医薬品卸業界のM&A・売却・買収事例、業界動向

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医薬品卸業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。医薬品卸業界は、利益率が低いことから関連業種との連携による利益改善が求められている業界です。

本記事では、そうした医薬品卸業界の市場動向を解説するとともに、医薬品卸業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。

目次

医薬品卸業界の概要・市場動向

医薬品卸業界とは

医薬品卸業界とは、製薬会社から医薬品を仕入れてドラッグストア・調剤薬局・病院などに卸す業界をいいます。

医薬品は、病院や調剤薬局などに販売する医療用医薬品と、ドラッグストアなどに販売する一般医薬品に分類されます。

医療用医薬品の9割以上は、医薬品卸会社を経由して医療機関や薬局に流通しており、残りは製薬会社が直接販売しています。一方、一般医薬品の5割は医薬品卸会社を経由して流通しており、残り5割は製薬会社が直接販売しています。

医薬品業界特有の職種として、MSやMRがあります。

MSはMarketing Specialistの略称で、マーケティングの観点から医薬品流通に携わっている医薬品卸会社の営業職を指します。MRはMedical Representativeの略称で、メディカルの観点から医薬情報の提供に携わっている製薬会社の営業職を指します。

医薬品卸業界の市場動向

薄利体質の利益構造

医薬品卸業界は、業界再編が進行したことでスケールメリットを享受しているにもかかわらず薄利体質により利益の確保が困難な状況に陥っています。

日本医薬品卸売業連合会「日本医薬品卸売業連合会会員構成・本社数推移」によると、2002年に175社あった本社数は2018年には72社まで減少しました。その後、2022年まで70社程度で推移していることから医薬品卸業界の業界再編は一定水準まで完了したことがうかがえます。

本来は業界再編により利益構造の改善に繋がることが期待されますが、医薬品業界では薄利体質が継続しています。

日本医薬品卸売業連合会「医薬品卸売業の経営概況(令和4年版)」によると、2018から2020年の営業利益率はいずれも1%程度で推移しており十分な利益を確保できない状態は改善されていません。

この背景には、医薬品卸業者が、納入価格を引き下げて薬価との差益を確保したい医療機関と、販売価格の引き下げを嫌い薬価を引き上げたい製薬会社との間で板挟みになっていることが挙げられます。

また、2003年以降は仕切価(医薬品卸売業者が製薬会社から仕入れる価格)が納入価(医薬品卸売業者が医療機関に販売する価格)よりも高くなり、医薬品を販売するほど赤字が拡大する状況が続いています。

実際は、取引量に応じて代金の割り戻しや値引き(リベート)が行われたり、医療機関への販売実績に基づいた報奨金(アローワンス)が支払われることで採算を保っています。

厚生労働省はこうした商慣行を問題視して2018年に「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」を作成しました。同ガイドラインでは、製薬会社が市場の需給に基づいて仕切価を定めることや、アローワンスを当初より仕切価に含めることなどが求められています。

仕切価と納入価のマイナス幅は徐々に解消されていますが、今後も医薬品卸会社・製薬会社・医療機関の三者間で利益が適切に確保されるような調整が求められています。

流通システムの改善が課題

医薬品卸業界の利益率が低い要因として流通システム面での負担も挙げられます。

医薬品卸業者は製薬会社と医療機関の仲介役を担うため、医薬品卸の通常業務のほか医薬品に問題があった場合は代替品の確保などの業務負担が増加します。

近年では後発医薬品が普及(日本医薬品卸売業連合会「医療用医薬品に占める後発医薬品のシェア」)したことで後発医薬品の回収件数が増加しており、代替品の確保に加えて在庫の管理、供給スケジュールの調整など物流面での負担が通常業務を圧迫しています。中田雄一郎、勢力麻維による「医薬品の自主回収の状況」では2017年から2019年にかけて自主回収件数、自主回収品目数が共に増加していることが分かります。

コロナ禍ではコロナワクチンの供給も卸事業者にとっては大きな業務負担となっており、利益改善には円滑な流通システムを構築することが不可欠です。

調剤薬局への展開が活発

近年では、大手医薬品卸会社による調剤薬局への展開が活発化しています。調剤薬局事業の利益率は医薬品卸事業よりも高く、関連事業であることから業務上のシナジーも期待されます。

500店舗以上の調剤薬局を抱える事業者も存在しており、今後も両事業間での協業が加速すると見込まれます。

医薬品卸業界のM&A動向

医薬品卸業界は、前述の通り業界再編がほとんど完了しており、大手4社で90%近くのシェアを占めています。

医薬品卸事業単体での差別化は困難であることから、今後は物流網を拡大するために物流事業を手掛ける企業とのM&Aが加速すると考えられます。

また関連業種である調剤薬局・ドラッグストアなどとの垂直統合を目的としたM&Aも増加しています。

医薬品卸業界におけるM&Aのメリット

売り手のメリット

医薬品卸業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 買い手と仕入れや物流を統合できる
  • 買い手の顧客網を取り込むことができる
  • 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
  • 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
  • M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット

医薬品卸業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 売り手の顧客網を取り込むことができる
  • 物流網を強化することで効率的な運営を実現できる
  • 関連業種を買収する場合、仕入れから販売までを統合できる

医薬品卸業界のM&A・売却・買収事例

アルフレッサとプレシジョンの資本提携

医薬品・医療用検査試薬・医療用機器などの卸業を手掛けるアルフレッサと、医療にAIをかけ合わせたAI問診やデジタルの医療教科書などの制作を手掛けるプレシジョンは資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2022年4月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:医師の負担軽減

東邦HDとセルージョンの資本業務提携

医薬品卸売事業・調剤薬局事業・医薬品製造販売事業などを手掛ける東邦HDと、水疱性角膜症の治療を目的とするiPS細胞を利用した角膜内皮再生医療を手掛けるセルージョンは資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2022年1月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:スペシャリティ医薬品への取り組み強化

メディカルネットによるオカムラ・ノーエチ薬品のM&A

インターネットを活用した医療・生活関連情報サービスを手掛けるメディカルネットは、大手ドラッグストアや調剤薬局などへのドラッグストア専売品やプライベートブランド商品などの卸売事業を手掛けるオカムラ・ノーエチ薬品の全株式を取得しました。

  • 実行時期:2021年4月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:OTC医薬品の開発・ 製造

スズケンとドクターズとの資本業務提携

医療用医薬品の卸売を中心に医薬品の研究・開発・製造、医薬品メーカー支援、保険薬局、介護などを手掛けるスズケンと、デジタルヘルスケアサービスの企画・開発から医療機関への流通・販売までをワンストップで支援するドクターズは資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2020年11月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:デジタルヘルスケアサービスの全国展開

スズケンとUbieの資本業務提携

医療用医薬品の卸売を中心に医薬品の研究・開発・製造、医薬品メーカー支援、保険薬局、介護などを手掛けるスズケンは、医療AIスタートアップであるUbieの株式約10%を取得して、資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2020年4月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:医療ソフトウェア分野でのビジネス構築

メディパルホールディングスとJCRファーマの資本業務提携

医薬品卸大手であるメディパルホールディングスは、GLAXO GROUP LIMITEDから国内バイオベンチャーであるJCRファーマの株式22.5%を取得して資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2017年9月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:創薬力の獲得

ニュートリーによるニュートリション事業のM&A

三井製糖株式会社の連結子会社で病気の方のためのサポート食品を製造するニュートリーは、スズケンの連結子会社である三和化学研究所からニュートリション事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2016年9月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:開発力の強化

おわりに

本記事のまとめ

医薬品卸業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。

医薬品卸業界は、大手事業者による業界再編が進んだものの医薬品業界全体の商慣行は継続されており、現在も利益率の低さが課題となっている業界です。

今後は同業種との水平統合に留まらず、調剤薬局などの関連業種を含めた水平統合の活発化が予想されています。

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