保育園・保育所の業界動向、M&A・売却・買収事例23選
保育園・保育所業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。将来的に少子化が進む業界環境の中、再編を目的としたM&Aが増加しています。
本記事では、そうした保育園・保育所業界の市場動向を解説するとともに、保育園・保育所業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
保育園・保育所の概要・市場動向
保育園・保育所とは
保育園・保育所とは、保護者以外による保育を必要とする乳児・幼児が保育サービスを受けるために通園する施設をいいます。
法律上は、児童福祉法に定められた保育所(児童福祉法第39条)、小規模保育事業の保育施設(同法第6条の3第10項)、家庭的保育事業の保育施設(同法第6条の3第9項)、認可外保育施設(同法第59条の2)と、子ども・子育て支援法に定められた企業主導型保育事業の保育施設(子ども・子育て支援法第59条の2)が保育園に該当します。
保育園・保育所の多くは自治体か社会福祉法人によって運営されています。小規模保育事業は株式会社によって運営される場合が多いほか、認可外保育施設は株式会社や個人事業主が運営する場合が多いです。
保育園・保育所の市場動向
待機児童問題を背景とした政府支援
待機児童を解消するために政府によって打ち出された子育て安心プランは、保育園・保育所の需要を支えています。
同プランにより、保育園・保育所の賃貸料の負担、保育士の労働環境改善などの支援を受けることができ保育園・保育所の増加が促進されています。
過去には、2013年から2017年に実施された待機児童解消加速化プランを通じて約54万人の保育環境の整備が実現されました。2018年から2019年には、子育て安心プランにより約22万人分の保育園・保育所の確保が計画されていました。
令和3年からは新子育て安心プランとして、各自治体に4年間で約14万人の保育環境を整備することが掲げられています。事業者からすると、政府による支援は安心して保育園・保育所事業を拡大できる要因となります。
共働きによる需要拡大
昨今では、共働きの家庭が一般化している影響により保育園・保育所のニーズが高まっています。
特に、女性の就業率が上昇しており、令和3年版「男女共同参画白書」によると2020年の25~44歳の女性就業率は77.4%となっています。
女性の社会進出は政府によって推進されていることもあり、待機児童問題と併せて保育園・保育所の増加が期待できる要因といえます。
慢性的な保育士不足
保育園・保育所業界では保育士不足が大きな課題となっています。
過度な仕事量に見合わない報酬や、乳幼児を世話する業務上落ち着いた休憩時間を取れないことに起因するストレスなど、労働環境の過酷さが保育士が不足する要因です。
また、長期的には少子化進行により保育園・保育所の需要が後退することから、将来のキャリアが懸念されることも人手不足の原因です。
保育士の有効求人倍率は依然として増加傾向にあることから、処遇改善を含めて国からの更なる公的資金注入が求められています。
保育園・保育所のM&A動向
現在の保育園・保育所業界では、政府や地公体からの資金援助と少子化によるニーズ減少の影響が同時に発生しています。
短期的には待機児童の解消など需要は高いものの、厚労省の試算では保育所利用児童数は2025年ごろにピークを迎えるとされているため、単純に施設数を増加するのではなくM&Aを通じて再編や経営革新が図られています。
デジタル化を通じた保育の質の向上や関連分野への進出など、付加価値の向上や多角化を加速させるためのM&Aも活発になっています。
なお、M&Aにおいては認可保育園の買収ニーズが最も高いですが、認可外であっても英語教育に強みを持っていたり、高いブランド力を誇る保育園・保育所の買収を希望する買い手も多く存在します。
保育園・保育所におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
保育園・保育所のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 資本力のある買い手の下で保育士の処遇改善を実現できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
保育園・保育所のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 経験豊富な保育士を確保できる
- 売り手の土地や設備、建物をそのまま活用できる
- 売り手が事業を営む地域に新たに進出することができる
- 売り手が保有する許認可を引き継ぐことができる
保育園・保育所のM&A・売却・買収事例
ソラストによるなないろのM&A
介護事業や、東京都を中心に認可保育所を運営するソラストは、東京都を中心に認可保育所などを19カ所運営するなないろの全株式を取得しました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業領域の拡大
JPホールディングスによる日本保育サービスとアメニティライフのM&A
子育て支援施設の開設などのコンサルティング事業を手掛けるJPホールディングスは、神奈川県で保育所を運営するアメニティライフと、保育所・学童クラブ・児童館などの支援施設を運営する日本保育サービスを吸収合併しました。
- 実行時期:2021年11月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:経営効率と子育て支援サービスの向上、子育て支援プログラムなどの強化
FunkitによるMIJのM&A
保育園運営、保育コンテンツ制作、保育支援システムの開発提供などを手掛けるFunkitは、MIJの保有する企業主導型保育園であるダンデライオン保育園の事業を譲り受けました。
- 実行時期:2021年4月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:保育サービスの質向上
ミアヘルサによる東昇商事のM&A
東京・神奈川・千葉・埼玉で薬局・介護施設・保育園を運営するミアヘルサは、神奈川県や東京都で認可保育園6園を運営する東昇商事の全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年7月
- スキーム:株式譲渡、吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:保育園展開エリアの拡大
センコーグループホールディングスによるプロケアのM&A
物流・商事・ビジネスサポート・ライフサポートを手掛けるセンコーグループホールディングスは、東京都を中心に全国54カ所で保育所や学童クラブなどを運営するプロケアの全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年9月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:子育て事業への参入
ライフケアパートナーズによるグローバルキッズのM&A
日本生命の子会社で、健康・介護分野の情報サービスを手掛けるライフケアパートナーズは、保育園・児童館166施設の運営するグローバルキッズから保育園マッチングサービス事業を譲受しました。
- 実行時期:2020年1月
- スキーム:吸収分割
- 取引価額:非公開
- 目的:サービスの普及・発展
パワフルケアによるキムラタンの保育事業のM&A
病院内総合保育サービスなどを行うパワフルケアは、保育園事業や不動産事業を行っているキムラタンより保育事業を譲り受けました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:資源の選択と集中
レアジョブによるアイ・エス・シーのM&A
オンライン英会話サービスを中心に事業展開しているレアジョブは、保育事業を主とするアイ・エス・シーを子会社化しました。
- 実行時期:2023年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:プログラム販売等の販路拡大
トゥインクルキッズによるエイルドアミのM&A
認可保育園、企業主導型保育園の運営を行っているトゥインクルキッズは、企業主導型保育所を運営しているエイルドアミを子会社化しました。
- 実行時期:2022年08月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:グローバル保育の実現
グローバルキッズCOMPANYによるさくらさくプラスのM&A
保育所・学童保育の運営等を行うグローバルキッズCOMPANYは、保育所85施設、進学塾4施設を運営するさくらさくプラスはと経営統合を行いました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:不明
- 取引価額:非公開
- 目的:収益の多様化
ソラストによるこころケアプランのM&A
医療関連受託事業等を行うソラストは、保育事業やコンサルタント事業を行っているこころケアプランを子会社化しました。
- 実行時期:2022年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:33億4,400万円
- 目的:保育事業の成長
ミアヘルサによる東昇商事のM&A
医薬事業や介護事業を行うミアヘルサは、都内を中心に認可保育園6園を運営している東昇商事を子会社化しました。
- 実行時期:2020年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:効率的な運営と展開エリアの拡充
ソラストによるピーエイケアの保育施設のM&A
医療関連受託事業等を行うソラストは、小規模保育施設事業なども行うピーエイケアが運営するココカラ高津の保育施設を譲り受けました。
- 実行時期:2019年4月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:経営資源を集中と選択
城南進学研究社によるCheer plusのM&A
保育園や英語教室などの乳幼児教育事業を行う城南進学研究社は、認可外保育園を運営するCheer plusを子会社化しました。
- 実行時期:2019年09月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:より質の高い保育サービスの提供
ポピンズホールディングによるテンプスタッフ・ウィッシュのM&A
事業所内保育所や学童施設を運営するポピンズホールディングは、保育所7ヶ所に加えて、学童クラブなどを展開するテンプスタッフ・ウィッシュを子会社化しました。
- 実行時期:2019年03月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:保育の質の更なる向上
グローバルキッズCOMPANYによる東京建物キッズのM&A
保育所・学童保育の運営等を行うグローバルキッズCOMPANYは、保育施設の開発・運営を行っている東京建物キッズを子会社化しました。
- 実行時期:2023年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:3億7,000万円
- 目的:保育事業の規模拡大
ミアヘルサによるライフサポートのM&A
保育園、介護事業所等の運営を行っているミアヘルサは、保育園、学童保育施設運営等を行うライフサポートを吸収合併しました。
- 実行時期:2024年4月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:経営のさらなる効率化
テノ.コーポレーションによるテノ.サポートのM&A
認可保育所運営、小規模認可保育所運営を行っているテノ.コーポレーションは、学童保育所の運営等を行うテノ.サポートを吸収合併を行いました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:事業基盤の強化
ソラストによるはぐはぐキッズのM&A
医療関連受託事業等を行うソラストは、保育園事業、教育事業などを展開するはぐはぐキッズを子会社化しました。
- 実行時期:2022年02月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:保育事業の成長
tenによるグローバルキッズの企業主導型保育事業のM&A
保育事業、宿泊事業などを展開するtenは、福祉サービス業を行うグローバルキッズより企業主導型保育事業を譲り受けました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:多様な保育サービスの提供
テノ.ホールディングスによるオフィス・パレットのM&A
公的保育事業や受託保育事業等を展開するテノ.ホールディングスは、小規模保育所事業と事業を展開しているオフィス・パレットを子会社化しました。
- 実行時期:2020年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:8億500万円
- 目的:企業価値向上
グローバルグループとパートナーエージェントのM&A
保育所、学童クラブ・児童館を運営しているグローバルグループは、企業主導型保育事業を展開するパートナーエージェントと資本提携を行いました。
- 実行時期: 2018年05月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:1,000万円
- 目的:安定的な保育園運営
城南進学研究社によるTresterのM&A
英語学習で積極的な教室展開を行う城南進学研究社は、国際民間学童保育事業を展開するTresterを子会社化しました。
- 実行時期:2020年05月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:質の高い英語学童保育サービスの提供
おわりに
本記事のまとめ
保育園・保育所の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
保育園・保育所は、短期的には保育士不足や待機児童を背景として保育園・保育所の需要が急速に高まっていますが、長期的には少子化の影響により需要が減退が減退していくと考えられています。
今後は、保育施設を増加させるのではなくM&Aを通じて業界再編や経営改革の実現を目指す動きが活発化すると考えられ、買い手・売り手ともにM&Aを重要な経営戦略の一つと位置付けて取り組んでいくことが重要です。
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