LPガス業界のM&A・売却・買収事例、業界動向

LPガス業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。近年は都市ガスやオール電化の普及を受け、同業者間でのM&A実施により競争力を高めようとする動きが活発です。
本記事では、そうしたLPガス業界の市場動向を解説するとともに、LPガス業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
LPガス業界の概要・市場動向
LPガス業界とは
LPガス業界とは、LPガス(プロパンガス)を供給する業界をいいます。元売り、卸売り、小売りに分類されており、消費者に直接販売する小売事業者が大半を占めています。
LPガスとは液化石油ガスの略称であり、プロパンやブタンなどの比較的液化しやすいガスを指します。都市ガスとの違いは主成分にあり、家庭用LPガス・工業用LPガスの主成分はそれぞれプロパン・ブタンであるのに対して、都市ガスの主成分は天然ガスです。
LPガス業界の市場動向
都市ガス・オール電化普及による競争激化
全国LPガス協会によると、LPガスの国内需要は1996年の1,970万トンをピークに一貫して減少傾向にあり、近年ではピーク時の約30%減にあたる1,400万トンまで落ち込んでいます。(参照:一般社団法人全国LPガス協会「LPガス業界の現況について」)
需要減少の要因には都市ガスやオール電化の普及が挙げられます。2016年に電気の自由化、2017年には都市ガスの自由化が決定され、新規参入する事業者が急増しました。
都市部ではLPガスから都市ガスへの転換が急速に進行しており、既にLPガスの需要家数を都市ガスの需要家数が上回っている状況です。また、2021年3月時点でのオール電化住宅の割合は14%を超えており、今後もオール電化を採用する住宅の増加が予想されます。(参照:マイボイスコム「オール電化住宅に関するアンケート調査(第6回)」)
災害対策としての底堅い需要
一般家庭でのLPガス需要は減少しているものの、災害時のエネルギー供給においてLPガスは重要な役割を担っています。
LPガスは各家庭への容器設置による分散型供給が特徴的です。仮設住宅への設置が容易であるほか、災害時、供給設備に問題が生じた場合でも一戸単位で短時間の修理が可能になります。
LPガスは備蓄面でも優位性があります。通常各家庭には2本の容器が設置されるため、1本は災害時に半月以上利用できるエネルギー源として備蓄されます。他エネルギーとは異なり、品質劣化が起きないため半永久的な保存が可能です。
また、LPガス自動車の大半はタクシーであるため、ガソリンや軽油などのようなパニック買いは発生しにくいです。LPガススタンドは高圧ガス設備であり高い耐震性を誇ることから、災害発生時における移動手段のエネルギー源としも重宝されています。
有事に重要な役割を担うLPガスには、エネルギー源多様化の一つの選択肢として期待されています。

保安機能のネットワーク化が課題
LPガス業界の今後の課題には保安体制のネットワーク化が挙げられます。
LPガスの販売に際しては、液化石油ガス法によって設備点検・定期調査・重要事項周知などの保安義務が課せられています。
保安業務は、販売事業者自らが行う場合と外部機関に委託する場合があります。国は「認定液化石油ガス販売事業者」制度を通じてLPガスの販売事業者が高度な保安機能を備えることを推進しています。
しかし、上記認定の条件にはLPガス設備を無線通信で一括管理する集中管理システムの導入が定められており、投資負担の大きいことを理由に認定を取得する販売事業者は1割未満であるのが現状です。
現状でもLPガスの価格は都市ガスなど他エネルギーと比較しても高いため、販売事業者に追加投資を課すことでLPガス需要の一層の減少が懸念されます。今後、他エネルギーとの共存を図る上でもLPガス供給・保安体制のネットワーク化が業界全体の課題といえます。
LPガス業界のM&A動向
LPガスの需要が後退し、他エネルギーとの競争が激化する中で同業者とのM&Aを通じて中長期的な成長を図る動きが活発化しています。
特に販売量や規模が大きいLPガス販売事業者が、比較的規模が小さく同地域で事業展開する販売事業者を買収する案件が増加しています。
また、大手都市ガス事業者がエネルギーの多様化の一環としてLPガス事業者を買収する例や、中堅事業者が顕在成長が著しいアジア地域でLPガス事業を拡大するために現地企業を買収する例も見られます。
LPガス業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
LPガス業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手の保有する既存顧客層にアプローチできる
- 買い手の保有するサービスを活用することで新たな業態に展開できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット
LPガス業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 売り手の既存契約数が増えることで増販できる
- 規模を活かしてLPガス供給者に対しての価格交渉力が強くなる
- 売り手の事業エリアに販売エリアを拡大できる
- エネルギー事業の多角化を実現できる

LPガス業界のM&A・売却・買収事例
岩谷産業による東京ガスエネルギー(現エネライフ)のM&A
LPガス・LNG・家庭用機器・産業ガス・産業機械の販売などを手掛ける岩谷産業は、東京ガスグループのLPガス販売部門を担う中核企業として、関東・首都圏においてLPガスの卸売や小売直売、自動車用LPガス販売などを手掛ける東京ガスエネルギーの全株式を取得しました。
- 実行時期:2022年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:関東圏における事業規模の拡大

Misumiによる石井商店のM&A
南九州においてLPガス小売・卸売などを手掛けるMisumiは、宮崎県を中心にLPガスとガス器具の販売事業を展開する石井商店の全株式を取得しました。
- 実行時期:2022年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:宮崎県内での事業拡大
伊藤忠エネクスによるWP EnergyのM&A
伊藤忠商事株式会社の連結子会社で、石油製品、LPガスを中心としたエネルギーを提供する伊藤忠エネクスは、タイ国内でブランド別シェア第2位のLPガス販売事業者であるWP Energyの一部株式を取得し、資本業務提携を締結しました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:タイ近隣でのLPガス販売
大丸エナウィンによる太陽プロパンのM&A
近畿圏において、LPガス・住宅設備機器の販売を中心に、ミネラルウォーター製造・宅配、在宅医療機器レンタル、医療産業ガス販売などを手掛ける大丸エナウィンは、福井市でLPガスや燃焼器具の販売事業を手掛ける太陽プロパンの全株式を取得しました。
- 実行時期:2021年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:北陸地方での事業拡大


東京ガスによるキャッスルトン・リソーシズ社のM&A
都市ガス・LNG販売事業、電力事業、エネルギー関連事業などを手掛ける東京ガスは、米国テキサス州にてガス開発・生産事業を手掛けるキャッスルトン・リソーシーズの出資比率を46%から約70%に引き上げることで子会社化しました。
- 実行時期:2020年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:北米での事業基盤拡大
三愛石油(現三愛オブリ)による播州ガスのM&A
ENEOSなどの特約店としての石油製品卸売・小売販売事業、自社ブランドでのLPガス・産業ガス販売事業、羽田空港などでの航空燃料取扱事業などを手掛ける三愛石油は、兵庫県高砂市でLPガス小売販売事業を手掛ける播州ガスの全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:20億円
- 目的:小売事業の新拠点進出
カメイによる最上ガスのM&A
燃料・ガス・産業資機材・オフィス用品・ITシステム・化学品・食品などの商社事業、家庭向けLPガス・灯油・ガス機器の小売事業などを手掛けるカメイは、山形県新庄市に本社を置き、LPガス・灯油の小売業と配管工事業を手掛ける最上ガスの全株式を取得しました。
- 実行時期:2019年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:家庭向け事業の強化


おわりに
本記事のまとめ
LPガス業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
エネルギー転換の潮流を受け、LPガスも都市ガスやオール電化への転換が加速しています。競争がますます激しさを増す市場であるために、LPガス業界でのM&Aは経営戦略として重要性を増しています。
また、今後エネルギー転換が進行する中でも、災害などの有事におけるLPガスの有用性は他エネルギーとの差別化要因になるため、こうした需要に着目したM&Aも今後増加していくと予想されます。
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