医薬品卸業界の業界動向、M&A・売却・買収事例27選

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医薬品卸業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。医薬品卸業界は、利益率が低いことから関連業種との連携による利益改善が求められている業界です。

本記事では、そうした医薬品卸業界の市場動向を解説するとともに、医薬品卸業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。

目次

医薬品卸業界の概要・市場動向

医薬品卸業界とは

医薬品卸業界とは、製薬会社から医薬品を仕入れてドラッグストア・調剤薬局・病院などに卸す業界をいいます。

医薬品は、病院や調剤薬局などに販売する医療用医薬品と、ドラッグストアなどに販売する一般医薬品に分類されます。

医療用医薬品の9割以上は、医薬品卸会社を経由して医療機関や薬局に流通しており、残りは製薬会社が直接販売しています。一方、一般医薬品の5割は医薬品卸会社を経由して流通しており、残り5割は製薬会社が直接販売しています。

医薬品業界特有の職種として、MSやMRがあります。

MSはMarketing Specialistの略称で、マーケティングの観点から医薬品流通に携わっている医薬品卸会社の営業職を指します。MRはMedical Representativeの略称で、メディカルの観点から医薬情報の提供に携わっている製薬会社の営業職を指します。

医薬品卸業界の市場動向

薄利体質の利益構造

医薬品卸業界は、業界再編が進行したことでスケールメリットを享受しているにもかかわらず薄利体質により利益の確保が困難な状況に陥っています。

日本医薬品卸売業連合会「日本医薬品卸売業連合会会員構成・本社数推移」によると、2002年に175社あった本社数は2018年には72社まで減少しました。その後、2022年まで70社程度で推移していることから医薬品卸業界の業界再編は一定水準まで完了したことがうかがえます。

本来は業界再編により利益構造の改善に繋がることが期待されますが、医薬品業界では薄利体質が継続しています。

日本医薬品卸売業連合会「医薬品卸売業の経営概況(令和4年版)」によると、2018から2020年の営業利益率はいずれも1%程度で推移しており十分な利益を確保できない状態は改善されていません。

この背景には、医薬品卸業者が、納入価格を引き下げて薬価との差益を確保したい医療機関と、販売価格の引き下げを嫌い薬価を引き上げたい製薬会社との間で板挟みになっていることが挙げられます。

また、2003年以降は仕切価(医薬品卸売業者が製薬会社から仕入れる価格)が納入価(医薬品卸売業者が医療機関に販売する価格)よりも高くなり、医薬品を販売するほど赤字が拡大する状況が続いています。

実際は、取引量に応じて代金の割り戻しや値引き(リベート)が行われたり、医療機関への販売実績に基づいた報奨金(アローワンス)が支払われることで採算を保っています。

厚生労働省はこうした商慣行を問題視して2018年に「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」を作成しました。同ガイドラインでは、製薬会社が市場の需給に基づいて仕切価を定めることや、アローワンスを当初より仕切価に含めることなどが求められています。

仕切価と納入価のマイナス幅は徐々に解消されていますが、今後も医薬品卸会社・製薬会社・医療機関の三者間で利益が適切に確保されるような調整が求められています。

流通システムの改善が課題

医薬品卸業界の利益率が低い要因として流通システム面での負担も挙げられます。

医薬品卸業者は製薬会社と医療機関の仲介役を担うため、医薬品卸の通常業務のほか医薬品に問題があった場合は代替品の確保などの業務負担が増加します。

近年では後発医薬品が普及(日本医薬品卸売業連合会「医療用医薬品に占める後発医薬品のシェア」)したことで後発医薬品の回収件数が増加しており、代替品の確保に加えて在庫の管理、供給スケジュールの調整など物流面での負担が通常業務を圧迫しています。中田雄一郎、勢力麻維による「医薬品の自主回収の状況」では2017年から2019年にかけて自主回収件数、自主回収品目数が共に増加していることが分かります。

コロナ禍ではコロナワクチンの供給も卸事業者にとっては大きな業務負担となっており、利益改善には円滑な流通システムを構築することが不可欠です。

調剤薬局への展開が活発

近年では、大手医薬品卸会社による調剤薬局への展開が活発化しています。調剤薬局事業の利益率は医薬品卸事業よりも高く、関連事業であることから業務上のシナジーも期待されます。

500店舗以上の調剤薬局を抱える事業者も存在しており、今後も両事業間での協業が加速すると見込まれます。

医薬品卸業界のM&A動向

医薬品卸業界は、前述の通り業界再編がほとんど完了しており、大手4社で90%近くのシェアを占めています。

医薬品卸事業単体での差別化は困難であることから、今後は物流網を拡大するために物流事業を手掛ける企業とのM&Aが加速すると考えられます。

また関連業種である調剤薬局・ドラッグストアなどとの垂直統合を目的としたM&Aも増加しています。

医薬品卸業界におけるM&Aのメリット

売り手のメリット

医薬品卸業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 買い手と仕入れや物流を統合できる
  • 買い手の顧客網を取り込むことができる
  • 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
  • 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
  • M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット

医薬品卸業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 売り手の顧客網を取り込むことができる
  • 物流網を強化することで効率的な運営を実現できる
  • 関連業種を買収する場合、仕入れから販売までを統合できる

医薬品卸業界のM&A・売却・買収事例

アルフレッサとプレシジョンの資本提携

医薬品・医療用検査試薬・医療用機器などの卸業を手掛けるアルフレッサと、医療にAIをかけ合わせたAI問診やデジタルの医療教科書などの制作を手掛けるプレシジョンは資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2022年4月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:医師の負担軽減

東邦HDとセルージョンの資本業務提携

医薬品卸売事業・調剤薬局事業・医薬品製造販売事業などを手掛ける東邦HDと、水疱性角膜症の治療を目的とするiPS細胞を利用した角膜内皮再生医療を手掛けるセルージョンは資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2022年1月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:スペシャリティ医薬品への取り組み強化

メディカルネットによるオカムラ・ノーエチ薬品のM&A

インターネットを活用した医療・生活関連情報サービスを手掛けるメディカルネットは、大手ドラッグストアや調剤薬局などへのドラッグストア専売品やプライベートブランド商品などの卸売事業を手掛けるオカムラ・ノーエチ薬品の全株式を取得しました。

  • 実行時期:2021年4月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:OTC医薬品の開発・ 製造

スズケンとドクターズとの資本業務提携

医療用医薬品の卸売を中心に医薬品の研究・開発・製造、医薬品メーカー支援、保険薬局、介護などを手掛けるスズケンと、デジタルヘルスケアサービスの企画・開発から医療機関への流通・販売までをワンストップで支援するドクターズは資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2020年11月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:デジタルヘルスケアサービスの全国展開

スズケンとUbieの資本業務提携

医療用医薬品の卸売を中心に医薬品の研究・開発・製造、医薬品メーカー支援、保険薬局、介護などを手掛けるスズケンは、医療AIスタートアップであるUbieの株式約10%を取得して、資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2020年4月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:医療ソフトウェア分野でのビジネス構築

メディパルホールディングスとJCRファーマの資本業務提携

医薬品卸大手であるメディパルホールディングスは、GLAXO GROUP LIMITEDから国内バイオベンチャーであるJCRファーマの株式22.5%を取得して資本業務提携を締結しました。

  • 実行時期:2017年9月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:創薬力の獲得

ニュートリーによるニュートリション事業のM&A

三井製糖株式会社の連結子会社で病気の方のためのサポート食品を製造するニュートリーは、スズケンの連結子会社である三和化学研究所からニュートリション事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2016年9月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:開発力の強化

メディカルネットによるノーエチ薬品のM&A

医療・生活関連情報サービスの提供を行っているメディカルネットは、医薬品の薬局薬店向け販売事業を行うノーエチ薬品を子会社化しました。

  • 実行時期:2021年6月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:プラットフォーマーとしての機能強化

台湾大幸薬品股份有限公司によるFortune River Biotech Inc.のクレベリン販売事業のM&A

大幸薬品の子会社である台湾大幸薬品股份有限公司は、クレベリン販売事業を主に行っているFortune River Biotech Inc.のクレベリン販売事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2020年4月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:5,000万円
  • 目的:グループの事業拡大

ジェイフロンティアによるシーディのM&A

ヘルスケアマーケティング事業等を展開しているジェイフロンティアは、医薬品等のECサイト運営・卸売販売等を行っているシーディを子会社化しました。

  • 実行時期:2021年11月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:1億6,127万7千円
  • 目的:事業拡大と競争力強化

オーイズミによる武内製薬のM&A

遊技場設備機器や太陽光発電など幅広く事業を展開しているオーイズミは、武内製薬・医薬品などの販売等を行う武内製薬を子会社化しました。

  • 実行時期:2022年8月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:企業価値向上

ファーマフーズによる明治薬品のM&A

バイオメディカル事業等を展開しているファーマフーズは、医薬品、医薬部外品、健康食品などの製造及び販売を行う明治薬品を子会社化しました。

  • 実行時期:2021年8月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:23億円
  • 目的:中長期的な企業価値向上

アクシージアによるユイット・ラボラトリーズのM&A

ニッチ市場向けの化粧品の製品開発を手掛けるアクシージアは、化粧品 ・医薬部外品の製造・卸売事業などを行うユイット・ラボラトリーズを子会社化しました。

  • 実行時期:2022年4月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:企業価値の最大化

神栄によるメディパルホールディングスのM&A

食品、物資、繊維、電子を分野に事業を展開している神栄は、医療用医薬品等卸売事業などを行うメディパルホールディングスと資本業務提携を行いました。

  • 実行時期:2022年1月
  • スキーム:第三者割当増資
  • 取引価額:1億7,076万1,500円
  • 目的:グループの成長基盤の拡大

アルフレッサホールディングスによる宮崎温仙堂商店のM&A

医薬品等の卸販売、輸出入などを行うアルフレッサホールディングスは、医薬品や医療機器などの卸売事業を行っている宮崎温仙堂商店を子会社化しました。

  • 実行時期:2022年3月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:地域特性に合わせた営業戦略の実践

メディパルホールディングスによる東七のM&A

医療用医薬品等卸売事業などを行うメディパルホールディングスは、医療用医薬品卸売事業や介護サービス支援事業を行う東七を子会社化しました。

  • 実行時期:2022年07月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:事業基盤の強化

アルフレッサホールディングスによるサンノーバのM&A

医薬品等の卸販売、輸出入などを行うアルフレッサ ホールディングスは、医薬品、医薬部外品等の製造販売を行うサンノーバを吸収合併しました。

  • 実行時期:2023年4月
  • スキーム:吸収合併
  • 取引価額:非公開
  • 目的:受託営業体制の強化

ミンラックによるグラフィコの医薬品事業のM&A

マスク原料製造、不織布マスク製造を行っているミンラックは、医薬品などの企画および販売を行っているグラフィコの医薬品事業を承継しました。

  • 実行時期:2023年2月
  • スキーム:吸収分割
  • 取引価額:非公開
  • 目的:販路拡大

ケアネットによるコアヒューマンのM&A

メディカルプラットフォーム事業等を行っているケアネットは、MR業務代行事業等を行っているコアヒューマンを子会社化しました。

  • 実行時期:2022年9月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:2億1,200万円
  • 目的:インターネット情報提供技術等の融合

ヤマシタによるハピネライフ一光のホームヘルスケア事業のM&A

福祉用具のレンタルなどを行っているヤマシタは、ヘルスケア事業や医薬品卸事業などを展開しているハピネライフ一光のホームヘルスケア事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2022年9月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:経営資源の集中

ファーマフーズによる明治薬品のM&A

バイオメディカル事業などを展開しているファーマフーズは、医薬品などの製造及び販売を行う明治薬品を子会社化しました。

  • 実行時期:2021年8月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:23億円
  • 目的:研究開発力、商品開発力の向上

あすか製薬によるHa Tay Pharmaceutical Joint Stock CompanyのM&A

医薬品等の販売を行うあすか製薬は、ベトナムにて医薬品などの輸入販売を行っているHa Tay Pharmaceutical Joint Stock Companyを子会社化しました。

  • 実行時期:2020年08月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:東南アジアでの事業展開の加速

大正製薬によるUPSA SASのM&A

大手製薬企業の大正製薬は、欧州諸国において医療用医薬品等の製造販売を行うUPSA SASを子会社化しました。

  • 実行時期:2019年6月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:1,800億円
  • 目的:欧州諸国における事業基盤強化

インフォコムによるHealthMetrics Sdn Bhd.のM&A

医療機関等に情報システム提供を行うインフォコムは、医療機関への医薬品卸事業等を手掛けるHealthMetrics Sdn Bhd.と資本業務提携契約を締結しました。

  • 実行時期:2023年02月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:薬剤情報管理システムの品質向上

Inflexion Private Equity Partners LLPによるサノビオン・ファーマシューティカルズ・ヨーロッパ・リミテッドのM&A

PE投資業務を行っているInflexion Private Equity Partners LLPは、欧州における医療用医薬品の製造販売を行っているサノビオン・ファーマシューティカルズ・ヨーロッパ・リミテッドを特別買収目的会社を通じて譲り受けました。

  • 実行時期:2021年08月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:グループ的な販売の注力

平安津村有限公司による陝西紫光辰済薬業有限公司のM&A

医薬品の製造販売を行っているツムラの中国グループ会社である平安津村有限公司は、医薬品の生産販売等を行う陝西紫光辰済薬業有限公司を子会社化しました。

  • 実行時期: 2023年04月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:事業拡大

三井物産によるEu Yan Sang International Ltd.のM&A

総合商社の三井物産は、漢方薬製造販売企業として医薬品製造販売を行うEu Yan Sang International Ltd.と業務提携を行いました。

  • 実行時期:2022年11月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:事業拡大

おわりに

本記事のまとめ

医薬品卸業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。

医薬品卸業界は、大手事業者による業界再編が進んだものの医薬品業界全体の商慣行は継続されており、現在も利益率の低さが課題となっている業界です。

今後は同業種との水平統合に留まらず、調剤薬局などの関連業種を含めた水平統合の活発化が予想されています。

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