工作機械業界の業界動向、M&A・売却・買収事例29選!
工作機械業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。工作機械業界では他の製造業界と同じく、後継者問題や人材不足の解消を目的としたM&Aが多く見られます。
本記事では、そうした工作機械業界の市場動向を解説するとともに、工作機械業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
工作機械業界の概要・市場動向
工作機械業界とは
工作機械業界とは、主に製造業で使用される機械を製造する業界を指します。
自動車、飛行機などの乗り物から、スマートフォン、テレビ、パソコンなど日常的に使われる製品を作るための機械を製造しています。作られる機械は多種多様で様々な強みや製品をもつ企業があります。
工作機械業界はメインとなる自動車をはじめ製造業界の景気に左右されます。例えば自動車の需要が高まれば自動車を作る機械も必要になるため、工作機械の需要は高まります。
逆に製造業界の景気が悪化すれば工作機械の需要も減少します。近年ではアメリカと中国の貿易摩擦により、商品である日本の自動車の製造も滞ったため、自動車の工作機械の需要も減少しました。
工作機械業界の市場動向
設備投資の再開による需要の回復
経済産業省「生産動態統計年報」によると、2021年の金属工作機械の販売額は9234億円で前年比21.2%増でした。大幅に減少した2020年から、大幅に回復しています。
金属工作機械の販売額は一定の周期で増減を繰り返しています。2016年から2018年は増加傾向、2018年から2020年は減少傾向、2021年になり再び増加傾向にあります。
2018年から2020年までは米中の貿易摩擦や新型コロナウイルスの感染拡大により需要が低迷していました。
しかし2021年に入り、コロナ禍により設備投資を抑えていた企業が一気に投資を開始したため、需要が回復したと考えられます。
周期的な需要の推移
工作機械の受注サイクルは景気の先行指数とも呼ばれています。それは多数ある設備投資の中でも工作機械が最初に投資される分野だからです。
2018年から2020年は米中貿易摩擦や新型コロナウイルスにより工作機械の需要は低迷していましたが、2021年に生産額が上昇に転じたため、下落トレンドから上昇トレンドに転換したと考えられます。
工作機械業界は大きく「高級機・高価格製品の宇宙、航空機、医療機器」「中級機・中価格製品の自動車、電機精密部品」「低級機・低価格製品の一般部品」に分けられます。
日本の工作機械企業は主に中級機から高級機の製造を手掛けていますが、近年は新興国企業が高級機も手掛けるようになり、国際競争はますます激しくなると考えられます。
工作機械と先進技術の融合
工作機械業界では省人化設備や自動運転関連、5G関連の機械の需要が高まっています。
日本のみならず先進国では人手不足や人件費の高騰が問題となっており、FAなどの工場における生産ラインや検査を自動化する機械の需要が高まっています。先進国だけでなく新興国でも、製造効率向上のため自動化機械の需要があります。
また、自動運転技術や次世代のIT技術である5GやAI、IoTなどの新たなテクノロジーへの設備投資が、工作機械業界の需要を高めるのではないかと期待されています。
工作機械業界のM&A動向
工作機械業界では人手不足が問題になっています。製造業全般で人口減少による人手不足が問題となっており、工作機械業界もその一つです。
また後継者不足も重大な問題の一つです。帝国データバンク「後継者不在率動向調査」によると、後継者問題に直面している製造業の中小企業は53.7%に上っています。
これらの問題解決のためM&Aは今後ますます活用されていくものと見られます。
また、近年はNC装置の技術力向上を目指して、IoTが取り入れられるようになりました。
IoT事業への取り組みは機械の性能をあげるだけでなく、ソフトウェアやサービスの見直し、コスト削減による経営効率の向上など多くのメリットを生み出します。
そのためIT技術の獲得や強化を目的としたM&Aも今後増えると考えられます。
工作機械業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
工作機械業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
- 創業者利益を獲得できる
- 単独では難しい海外進出を狙える
買い手のメリット
工作機械業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 隣接業種から工作機械業界に新規参入できる
- 新しい地域への進出や顧客を獲得できる
- 売り手の持つノウハウや技術力を獲得できる
- 既存の技術とのシナジーを享受できる
- 売り手の抱える技術力を持った人材を確保できる
工作機械業界のM&A・売却・買収事例
クボタホールディングスヨーロッパB.V.によるブラベンダーテクノロジーのM&A
クボタの欧州機械統括子会社であるクボタホールディングスヨーロッパB.V.は、量産式フィーダの世界的メーカーであるドイツのブラベンダーテクノロジーを子会社化しました。
- 実行時期:2022年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:製品ラインナップの拡充、ネットワークの相互活用
アルフレッサHDとドーナッツロボティクスの資本提携
医薬品、医療用検査試薬、医療用機器などの卸売業者であるアルフレッサと、羽田空港ロボットプロジェクトや世界初のスマートマスクを手掛けるドーナツロボティクスは資本業務提携を締結しました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:ロボット・デジタル技術への注力
横浜ゴムによるTRELLEBORG WHEEL SYSTEMS HOLDINGのM&A
日本三位のタイヤ販売額を誇るタイヤ・ゴムメーカーの横浜ゴムは、スウェーデンに本社を置く農業機械や産業車両用のタイヤを生産・販売するTrelleborg Wheel Systemsを子会社化しました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:売上分野の偏りの改善
ジャパンエレベーターサービスHDによるトヨタファシリティーサービスのM&A
エレベーターなどの保守・管理を手掛けるジャパンエレベーターサービスホールディングスは、エレベーターや立体駐車場の保守点検サービスを手掛けるトヨタファシリティーサービスを子会社化しました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:関西圏・首都圏での事業基盤強化
リックステクノによるCEMのM&A
リックスの連結子会社で自動車部品洗浄装置・その他産業用機械の製造販売を手掛けるリックステクノは、搬送機や加工機を手掛けるCEMを子会社化しました。
- 実行時期:2022年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:産業機械の内製化
凸版印刷によるアイオイ・システムのM&A
世界最大規模の総合印刷会社である凸版印刷は、デジタルピッキングシステムや製造業DXを手掛けるアイオイ・システムを子会社化しました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:技術・ノウハウの獲得
岡本工作機械製作所によるプレシードのM&A
半導体関連装置などの製造販売を行う岡本工作機械製作所は、省人化装置等の開発製作販売を行うプレシードと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2023年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:技術・ノウハウを人材の共有によるシナジー効果
日本電産による三菱重工工作機械及び海外子会社の工作機械事業のM&A
機器装置などの製造販売を行う日本電産は、工作機械の製造販売を行う三菱重工工作機械及び三菱重工グループの海外子会社9社が営む工作機械事業を譲り受けました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:工作機械事業の更なる拡大
ニデックによるTAKISAWAのM&A
光学製品等を製造および販売しているニデックは、工作機械の製造および販売を手掛けているTAKISAWAを子会社化しました。
- 実行時期:2023年11月
- スキーム:TOB
- 取引価額:非公開
- 目的:工作機械事業の強化
牧野フライス製作所によるエツキのM&A
工作機械の大手である牧野フライス製作所は、産業機械などの設計・製作・販売を行っているエツキを子会社化しました。
- 実行時期:2023年04月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:強固な生産協力体制の構築
日本電産によるニデックオーケーケーのM&A
大手総合モーターメーカーの日本電産は、工作機械の製造・販売を行っているニデックオーケーケーを子会社化しました。
- 実行時期:2023年3月
- スキーム:株式交換
- 取引価額:非公開
- 目的:経費削減等による経営効果向上
芙蓉総合リースによる日本風洞製作所のM&A
総合リース会社の芙蓉総合リースは、風洞試験装置を開発する日本風洞製作所と資本業務協定を締結しました。
- 実行時期:2022年07月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:付加価値の高い新たなサービスの提供
日本電産によるOKKのM&A
大手総合モーターメーカーの日本電産は 、工作機械の設計・製造・販売などを行うOKKと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2022年6月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:生産能力増強
マルカはによるティーエスプレシジョンのM&A
産業機械の国内および海外販売を行うマルカは、フォーミングマシンや等速ジョイント加工機等の製造販売を行うティーエスプレシジョンを子会社化しました。
- 実行時期:2023年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:EV関連分野への展開
北川鉄工所によるシステム精工のM&A
産業機械事業を行う北川鉄工所は、HDD関連部品の製造装置の製造・販売を行うシステム精工を子会社化しました。
- 実行時期:2023年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業拡大
ADTechによる日本精工のステアリング&アクチュエータ事業のM&A
自動車部品の研究開発を行っているADTechは、大手ベアリングメーカーの日本精工のステアリング&アクチュエータ本部の事業を譲り受けました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:吸収分割
- 取引価額:非公開
- 目的:事業区分管理の強化
キナンによるススキ産機のM&A
建機レンタル事業を行うキナンは、土木産業機械並びに農業機械の販売を行うススキ産機を子会社化しました。
- 実行時期:2022年07月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:シナジー効果
小松製作所によるBracke Forest ABのM&A
産業機械などの事業を展開している小松製作所は、植林の工程用アタッチメントの開発・製造・販売などを行うBracke Forest ABを買収しました。
- 実行時期:2022年7月
- スキーム:買収
- 取引価額:非公開
- 目的:あらゆる工程の機械化
IHI回転機械エンジニアリングによる近藤鉄工のM&A
総合重工業会社IHIグループのIHI回転機械エンジニアリングは、多重円板脱水機等の製造および修理などを行っている近藤鉄工を子会社化しました。
- 実行時期:2022年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:分離装置事業の拡大
日工による宇部興機のM&A
建設機械等の製造販売を行う日工は、鋼構造物・産業機械の設計・製作・据付・設備保全を行う宇部興機を子会社化しました。
- 実行時期:2022年03月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:環境リサイクル事業での新たなシナジー効果創出
泉州電業による北越電研のM&A
ケーブルなどの電線総合商社である泉州電業は、産業機械向け制御装置の製造販売を手掛ける北越電研を子会社化しました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:受注・販売の拡大
靜甲による共和テックのM&A
包装機械等の産業機械事業を手掛ける靜甲は、木工機械等の産業機械の設計製造を行う共和テックを子会社化しました。
- 実行時期:2020年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:電機機器事業の更なる拡大
機械によるプライミクスのM&A
産業機械等多種多様な分野に事業を展開している機械は、高速攪拌機の専業メーカーのプライミクスを子会社化しました。
- 実行時期:2020年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ノウハウ補完および連携した営業展開
ワキタによる大裕のM&A
土木・建設機械の販売・賃貸などを主力事業として行うワキタは、建設用機械の製造販売事業を行っている大裕を子会社化しました。
- 実行時期:2023年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:土木・建設機械におけるICT分野の拡大
Abalanceによる明治機械のM&A
建設機械等の事業を展開しているAbalanceは、産業機械関連事業を展開する明治機械と資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:TOB
- 取引価額:非公開
- 目的:シナジー効果創出
美濃窯業による岩佐機械工業のM&A
工業用セラミックス製品の製造販売事業を展開する美濃窯業は、ロータリーキルン等の装置の設計製造を行う岩佐機械工業を子会社化しました。
- 実行時期:2021年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:成長力向上
上海鵬成協通企業発展有限公司による昆山清陽精密機械有限公司のM&A
ビジネスコンサルティングなどを展開する上海鵬成協通企業発展有限公司は、産業機械用の加工を行う昆山清陽精密機械有限公司を子会社化しました。
- 実行時期:2022年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:6億3,000万円
- 目的:経営環境や事業の方向性転換
日本電産によるPAMA S.p.A.のM&A
大手総合モーターメーカーの日本電産は、イタリアの工作機械メーカーのPAMA S.p.A.および同関連会社9社を買収しました。
- 実行時期:2022年11月
- スキーム:買収
- 取引価額:非公開
- 目的:売上拡大と生産の最適化
おわりに
本記事のまとめ
工作機械業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
工作機械業界では人手不足や後継者問題が深刻となっており、これらの問題を解決するために盛んにM&Aが行われています。
また、工作機械業界ではIoTやIT化が進んでおり、他業界との業務提携などのM&Aも行われています。こうした傾向は、今後もますます進んでいくと考えられます。
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