バス会社のM&A・売却・買収事例、業界動向

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バス会社業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。バス会社は慢性的な運転者不足に苦しんでいます。

本記事では、そうしたバス会社の市場動向を解説するとともに、バス会社におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。

目次

バス会社の概要・市場動向

バス会社とは

バス会社とは、乗客をバスに乗せて目的地まで運んで、その対価として運賃を得る事業を運営する会社をいいます。

バス会社は運輸局から、一般乗合旅客自動車運送事業もしくは一般貸切旅客自動車運送事業の許可を得なければなりません。前者は路線バスや高速バスを指し、後者はツアー観光や企業の送迎バスを指します。

バス会社の市場動向

運転者の不足

バス会社は慢性的な運転者不足に陥っています。

国土交通省「数字で見る自動車2020」によると、運転者数の人数は平成16年頃から緩やかに増加しており、平成30年時点で84,020人いることが分かります。しかし、100万キロ当たりの運転者数は同期間で2.4人から2.7人に増加しており、運転者一人当たりの負担が増加していることが分かります。

実際、自動車運転の有効求人倍率は全職業平均より2倍程度高くなっており、労働供給が不足しています。

運転者不足は、運転者の労働環境に起因しています。国土交通省「自動車運転業務の現状」からは、自動車運転業務に従事する人の労働時間は1~2割ほど長く、所定外労働時間も全職業平均の2~3倍長いことが分かります。

労働時間が長いにもかかわらずバス運転者の年間賃金は全職業平均よりも1割ほど低いため、待遇改善が急務です。

地方における交通手段としての役割

近年では地方におけるバスの重要性が高まっています。

国土交通省「数字で見る自動車2020」によると、乗り合いバスの輸送人員は平成元年の6,552百万人から平成30年には4,348百万人まで減少しています。特に三大都市圏以外の輸送人員は同期間で5割ほど減少しています。

一方、1人当たりの平均乗車距離は平成2年の5.2キロから平成30年には8.1キロまで増加しています。

路線バスの運行が許可された距離が長くなっていることも要因の一つとして挙げられるほか、運行距離が長い地方において高齢者によるバス需要が高まった結果であると推測されます。

これまで自家用車は地方での交通手段において大きな役割を担っていましたが、近年では高齢者の免許返納が加速したことで公共交通手段の利用が増加しています。

警察庁「運転免許統計」によると、申請による運転免許の取り消し件数は平成25年には137,937件でしたが、令和3年には517,040まで増加しています。新聞やニュースで高齢者による交通事故がたびたび取り上げられ社会問題化していることが原因だと考えられます。

過疎化が進行する地方では公共交通手段が減少しているため、地方における交通手段としてバスの需要が増加しています。

MaaSに向けた取り組み

交通面での課題を解決するためにMaaSの実現に向けた取り組みが行われています。

MaaSとはMobility as a Serviceの頭文字で、利用者の異動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で完結させるサービスを指します。

バスも交通手段の一つとしてMaaSに組み込まれており、他交通手段と組み合わせてパッケージ化したサービスを提供する、需給に合わせて価格を変動させるなどの取り組みが期待されています。

バス会社のM&A動向

バス会社では、事業継続が難しい場合でも利用客の利便性を考慮すると廃業できないため、中小バス会社間でのM&Aが多く見られます。

また大手企業による再編も頻繁に行われており、コスト削減や運転者不足解決などの目的の下でM&Aが実施されています。

事業エリアを拡大したい大手企業が経営が苦しい地方の中小企業を買収する事例もあるほか、許認可が必要なバス会社業界に参入するために交通系の周辺業種企業が中小バス会社を買収する例もあります。

バス会社におけるM&Aのメリット

売り手のメリット

バス会社のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 廃業することなく利用者に継続してサービスを提供できる
  • M&Aを契機に運転者の待遇改善に繋げることができる
  • 買い手の知名度により運転者を採用しやすくなる
  • 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
  • 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができ
  • M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる”

買い手のメリット

バス会社のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 売り手のカバーする運行エリアへ拡大できる
  • 売り手の抱える経験のある運転者を確保できる
  • 売り手の保有する許認可ごと獲得できる
  • 売り手の保有するバス車両をそのまま活用できる
  • 運行形態(乗り合いバス、貸し切りバスなど)が異なる場合、新規に顧客を獲得できる

バス会社のM&A・売却・買収事例

京福バスによる京福リムジンバスのM&A

京福電気鉄道の完全子会社である京福バスは、石川県で路線バス・貸し切りバスの運行を手掛ける京福リムジンバスを吸収合併しました。

  • 実行時期:2022年4月
  • スキーム:吸収合併
  • 取引価額:非公開
  • 目的:グループ内事業の効率化

みちのりホールディングスによる佐渡汽船のM&A

バスをはじめとする公共交通事業を行うグループの持株会社であるみちのりホールディングスは、佐渡島と本土を結ぶ海上交通事業を手掛ける佐渡汽船の第三者割当増資を引き受けることで、株式66.7%を取得し子会社化しました。

  • 実行時期:2022年3月
  • スキーム:第三者割当増資
  • 取引価額:非公開
  • 目的:経営再建

名古屋鉄道による名鉄運輸のM&A

グループで鉄道・バス・タクシー・船事業、運送・引越事業、ホテル事業、百貨店事業、旅行・レジャー事業、不動産事業などを手掛ける名古屋鉄道は、連結子会社の名鉄運輸に対してTOBを実施して、70.11%まで議決率を引き上げました。

  • 実行時期:2022年3月
  • スキーム:TOB
  • 取引価額:43億1,479万円
  • 目的:円滑な事業運営体制への移行

茨城交通によるなの花交通バスのM&A

茨城県の県央・県北地区を中心に、バス事業や旅行業、タクシー事業などを手掛ける茨城交通は、千葉県佐倉市に本社を置き貸切バスや路線バスの事業を手掛けるなの花交通バスの全株式を取得しました。

  • 実行時期:2021年8月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:成田空港からの送迎客獲得

丸建つばさ交通によるバス事業のM&A

埼玉県北足立郡伊奈町に本社を置く丸建つばさ交通は、さいたま市や上尾市、桶川市などで「けんちゃんバス」の名称で路線バスを運営する丸建自動車からバス事業を譲り受けました。

  • 実行時期:2021年2月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:事業の継続運営

エイチ・アイ・エスによる九州産業交通ホールディングスのM&A

国内・海外旅行事業やテーマパーク事業、ホテル事業などを手掛けるエイチ・アイ・エスは、路線バス事業や観光バス事業、旅行事業、不動産賃貸事業など九州産業交通ホールディングスに対してTOBを実施して、保有割合を84.64%から91.58%まで高めました。

  • 実行時期:2019年3月
  • スキーム:TOB
  • 取引価額:11億円
  • 目的:金融機関に対する信用力向上

三井物産によるWILLERS PTE. LTD.への第三者割当増資

金属資源やエネルギーなどの各分野において、多種多様な商品販売およびロジスティクスなどの事業を手掛ける三井物産は、自動運転バスへの取り組み、MaaSプラットフォームの開発・運営などを手掛けるWILLERS PTE. LTD.へ第三者割当増資を実施しました。

  • 実行時期:2019年10月
  • スキーム:第三者割当増資
  • 取引価額:非公開
  • 目的:次世代モビリティサービスの創造

神姫バスによる神姫グリーンバスとウエスト2社のM&A

観光バスの運行を行っている神姫バスは、バス事業や旅行業を行う神姫グリーンバスとウエストを合併しました。

  • 実行時期:2022年10月
  • スキーム:吸収合併
  • 取引価額:非公開
  • 目的:ノウハウの共有による事業運営のさらなる効率化

博報堂によるやさいバスのM&A

新規事業開発に注力する博報堂は、共同配送物流システム「やさいバス」を運営するやさいバスと資本業務提携を行いました。

  • 実行時期:2020年02月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:“チーム企業型”での新規ビジネス創出

モリタホールディングスによるEVモーターズ・ジャパンのM&A

産業機械、環境車輌の事業を行うモリタホールディングスは、バスなどの電気自動車メンテナンスなどを行うEVモーターズ・ジャパンと業務提携を行いました。

  • 実行時期:2023年3月
  • スキーム:第三者割当増資
  • 取引価額:非公開
  • 目的:独自のEVシャシのための高い技術力と柔軟な開発体制構築

日本工営によるPT Aino IndonesiaのM&A

総合建設コンサルタントの日本工営は、バス高速輸送システムなどを行うPT Aino Indonesiaと資本業務提携を行いました。

  • 実行時期:2022年06月
  • スキーム:資本業務提携
  • 取引価額:非公開
  • 目的:データ分析レポートや分析ツールの提供

宮崎トヨタ自自動車による宮崎交通のシェアサイクル事業のM&A

宮崎トヨタ自動車などを行う宮崎トヨタ自動車は、路線バスなどのコア事業に注力する宮崎交通のシェアサイクル事業「PiPPA」を譲り受けました。

  • 実行時期:2021年8月
  • スキーム:事業譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:地域に貢献するサービスの提供

東急バスによる東急トランセのM&A

自動車運送事業などを行う東急バスは、路線バスをはじめ、東急バスの路線バスの運行受託を行う東急トランセを吸収合併しました。

  • 実行時期:2024年4月
  • スキーム:吸収合併
  • 取引価額:非公開
  • 目的:事業運営全体の効率化

おわりに

本記事のまとめ

バス会社の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。

バス会社は、労働環境の悪さから慢性的な運転者不足に陥っています。

一方で、地方での高齢者を中心に公共交通機関として不可欠な存在でもあるため、業務の効率化や事業の継続を目的としたM&Aが今後ますます加速していくと見込まれます。

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