半導体業界の業界・市場動向、M&A・売却・買収事例の一覧26選!
半導体業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。半導体業界は、急速な需要拡大を受けて世界各国で政府による支援が充実している業界です。
本記事では、そうした半導体業界の市場動向を解説するとともに、半導体業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
半導体業界の概要・市場動向
半導体業界とは
半導体業界とは、半導体素子や集積回路といった半導体の研究開発、設計、製造、販売、流通、マーケティングなどを担う業界をいいます。
半導体を製造する過程は、回路を製造する前工程、製品向けの組み立てや検査のための後工程に分類されます。前工程は高度な技術が必要であるため大企業が手掛けることが多く、中小企業が後工程を請け負う場合がほとんどです。
半導体業界の市場動向
世界的な成長産業
半導体市場は近年急速に成長している業界の一つです。
WSTS(世界半導体市場統計)「The World Semiconductor Trade Statistics (WSTS) has released its new semiconductor market forecast generated in August 2022.」によると、世界半導体市場は2010年代には緩やかに成長していましたが、2021年には前年比26.2%となる5,559億ドルまで拡大し、2022年には前年比13.9%となる6,630億ドルまで成長することが予測されています。
2023年には成長が鈍化して2022年比で4.6%の成長に留まると予想されています。直近での高い成長率は、コロナパンデミックによる在宅需要の影響でパソコン、タブレットWiFi機器、ゲームなどで見られた特需のほか、5Gの進展などによりインターネット上で交わされるデータ通信量が大幅に増加したことに起因しています。
一時的な特需こそなくなりますが、経済活動の正常化に伴い企業の設備投資が増加することに加えて、IoT化の進展、脱炭素・再エネへの取り組みなどで電子機器の高性能化が加速しているため半導体需要の拡大は継続することが推測されてます。
国内半導体市場の凋落
半導体市場における日本のシェアは市場の成長に反して低下しています。1990年頃には世界の半導体市場の約半分を占めていましたが、2021年にはわずか7.9%のシェアまで落ち込んでいます。
日本が国際市場での競争力を失った要因には以下の3つの要因が挙げられます。
第一に、貿易摩擦です。日米の貿易摩擦を解消するために日米半導体協定が締結されたことで、国内半導体メーカーに対しての規制が強化されました。結果として半導体の主流がメモリからロジックへと変わる潮流を捉えることができず競争力を失いました。
第二に、サプライチェーンにおける水平分離の失敗です。1990年代後半以降、半導体の設計・製造が垂直的統合型から、ファブレス企業(製品の設計・企画・マーケティングなどに特化した企業)とファウンダリ企業(生産機能に特化した企業)で構成される水平分業型に移行しました。一方で、日本国内では電機・情報通信器の親会社が競争力を失う中で半導体製造部門を切り出すことができず、産業構造の移行に失敗しました。
第三に、国内のデジタル投資が遅れていることです。スマホ、インターネットが普及する中で国内のデジタル投資が遅れたために、先端半導体は海外からの輸入に依存するようになりました。また、バブル崩壊後の景気低迷を受けて企業の投資が抑制され、政府も自国企業のみの自前主義を掲げていたため海外とのアライアンスが遅れました。
こうした要因により国内半導体市場の競争力は急速に低下しましたが、日本の半導体製造工場数は世界トップであり、半導体製造装置や素材産業では世界市場でも競争力を保持しています。近年では政府の支援も充実しており、国内市場でも半導体業界の成長が期待されます。
半導体産業への政策支援
国内の半導体市場は政府により国家事業の一つに掲げられています。
経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」によると、具体的な目標として①国家事業としての産業基盤の確保、②日本に根差す事業者の確立と世界的相互依存関係での地位確立、③デジタル化とグリーン化の同時達成、早期実用化の3つが挙げられています。
これらの目標に向けた取組として、海外の先端ファウンドリとの共同開発を推進しています。また、先端半導体の量産化を実現するために海外ファウンドリとの合弁会社の設立など、国内の生産力の確保が図られています。
半導体産業には各国主導で産業政策が実施されているため、日本でも研究開発の連携強化、金融・税制・会計制度における支援など分野を問わず後押しすることが明示されています。
さらに、デジタル化の拡大によりデータ処理量が増加して電力消費が大幅に増加するためグリーンイノベーションも併せて推進されています。半導体の省エネ化、高性能化のほか、将来的にゲームチェンジャーになり得る技術開発も同時に進められています。
半導体業界のM&A動向
半導体業界は世界的に競争が激化しており技術革新のスピードも非常に速いため、業界再編が活発です。
半導体メーカーが他社メーカーや多角化企業の半導体製造部門を買収する事例は頻繁に見られます。そのほか、電子部品メーカーが開発力強化を目的に半導体メーカーを買収するケースや、IT関連商社が半導体専門商社を買収して新規参入する事例も見られます。
大型のM&Aが目立ちますが、大企業がカバーしていないニッチな分野での市場シェアを獲得することを目的とした中小企業によるM&Aも増加しています。
半導体業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
半導体業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手の事業基盤を活かして安定した半導体製造を実現できる
- 買い手の保有する顧客網を取り込むことができる
- 買い手と協働して研究開発を実施することができる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
半導体業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 売り手の強みとする技術分野を獲得することができる
- 売り手の保有する事業ポートフォリオを拡大できる
- 売り手の保有する顧客層を拡大できる
- 売り手の抱える知識・経験が豊富な技術者を確保できる
- 売り手との研究開発面での情報共有が実現できる
半導体業界のM&A・売却・買収事例一覧
日清紡HDによるディー・クルー・テクノロジーズのM&A
マイクロデバイス、自動車ブレーキ、各種産業用精密部品、化学品および繊維製品の開発・製造・売買・輸出入事業を手掛ける日清紡HDは、デジタル・アナログ混載LSIなどの半導体製品、ソフトウェア、各種制御基盤、産業向けセンシングシステムの開発・提供事業を手掛けるディー・クルー・テクノロジーズの全株式を取得しました。
- 実行時期:2022年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:技術分野の補完
オキサイドとUJ-Crystalの資本業務提携
医療・半導体・自動運転などの分野に向けて単結晶材料・光デバイス・レーザ装置・光計測機器などの製造販売事業を手掛けるオキサイドは、溶液法による育成技術をベースとしてパワー半導体SiC単結晶の開発・製造・販売事業を手掛けるUJ-Crystalと資本業務提携を実施しました。
- 実行時期:2021年10月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:共同研究開発の推進
ミツミ電機によるオムロンのM&A
半導体デバイス、光デバイス、機構部品・高周波部品・電源部品の製造事業を手掛けるミツミ電機は工場自動化制御機器・電子部品の製造事業、社会インフラソリューション事業、家庭・企業向け医療機器製造・デジタルサービス運営事業を手掛けるオムロンから、半導体工場・MEMS事業を譲り受けました。
- 実行時期:2021年10月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:既存製品の高性能化
ルネサスエレクトロニクスによるDialog SemiconductorのM&A
各種半導体製品の研究・開発・設計・製造・販売事業と、組み込みソリューション提供事業を手掛けるルネサスエレクトロニクスは、英国に本社を置き、低電力・コネクティビティ技術を強みとしてIoT・家電・自動車・各種産業分野向け半導体製品の開発・提供事業を手掛けるDialog Semiconductorの全株式を取得しました。
- 実行時期:2021年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:製品ポートフォリオの拡充
日本化薬によるテイコクテーピングシステムのM&A
半導体や情報通信などの分野向け機能性材料・色素材料・触媒・フィルム部材製造事業と、医薬品・医療機器の製造事業を手掛ける日本化薬は、ドライフィルムレジスト・バックグラインド保護テープの貼り合わせに特化した半導体製造装置を国内外に供給するテイコクテーピングシステムの株式を取得し子会社化しました。
- 実行時期:2021年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:素材・装置ビジネスの拡大
トレックス・セミコンダクターによるCirelの資本業務提携
電源ICを手がけるメーカーであるトレックス・セミコンダクターは、インドのアナログ半導体メーカーであるCirelと資本業務提携を実施しました。
- 実行時期:2019年9月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:製品ラインナップの充実
富士通による富士通セミコンダクターのM&A
情報処理システムなど手掛ける大手電機メーカーの富士通は、半導体事業を行うグループ会社の統括管理を行う富士通セミコンダクターを吸収合併しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:経営効率化
日本特殊陶業によるNTKセラミックのM&A
半導体パッケージなどを取り扱う日本特殊陶業は、セラミックパッケージの総合メーカーであるNTKセラミックを吸収分割しました。
- 実行時期:2023年1月
- スキーム:吸収分割
- 取引価額:非公開
- 目的:事業の発展と継続
南陽によるエイ・エス・エイ・ピイのM&A
産業機器などの販売、レンタル業を行う南陽は、半導体製造装置の製造・販売を行うエイ・エス・エイ・ピイを子会社化しました。
- 実行時期:2022年07月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:技術力の融合
ヤマシナによるヤマヤエレクトロニクスのM&A
金属製品の企画・製造・販売を行うヤマシナは、独立系の半導体商社のヤマヤエレクトロニクスを子会社化しました。
- 実行時期:2023年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:販路拡張
&DC3によるアクセルのM&A
電子書籍配信ソリューションの提供を行っている&DC3は、半導体集積回路の製造販売を行うアクセルを子会社化しました。
- 実行時期:2023年05月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:基盤ソリューション「DC3」の開発投資と運転資金へ対応
フェローテックホールディングスによるコスモ・サイエンスのM&A
電子デバイス事業等を展開しているフェローテックホールディングスは、半導体製造装置メーカー向けに真空装置製造を行うコスモ・サイエンスを買収しました。
- 実行時期:2023年04月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:半導体等装置向け金属加工事業の強化
エイブリックによるSSCのM&A
高精度のアナログ半導体を提供しているエイブリックは、半導体の設計、製造、販売、コンサルティングを行うSSCを子会社化しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業の継続的な成長
ワイエイシイホールディングスによるJEインターナショナルのM&A
産業機器等の関連事業を行うワイエイシイホールディングスは、半導体関連検査装置の製造・販売を行っているJEインターナショナルを子会社化しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:新たな製品と市場開拓
エア・ウォーター・メカトロニクスによる日本電熱、メカトロ・アソシエーツ2社のM&A
半導体関連向け装置の製造販売を行うエア・ウォーター・メカトロニクスは、半導体関連向け特殊機器等事業を行う日本電熱とメカトロ・アソシエーツを吸収合併しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:吸収分割
- 取引価額:非公開
- 目的:エレクトロニクス事業の拡大
ナノシステムソリューションズによるイーエフイーのM&A
半導体製造装置などの開発を行うナノシステムソリューションズは、半導体検査の搬入やメンテナンスを行うイーエフイーを子会社化しました。
- 実行時期:2022年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:様々な検査装置需要への対応
デクセリアルズによる京都セミコンダクターのM&A
最先端の材料の製造販売を行うデクセリアルズは、光半導体デバイスおよびモジュールの製造販売を行う京都セミコンダクターを子会社化しました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:約88億円
- 目的:社会のデジタル化と社会課題の解決への貢献
MipoxによるUJ-crystalのM&A
研磨メーカーのMipoxは、パワー半導体SiCウェハの開発・製造・販売事業を目指すUJ-crystalと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2021年11月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:基板から研磨、加工、検査まで一気通貫で開発できる体制の構築
昭文社ホールディングスによるヘッドスプリングのM&A
不動産事業、物流事業等を展開している昭文社ホールディングスと、パワーエレクトロニクス製品の開発を行うヘッドスプリングは資本業務提携を行いました。
- 実行時期: 2021年06月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:低価格かつ小型・高効率な製品の実現
ネクスティエレクトロニクスによるキャッツのODM事業のM&A
豊田通商グループの半導体専門商社ネクスティエレクトロニクスは、ソフトウェア等の設計開発を行うキャッツよりODM事業を譲り受けました。
- 実行時期:2020年04月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:エレクトロニクス化の加速
ルネサスエレクトロニクスによるSteradian Semiconductors Private LimitedのM&A
各種半導体に関する研究開発を行うルネサスエレクトロニクスは、ファブレス半導体企業のSteradian Semiconductors Private Limitedを買収しました。
- 実行時期:2022年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:レーダ事業への本格参入
JSRによるSR Electronic Materials Korea Co., Ltd.のM&A
合成樹脂事業などを展開する化学メーカーのJSRは、半導体材料等の販売代理店のSR Electronic Materials Korea Co., Ltd.を子会社化しました。
- 実行時期:2022年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:顧客と製品のポートフォリオ拡大
野村マイクロ・サイエンスによる水翼成套工程有限公司のM&A
超純水製造装置専業メーカーの野村マイクロ・サイエンスは、半導体関連企業を中心に水処理装置を供給する水翼成套工程有限公司を子会社化しました。
- 実行時期:2023年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:中国マーケットへの対応
ルネサスエレクトロニクスによるPanthronics AGのM&A
各種半導体に関する研究開発を行うルネサスエレクトロニクスは、ファブレス半導体企業のPanthronics AGを買収しました。
- 実行時期:2023年03月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:フィンテック、IoT、アセットトラッキング、ワイヤレス給電、自動車向けNFCへの対応
DICによるPCAS Canada Inc.のM&A
合成樹脂などの製造販売を行う化学メーカーのDICは、半導体フォトレジストポリマーの製造・販売を行っているPCAS Canada Inc.を子会社化しました。
- 実行時期: 2023年06月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:半導体市場のニーズへの対応
富士フイルムによるEntegris, Inc.の半導体用プロセスケミカル事業のM&A
ヘルスケアやイメージング事業に取り組む富士フイルムは、米国の半導体材料メーカーEntegris, Inc.の半導体用プロセスケミカル事業を買収しました。
- 実行時期:2023年05月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:7億米ドル
- 目的:電子材料事業成長の加速
おわりに
本記事のまとめ
半導体業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
半導体業界は、世界的に需要が拡大しており、今後もあらゆる分野で半導体需要が増加することで市場の拡大が見込まれています。日本企業の世界でのシェアは1990年代以降縮小してきましたが、近年では官民一体で半導体の事業戦略が打ち出されています。
今後も世界的に競争激化が予想されるため、技術開発の高速化を図り競争力を高めるためのM&Aがますます活発化すると考えられます。
M&A・事業承継のご相談はハイディールパートナーズへ
M&A・事業承継のご相談は経験豊富なM&Aアドバイザーの在籍するハイディールパートナーズにご相談ください。
ハイディールパートナーズは、中堅・中小企業様のM&Aをご支援しております。弊社は成約するまで完全無料の「譲渡企業様完全成功報酬型」の手数料体系を採用しており、一切の初期費用なくご活用いただけます。
今すぐに譲渡のニーズがない企業様でも、以下のようなご相談を承っております。
- まずは現状の自社の適正な株式価値を教えてほしい
- 株式価値を高めるために今後何をすればよいか教えてほしい
- 数年後に向けて株式価値を高める支援をしてほしい
- どのような譲渡先が候補になり得るか、業界環境を教えてほしい
ご相談は完全無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。