月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:医療サービスの継続

豊栄会によるきゅう眼科医院のM&A

埼玉・東京で複数の眼科クリニックを展開する医療法人である豊栄会は、静岡市で緑内障・白内障・網膜硝子体疾患・ロービジョンを中心に最新設備による診療を行う眼科医院であるきゅう眼科医院から事業を承継しました。

  • 実行時期:2020年1月
  • スキーム:非公開
  • 取引価額:非公開
  • 目的:医療高度化への対応

アルム・天太会とエヌアイデイによる資本業務提携

医療・介護向けモバイルICTツール開発などの事業を手掛けるアルムと、アルムとの業務・資本提携により最先端ITサービスを取り入れたクリニック・健診センターを展開する医療法人である天太会は、ITソリューションやソフトウェア開発、ITインフラ構築などの事業を手掛けるエヌアイデイと資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2019年5月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:AIソリューションの開発

三井物産によるIHH Healthcare BerhadのM&A

大手総合商社である三井物産は、アジア最大手の民間病院グループであるIHH Healthcare Berhadの株式を取得しました。

  • 実行時期:2018年11月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:ヘルスケア分野での事業拡大

DYM Medical ServiceによるセントラルグリーンジャパニーズクリニックのM&A

WEBコンサルティング事業・人材関連事業・海外医療事業を展開するDYMのタイ関連会社でタイで内科診療や小児科診療を手掛けるDYM Medical Serviceは、タイで日本人向け検診施設を運営するセントラルグリーンジャパニーズクリニックを買収しました。

  • 実行時期:2018年1月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:婦人科診療や定期検診の開始

メディカルネットによるSuccess SoundのM&A

歯科医療情報ポータルサイトの運営や、歯科クリニックの経営支援、歯科関連企業のマーケティング支援などを手掛けるメディカルネットは、タイのバンコクで歯科クリニックを運営するSuccess Soundの株式を取得しました。

  • 実行時期:2017年8月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:海外における歯科医療関連事業の展開

メモリードによる医療法人社団健若会のM&A

葬祭関連施設の運営等を行うメモリードは、がん、老化、免疫強化、認知症等の予防医療を行っている医療法人社団健若会を子会社化しました。

  • 実行時期:2023年5月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:売上・利益の拡大

医療法人社団萌彰会による松本病院のM&A

大阪市福島区の医療法人社団萌彰会は、24時間365日救急・急患の診療を行ってた松本病院を子会社化しました。

  • 実行時期:2022年3月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:事業継続

医療法人渡部会によるららら歯科医院のM&A

荒木健太朗先生による医療法人渡部会は、歯科を専門とするららら歯科医院の経営及び運営を担う事となりました。

  • 実行時期:2021年12月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:不明

医療法人社団生和会による日本郵政の広島逓信病院のM&A

医療・介護の分野に強みのある医療法人社団生和会は、日本郵政の運営する広島逓信病院を譲り受けました。

  • 実行時期:2022年9月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:経営状態改善

医療法人社団心紲会による医療法人社団十二会のセルリアンタワーイセアクリニックのM&A

東京イセアクリニック銀座院を運営する医療法人社団心紲会は、医療法人社団十二会よりセルリアンタワーイセアクリニックの事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2021年10月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:不明

医療法人桂名会による西日本電信電話のNTT西日本東海病院のM&A

名古屋市を中心に病院を展開する医療法人桂名会は、西日本電信電話の持つNTT西日本東海病院の事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2021年10月1日
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:地域医療への更なる貢献

くにもと病院による丸谷病院のM&A

大腸肛門病専門病院のくにもと病院は、同じ旭川市内で地域医療を担う丸谷病院と経営統合をしました。

  • 実行時期:2021年5月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:病床規模拡大

医療法人祐生会による医療法人博愛会の博愛茨木病院・博愛城北病院のM&A

地域支援病院の医療法人祐生会は、医療法人博愛会より博愛茨木病院・博愛城北病院を譲り受けました。

  • 実行時期:2020年4月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:地域医療への貢献

社会医療法人真泉会による西日本電信電話のNTT西日本松山病院のM&A

今治第一病院を持つ社会医療法人真泉会は、西日本電信電話のNTT西日本松山病院を譲り受けました。

  • 実行時期:2020年12月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:地域医療への更なる貢献

ユニゾン・キャピタルによる社会医療法人熊谷総合病院のM&A

幅広い業界への投資を行う投資会社のユニゾン・キャピタルは、地域に根差した社会医療法人熊谷総合病院に対して経営支援を行うことになりました。

  • 実行時期:2020年6月
  • スキーム:不明
  • 取引価額:非公開
  • 目的:新たな地域ケアモデルの創出

沖縄徳洲会による木下会のM&A

多数の病院クリニックを沖縄・鹿児島を中心に運営する沖縄徳洲会は、総合病院や介護老人保健施設を運営する木下会を吸収合併しました。

  • 実行時期:2019年12月
  • スキーム:吸収合併
  • 取引価額:非公開
  • 目的:経営の合理化およびガバナンスの強化

ときわ会による翔洋会の医療・介護事業のM&A

病院、クリニック、介護老人保健施設などを手掛けるときわ会は、民事再生中である翔洋会の医療・介護事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2019年8月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:12億4,300万円
  • 目的:医療提供体制・健診機能の向上

日本赤十字社による兵庫県立柏原病院および柏原赤十字病院のM&A

日本赤十字社は、がん支援センターや脳外科神経外科などの専門医療を行う兵庫県立柏原病院および柏原赤十字病院を統合しました。

  • 実行時期:2019年7月
  • スキーム:不明
  • 取引価額:非公開
  • 目的:医療設備の充実

医療法人徳洲会による学校法人東海大学の大学付属大磯病院のM&A

グループ全体で約400施設を展開する医療法人徳洲会は、学校法人東海大学の大学付属大磯病院を譲り受けました。

  • 実行時期:2023年3月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:地域医療の継続

医療法人警和会による西日本電信電話のNTT西日本大阪病院のM&A

医療法人警和会は、西日本電信電話が運営するNTT西日本大阪病院を譲り受けました。

  • 実行時期:2019年4月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:地域医療へのさらなる貢献

エスアールエルによる社会医療法人愛仁会の臨床検査事業のM&A

検体検査分野にて愛仁会との協力体制をもつエスアールエルは、大阪府の社会医療法人愛仁会が杏和総合医学研究所で手掛ける臨床検査事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2018年4月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:阪神地域における事業拡大

医療法人社団緑野会による東芝の東芝病院のM&A

カマチグループに所属する神奈川県の医療法人社団緑野会は、電機メーカーの大手企業である東芝が運営する東芝病院の全事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2018年3月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:285億円
  • 目的:地域医療への貢

おわりに

本記事のまとめ

病院・クリニック業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。

病院・クリニック業界は医師の高齢化が進行しており、特にクリニックでは後継者を見つけられずに休廃業、解散する事例が増加しています。

現状では医療需要が供給を上回っていますが、診療報酬の引き下げにより収益をコントロールできない状況です。

今後は、診療科目の細分化や医療の高度化に対応するために、他業種とのM&Aも活発化すると予想されます。

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