調剤薬局のM&A動向・売却・買収案件事例30選、失敗しないポイント
調剤薬局業界は個人、法人経営を問わずM&Aが活発な業界です。一方、買い手と売り手ではM&Aを選択する目的が異なり、それぞれメリットやデメリットを把握したうえでM&Aに望むことが重要です。
本記事では、そうした調剤薬局業界の市場動向を解説するとともに、調剤薬局におけるM&Aのメリットや、M&A・売却・買収事例を、売り手・買い手それぞれの立場からまとめてご紹介します。
調剤薬局業界の概要・市場動向
調剤薬局業界とは
調剤薬局は、調達した医薬品を、患者が医療機関から交付された処方箋に基づき調剤し、提供する役割を担います。調剤薬局を開くには、都道府県知事の許可や管理者の設置などが義務付けられています。
対価として患者に調剤報酬を請求しますが、この調剤報酬の7~9割は医療保険者から支払われており、残りが患者負担分となっています。
調剤薬局は、主に医薬品メーカーや医薬品卸から医薬品を調達しており、医薬品メーカーなどからの調達価格と、厚生労働大臣が告示する医薬品の定価である薬価(公定価格)との差額は薬価差益と呼ばれ、調剤薬局の収益源の1つとなっています。
調剤薬局業界の市場動向
薬剤師の確保が課題
調剤薬局では、薬剤師1人当たりの処方せん枚数が40枚/日と制限されていることで、規模拡大に向けては薬剤師の採用が不可欠になっています。
一方、調剤薬局業界は学校教育法改正および薬剤師法改正によって2006年から薬学部が4年制から6年制に移行したことを背景に慢性的な薬剤師不足に陥っている業界です。
製薬会社、病院、大手ドラッグストアなどが薬剤師を積極採用している中で、薬剤師の確保には多額の採用費や教育費が必要となっているのが現状です。
店舗立地が優勝劣敗を左右
日本では、医薬分業の動きの高まりを背景に約7割の医療機関が院外処方をしています。そのため、調剤薬局は医療機関で処方せんを交付された患者をいかに薬局店舗に呼び止めるかが重要となっています。
2015年に内閣府が行った「医薬分業に関するアンケート調査」では、69.1%の方が医療機関からなるべく近い薬局に行くと回答しており、より多くの患者を捕捉するために、医療機関からの動線は調剤薬局にとって重要な要素となっています。
診療報酬や調剤制度改正の影響
近年の診療報酬制度の改正では、処方箋の受付回数や、特定の医療機関からの調剤率に応じた調剤報酬料を引き下げる旨が明記されました。
これによって、病院の前に店舗を構える門前薬局や、グループを形成する薬局などへの影響が想定されています。
制度の改正が行われた背景には後発医薬品(ジェネリック)への切り替えや、かかりつけ薬局の推進などが深く関係しています。後発医薬品に切り替えることで、薬価の値下がりによる利益減少を抑えることが可能になります。
調剤薬局業界のM&A動向
調剤薬局業界は、業界上位10社の占有率が約1割強と、大手占有率が低い業界で、小規模事業者が多数存在することが特徴の業界です。
OTC医薬品の販売規制緩和による異業種との競合や、慢性的な薬剤師不足、薬価の引き下げなど、外部環境が厳しい中、経営資源が豊富でない小規模事業者は、M&Aを積極的に活用し大手薬局チェーンの傘下に入ることで、店舗の存続を図る事例が見られます。
また、大手薬局チェーンについても、調剤報酬改定による収益減を規模で補うために、積極的に資本提携先を探している様子がみられています。
こうした背景から、今後も調剤薬局業界におけるM&Aの取引件数は引き続き増加していくことが見込まれます。
調剤薬局業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
調剤薬局のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 大手資本傘下で安定的な事業経営ができる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し従業員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
調剤薬局のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 医薬品の購入などにおいてスケールメリットを享受できる
- 資格保有者(薬剤師)などの優秀な人材を確保できる
- 好立地な店舗物件を獲得できる
- (株式譲渡の場合)開設許可などの手続きを省略できる
調剤薬局のM&A・売却・買収事例
クオールホールディングスによる勝原薬局のM&A
全国に薬局796店舗・医療機関内売店21店舗を展開するクオールグループ(クオールHDは持株会社)は、兵庫県姫路市を中心に薬局11店舗を運営する勝原薬局の全株式を取得し、完全子会社化しました。
- 実行時期:2021年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:かかりつけ薬局としての地域医療に貢献を通じた企業価値向上
ツルハホールディングスによるJR九州ドラッグイレブンのM&A
薬局併設型ドラッグストアや介護ショップなどを全国展開するツルハホールディングスは、九州地方でドラッグストア・薬局228店舗を運営するJR九州ドラッグイレブンの発行済株式の51%を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:140億円
- 目的:九州・沖縄地域でのドミナント強化、共同仕入れや経営資源共有によるコスト削減
ウエルシアホールディングスによるネオファルマーとサミットのM&A
薬局併設型を含むドラッグストアを全国展開するウエルシアホールディングスは、愛媛県を中心に地域密着型の薬局を展開しているネオファルマーとサミットの発行済株式の100%を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年7月
- スキーム:株式譲渡、吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:四国地域での店舗網拡大、調剤事業推進、共同仕入れによるコスト削減
マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合
全国に薬局併設型ドラッグストアなどを展開するマツモトキヨシホールディングスと、ドラッグストアや薬局1,444店舗を全国展開し、訪問介護やサービス付き高齢者住宅運営なども手掛けるココカラファインは、地域包括ケアシステム構築の推進役となることなどを目的として、経営統合に合意しました。
- 実行時期:2021年2月
- スキーム:株式交換、会社分割
- 取引価額:非公開
- 目的:相互の顧客基盤を活用したマーケティング体制やアジア地域の事業基盤確立
中部薬品によるアオイ薬局のM&A
岐阜県・愛知県を中心にドラッグストア・薬局を展開する中部薬品は、岐阜県羽島郡と加茂郡で薬局2店舗を運営するアオイ薬局の発行済株式の100%を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:岐阜県周辺地域でのドミナント出店を通じたヘルスケアネットワーク構築
寛一商店による共生商会のM&A
京都市に拠点を置き、薬局48店舗を展開する寛一商店は、青森市などで薬局4店舗を運営する共生商会の株式を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2020年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:東北エリア進出の推進
地域ヘルスケア連携基盤によるベストシステムのM&A
病院・薬局・訪問看護などのヘルスケア分野の企業に対し、医療現場の視点に立った経営支援を手掛ける地域ヘルスケア連携基盤は、静岡県浜松市を拠点に薬局9店舗を運営するベストシステムの株式を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2021年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域包括ケアシステムの担い手としての企業グループへの発展
クオールホールディングスによる北摂調剤のM&A
全国に保険薬局を展開するクオールホールディングスは、関西にて調剤薬局を8店舗運営している北摂調剤を子会社化しました。
- 実行時期: 2022年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:クオールHDの持つICT等のリソース活用
地域ヘルスケア連携基盤によるフラントのM&A
ヘルスケア分野における経営支援を展開している地域ヘルスケア連携基盤は、調剤薬局11店舗の運営を行っているフラントを子会社化しました。
- 実行時期: 2022年09月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:調剤薬局との連携強化
日本調剤による仁生堂のM&A
調剤薬局チェーン展開している日本調剤は、調剤薬局の経営を行っている仁生堂を吸収合併しました。
- 実行時期:2022年10月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:調剤薬局事業を一元管理するため管理機能の強化
アインホールディングスによるファーマシィホールディングスのM&A
調剤薬局およびコスメ・ドラッグストアを運営するアインホールディングスは、調剤薬局の運営を行う事業会社の経営・管理を行うファーマシィホールディングスを子会社化しました。
- 実行時期:2022年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:店舗網の拡充と患者サービスの拡大
ココカラファインによるイー・ウェル、ウェル・サポート、メディカル・サポート3社のM&A
ドラッグストアチェーンのココカラファインは、三重県で調剤薬局を運営しているイー・ウェル、ウェル・サポート、メディカル・サポートの3社を子会社化しました。
- 実行時期:2021年07月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域におけるヘルスケアネットワークの構築
クオールホールディングスによるケーアイ調剤薬局のM&A
調剤薬局事業と医療関連事業を展開しているクオールホールディングスは、調剤薬局8店舗の運営を行っているケーアイ調剤薬局を子会社化しました。
- 実行時期:2021年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域医療、在宅医療へのさらなる貢献
廣辯によるテーオー総合サービスのケアサービス事業のM&A
福祉用具貸与・特定福祉用具販売事業などを本事業とする廣辯は、テーオー総合サービスが運営するケアサービス事業および運営する不動産賃貸事業の一部を吸収分割しました。
- 実行時期:2021年4月
- スキーム:吸収分割
- 取引価額:非公開
- 目的:安定的なサービス供給および対象事業のさらなる成長
ココカラファインヘルスケアによるルーカスの調剤薬局事業のM&A
ドラッグストア・調剤事業を行っているココカラファインヘルスケアは、調剤薬局の運営を行っているルーカスより調剤薬局事業を譲り受けました。
- 実行時期:2020年12月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域におけるヘルスケアネットワークの構築の推進
ココカラファインヘルスケアによる日本メディケアの調剤薬局事業のM&A
ドラッグストア・調剤事業を行っているココカラファインヘルスケアは、調剤薬局の運営を行っている日本メディケアより、調剤薬局事業を譲り受けました。
- 実行時期:2020年12月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域におけるヘルスケアネットワークの構築
綿半ホールディングスによるほしまんのM&A
ホームセンター事業を手掛けるグループ全体の経営戦略を担う綿半ホールディングスは、ドラッグストアーのチェーン展開を行っているほしまんを子会社化しました。
- 実行時期:2020年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:仕入機能の共有化による取扱商品の拡充
日本調剤による薬栄、新栄メディカル、センチュリーオブジャスティス3社のM&A
門前型薬局とハイブリッド型薬局の戦略で事業を展開する日本調剤は、調剤薬局事業を行う薬栄、新栄メディカル及びセンチュリーオブジャスティスの3社を子会社化しました。
- 実行時期:2019年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:店舗網の拡充
アルファメデイックスによるメディプランのM&A
調剤薬局事業を行うアルファメデイックスは、地域に根ざした調剤薬局事業と介護事業を展開しているメディプランの調剤薬局事業を譲り受けました。
- 実行時期:2019年10月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:2億3,300万円
- 目的:調剤薬局事業の拡大
ウエルシアホールディングスによる金光薬品のM&A
チェーンドラッグストアを展開しているウエルシアホールディングスは、岡山県内にドラッグストアを31店舗を展開する金光薬品を子会社化しました。
- 実行時期:2019年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:中国地方における事業基盤の強化
ファーマライズホールディングスによるくすき調剤薬局のM&A
調剤薬局事業を展開するファーマライズホールディングスは、三重県で調剤薬局事業を行うくすき調剤薬局を吸収合併しました。
- 実行時期:2023年6月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:グループ入りした子会社の統合効果の増大
アイスタイルリテールによるミズの化粧品専門店事業のM&A
「@cosme SHOPPING」の企画開発・運営を行うアイスタイルリテールは、ドラッグストアや介護福祉事業を展開するミズの化粧品専門店「東京小町」の事業を譲り受けました。
- 実行時期:2022年10月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:、リアルなユーザー接点を強化による「@cosme」のプラットフォーム価値向上
クオシアによるスマイル薬局のM&A
薬局の経営および医薬品等の販売を行っているクオシアは、薬局の経営および医薬品等の販売を行っているスマイル薬局を子会社化しました。
- 実行時期:2022年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:施設の利用者への処方箋調剤の提供・服薬指導の継続
日本ジェネリックによる長生堂製薬のM&A
ジェネリック医薬品の製造販売事業を展開している日本ジェネリックは、ジェネリック医薬品の製造販売を行っている長生堂製薬を子会社化しました。
- 実行時期:2021年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:57億7,500万円
- 目的:効率的なジェネリック医薬品の製造管理・品質管理体制の改善
ウエルシアホールディングスによるププレひまわりのM&A
チェーンドラッグストアを展開しているウエルシアホールディングスは、スーパーや併設調剤薬局「ひまわり薬局」の運営を行うププレひまわりと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2021年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:経営規模の拡大と経営体質の強化
JR東日本スタートアップによるGOOD AIDのM&A
医療サービス等の6つのテーマへ出資を行っているJR東日本スタートアップは、調剤薬局事業などを行うGOOD AIDと資本業務提携しました。
- 実行時期:2021年05月
- スキーム:資本業務提
- 取引価額:非公開
- 目的:駅において様々な医療サービスやヘルスケアサービスとの連携
ルナ調剤によるわかば薬局のM&A
調剤薬局の運営等を行っているルナ調剤は、和歌山県にて調剤薬局を運営しているわかば薬局を子会社化しました。
- 実行時期:2020年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:6,422万8,000円
- 目的:調剤薬局事業のさらなる拡大
ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本による広島中央薬局のM&A
中国・九州地区にドラッグストアを展開するツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本は、広島県内にドラッグストアを展開している広島中央薬局を子会社化しました。
- 実行時期:2019年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域に密着した利便性の高い店づくり
サンドラッグによる大屋のM&A
ドラッグストアチェーン経営を行うサンドラッグは、愛媛県・高知県を中心にドラッグストアを運営している大屋を子会社化しました。
- 実行時期:2022年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:四国地方での経営基盤構築
ナチュラルホールディングスによる日新製薬のM&A
ドラッグストアチェーンを傘下にもつ持株会社のナチュラルホールディングスは、医薬品、医薬部外品等の販売などを行う日新製薬を子会社化しました。
- 実行時期:2022年05月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:従来商品の継続した販売
おわりに
本記事のまとめ
調剤薬局業界のM&A・売却・買収事例や業界動向についてご紹介しました。
調剤薬局業界は業界全体として大きな転換期を迎えており、今後さらなる業界再編が加速する業界です。大手チェーンによるM&Aだけでなく、中堅・中小調剤薬局においてもM&Aを積極的に活用する動きが見られ、また、ファンドによる投資も活発化しつつあります。
今後は買い手、売り手のいずれにおいても、M&Aを経営戦略上どのように活用して発展していくか、積極的に検討していくことが求められています。
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