ホテル・旅館業界のM&A・売却・買収事例、業界動向

ホテル・旅館業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。ホテルや旅館はコロナによる宿泊者数の減少で経営状態が苦しい状態が続いています。
本記事では、そうしたホテル・旅館業界の市場動向を解説するとともに、ホテル・旅館業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
ホテル・旅館業界の概要・市場動向
ホテル・旅館業界とは
ホテル・旅行業界とは、施設の利用者に対して宿泊、飲食、挙式などのサービスを提供する業界をいいます。ホテル・旅行事業は、旅館業法によりホテル営業・旅館営業・簡易宿泊営業・下宿営業の4つに分類されます。
厚生労働省はホテル業を「日本標準産業分類における宿泊業の中で、宿泊の他に宴会場・レストランなどの付帯設備を持つシティホテルやコミュニティホテル、リゾートホテルなどの関連業務」と定義しています。
また、日本標準産業分類によると、「一般公衆や特定の会員等に対して宿泊を提供する事業所」として定義されています。
ホテル・旅館業界の市場動向
コロナにより宿泊者数が激減
ホテル・旅館業界は、コロナにより利用者数が激減したことで市場は大きく縮小しました。
観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2021年の延べ宿泊者数は2019年比で46.7%減となる3億1,777万人でした。渡航制限の影響を受けて外国人の宿泊者数の落ち込みは顕著であり、外国人に限定すると2021年の宿泊者数は432万人で、2019年比では96.3%で減少しています。2022年9月時点でも2019年同期と比べて9割以上減少しています。
コロナ以前は外国人宿泊者数が全旅行者数の2割を占めていたため、インバウンド需要の回復はホテル・旅行業界にとって不可欠です。
一方、日本人の宿泊者数は2020年から2021年にかけて0.7%増加しており、2021年12月にはコロナ以前となる2019年12月の日本人宿泊者数を2.4%上回りました。直近では、2022年9月の日本人宿泊者数が前年比で70.5%増加しており、通年でも2021年と比べて宿泊者数の大幅な増加が期待されています。
旅行スタイルの多様化
近年ではネットエージェント・宿泊予約サイトなどが充実したことに加えて、感染対策が意識されたことで旅行スタイルが変化しつつあります。
国土交通省「観光白書」によると、コロナ以前は月ごとに旅行需要が変動しており、長期休暇を取ることができる5月と8月の旅行者数が突出していました。
そのため、繁忙期と閑散期の需要を平準化することが業界全体の課題でしたが、コロナ以降は旅行者が集中していた同時期の旅行が控えられるようになりました。休祝日・平日間でも平準化の傾向が見られますが、コロナ終息後は元の水準に戻る可能性もあり注視する必要があります。
最近では旅行時期に加えて旅行地域にも変化が見られます。
コロナ前後で東京・大阪・愛知・北海道・長野・沖縄・静岡などの主要観光地への旅行者数が激減しました。密を回避する目的でこのような選択がなされたと推測されますが、結果として地域間の観光格差是正に繋がっています。旅行時期と同様にコロナ収束以降は元の傾向に回帰すると考えられますが、地域によっては今後の観光需要を喚起する絶好の機会です。
また、地域を問わずマイクロツーリズムが加速しています。
マイクロツーリズムとは近隣地域内での観光を指します。2019年から2022年にかけて国内全エリアで域内旅行者割合が増加しており、新たにマイクロツーリズムの魅力に気づいた旅行者層は今後も継続して利用する可能性があります。
ホテル・旅館は上記の旅行トレンドの変化が持続的かどうか判断して、自社のマーケティング施策に活用することが求められています。
事業承継や人手不足が課題
コロナによる一時的な利用者数減少は前述の通りですが、旅行・ホテル業界には需要回復以外にも解消すべき課題が蓄積しています。
ホテル・旅館の経営者の年齢層を見ると、60歳以上が62.4%を占めています。
日本政策金融公庫「生活衛生関係営業の事業承継に関するアンケート調査結果」によると、ホテル旅館業で「後継者がいない」と回答した割合は、12.7%です。これは生活衛生関係営業の中では飲食業に次いで高い数値となっており、後継者不足が業界の課題と言えます。
経営者のみならず雇用者に関しても労働環境面での課題があります。
ホテル・旅行業界は人手不足に悩んでおり、2019年の有効求人倍率は3.95倍でした。全職業では1.45倍であったため、労働供給が不足している状況が読み取れます。この要因には離職率の高さと賃金の低さが要因とされます。コロナ以前は全職業と比較して離職率は1%ほど高く、賃金は150万円ほど低い状況でした。
労働環境の改善には労働生産性の向上を伴う必要があり、単に接客の質を向上させるのみならずマーケティング施策を見直したり、他業種との連携により新たサービスを提供するといった改革が必要です。

ホテル・旅館業界のM&A動向
ホテル・旅行業界では不動産の獲得・人材の確保・新事業展開を主な目的としてM&Aが実施されています。
近年ではインバウンド需要の高まりに着目した国内外ファンドがホテル・旅館を買収する事例も見られます。特に、地方のホテル・旅館は固定客を確保することが難しく、市場のトレンドに追随できていない事業者も少なくないため、事業再生の対象になる場合が多いです。
クロスボーダーのM&Aも活発です。コロナにより業績を落としている国内企業を海外、特に中国人投資家が買収するケースや、海外進出を図って現地のホテル事業者を買収するケースなどが増加しています。

ホテル・旅館業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
ホテル・旅館業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手のブランドや知名度を利用できる
- 経営を改善し従業員の待遇を改善できる
- 大手資本の下で大規模なマーケティング施策を実施できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
ホテル・旅館業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- M&Aを通じて売り手の不動産を確保できる
- 接客の経験が豊富な即戦力人材を確保できる
- 自社の進出していない新たなエリアに進出できる
- 売り手の常連客を自社グループに取り込むことができる
- 売り手の持つホテル・旅館事業のノウハウを獲得できる

ホテル・旅館業界のM&A・売却・買収事例
野村不動産HDによる野村不動産ホテルズとUHMのM&A
住宅・オフィス・商業施設・物流施設分野で不動産ビジネスを展開する野村不動産は、野村不動産の子会社で都市開発部門に属するホテル運営会社である野村不動産ホテルズと、2019年に野村不動産グループに入ったUHMを合併しました。
- 実行時期:2022年1月
- スキーム:合併
- 取引価額:非公開
- 目的:ノウハウおよび人材の共有

三菱地所によるロイヤルパークホテルのM&A
「オフィスビル・商業施設などの開発や賃貸、管理事業」、「収益用不動産の開発、資産運用事業」、「住宅用地・工業用地などの開発事業」、「不動産の売買や仲介、コンサルティング事業」を手掛ける三菱地所は、東京で「ロイヤルパークホテル」を運営するロイヤルパークホテル社と、三菱地所:ロイヤルパークホテル=0.025:1の交換比率で株式交換を実施しました。
- 実行時期:2021年8月
- スキーム:株式交換
- 取引価額:非公開
- 目的:ホテル事業の運営力強化

ブラックストーンによる近鉄グループホールディングスのM&A
アメリカに拠点を置く大手投資ファンドであるブラックストーンは、同社が運用・投資アドバイザーを務めるファンドが設立したTrain (Singapore) Holdco Pte. Ltd.を買い手として、ホテル・レジャー事業や不動産事業、運輸事業などを手掛ける近鉄グループホールディングスのホテル事業を吸収分割により取得しました。
- 実行時期:2021年10月
- スキーム:吸収分割
- 取引価額:500億円
- 目的:ホテル経営のノウハウ共有

ハウステンボスによるウォーターマークホテル長崎のM&A
長崎県にある人気テーマパークを運営するハウステンボスは、2011年からHISグループの傘下企業としてハウステンボス園内に立地するホテルを運営するウォーターマークホテル長崎の全株式を取得しました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ブランド力の強化

サンフロンティア不動産によるホテル大佐渡のM&A
不動産仲介や土地活用の提案、建設ソリューション事業などを手掛けるサンフロンティア不動産は、佐渡島の相川地区春日崎でホテルを運営するホテル大佐渡の全株式を取得しました。
- 実行時期:2021年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地方推進事業の拡大

ベルーナによるKarakami HOTELS&RESORTSのM&A
通販事業や店舗販売事業、ファイナンス事業などを手掛けるベルーナは、リゾートホテルやビジネスホテル、貸会議室の運営事業を手掛けるKarakami HOTELS&RESORTSから定山渓ビューホテルの権利義務を譲り受けました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:インバウンド需要の獲得

ブリーズベイホテルによるホテル小田急静岡のM&A
ホテルの運営事業や買収再生業を手掛けるブリーズベイホテルは、小田急電鉄の子会社として「ホテルセンチュリー静岡」を運営するホテル小田急静岡の全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ホテル事業の拡大
おわりに
本記事のまとめ
ホテル・旅館業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
ホテル・旅館業界はコロナ以前は順調に宿泊者数を伸ばしていた一方で、コロナによって大きく市場が縮小しました。現在は国内宿泊者数は復調傾向にありますが、依然として外国人宿泊者数は低いままです。
また、コロナを契機として旅行スタイルが変化した可能性もあり、今後もトレンドを注視する必要があります。
旅行者の需要変化に対する対応や、新たな需要獲得に向けたマーケティング施策など、コロナ収束とともに回復する需要を獲得するために今後徐々にM&Aは活発化していくと考えられます。

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