お弁当・総菜屋の業界動向、M&A・売却・買収事例27選
お弁当・惣菜屋業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。お弁当・惣菜屋は、単身世帯の増加を踏まえて順調に成長しており、今後も配食サービスなどの新たな需要の獲得が見込まれます。
本記事では、そうしたお弁当・惣菜屋業界の市場動向を解説するとともに、お弁当・惣菜屋業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
お弁当・総菜屋業界の概要・市場動向
お弁当・総菜屋業界とは
お弁当・惣菜屋業界とは、携帯できるようにした食糧のうち食事に相当するものを提供したり、主食とともに食べる副食を提供する業界をいいます。
お弁当・惣菜は、外食業界・中食業界・内食業界のうち、持ち帰って食べる中食業界に該当します。
食材を加工して提供する場合、昼食業界でも食衛生法に基づいた食品営業許可が必要になります。調理加工しない場合でも食材によっては、魚介類販売業・食肉販売業などの営業許可が必要になることがあります。
お弁当・総菜屋業界の市場動向
増加する中食需要
お弁当・惣菜屋需要は右肩上がりで拡大しています。
日本フードサービス協会「データから見る外食産業」によると、お弁当・惣菜屋が該当する料理小売業の市場規模は一貫して増加しており、2019年には7兆7,594億円に達しています。(注:消費者の注文によって調理をして提供する事業者は除く)
コロナの影響を受けた2020年でも3.2%の減少にとどまっており、外出自粛を踏まえてデリバリーサービスを始めたお弁当・惣菜屋が増加したことに鑑みると、売上の回復が期待できます。
お弁当・惣菜屋業界が安定して成長する背景には、生活様式の変化があります。
近年では晩婚化、未婚化が進行しているため単身世帯が増加しており、手軽に食べられるお弁当・惣菜が好まれています。供給側も消費者の嗜好に合わせたお弁当・惣菜の開発に強化しており、コンビニでもプライベートブランドとして惣菜が売り出されています。
コンビニが惣菜市場を牽引
惣菜市場の成長はコンビニによって牽引されています。
一般社団法人日本総菜協会「2021年版惣菜白書ダイジェスト版」によると、惣菜市場は2010年以降一貫して拡大しており、2019年には2010年比で27.1%増加しています。
2020年時点での惣菜市場の割合を見ると、CVSが最も多く32.1%を占めています。2014年比での成長率も20.4%と最も高いため、CVS業界全体が惣菜の販売を強化していることが分かります。
食料品スーパーでも惣菜が充実しており、2021年には2014年比で19.2%拡大し、惣菜市場全体の26.6%を占めています。
近年では消費者のニーズが多様化していることに着目して、新規開店している惣菜屋も多く見られます。
しかし、専門店全体の規模は2014年からほとんど変化していないことから、コンビニ・スーパーなどとの消費者獲得競争が激化していることがうかがえます。
拡大する宅配サービス
今後のお弁当・惣菜屋の成長ドライバーには、宅配サービスの拡大が挙げられます。
食品宅配市場は2020年度には前年比14.3%増の2兆4,969億円に及んでおり、2025年度までには2兆9,321億円までの拡大が予測されています。
大手宅配サービス事業のUber Eatsの加盟店舗数は2021年5月から2022年1月の間に10万から15万店舗まで拡大しており、新たに宅配サービスに加盟することでお弁当・惣菜屋市場が拡大することが期待されます。
今後の動向として、高齢者向けの配食サービスの拡大が予想されます。
高齢者世帯数の増加や医療・介護の在宅化が進行したことで、お弁当・惣菜屋の配食サービスが栄養管理の役割を担うことが期待されています。この将来的な需要に着目して新たに高齢者向けの配食サービスに参入する事業者も見られます。
お弁当・総菜屋業界のM&A動向
弁当・惣菜屋業界では同業者間のM&Aが多いですが、新規参入を図りやすい点も特徴的です。
同業者を買収する場合、製造・販売ノウハウの共有や事業エリアの拡大、設備や店舗の獲得などがM&Aの目的とされます。
新規参入においては、他業界と比較すると大手企業のシェアは高くなく初期投資も安価に抑えられるため、参入障壁が低い業界です。
近年では女性や高齢者向けのお弁当・惣菜需要が高まっていることから、健康関連業界からの参入も増加しています。
お弁当・総菜屋業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
お弁当・惣菜屋業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手企業の購買力を生かして食材を安価で仕入れることができる
- 買い手企業の知名度やブランドを利用できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
お弁当・惣菜屋業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 売り手の持つ厨房や調理機器をそのまま活用できる
- 売り手の抱える既存顧客を獲得できる
- 仕入れ・物流面でスケールメリットを享受できる
- 消費者のニーズに合わせて多種類展開ができるようになる
お弁当・総菜屋のM&A・売却・買収事例
ぐるなびによる楽天デリバリーと楽天リアルタイムテイクアウト事業のM&A
飲食店の情報を集めたウェブサイトを運営するぐるなびは、出前・宅配サービスの専門サイトである楽天デリバリーと、近隣の飲食店のテイクアウトをWebで簡単に注文できて店頭で待たずに受け取れるサービスを手掛ける楽天リアルタイムテイクアウトを楽天グループから譲り受けました。
- 実行時期:2021年4月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:1,300万円
- 目的:飲食店に対する送客力の向上
レパストによるマシモの食品工場事業の譲り受け
給食や食堂の受託運営および在宅配達事業などのフードサービスを提供するレパストは、寿司・弁当を製造して大手食品スーパーなどに販売するマシモから食品工場を譲り受けました。
- 実行時期:2020年11月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:食を取り巻く環境変化への対応の強化
ダスキンによる宅配ピザ事業のM&A
クリーンサービス、ユニフォームサービス、ターミニックス、ホームリペアなどの事業を手掛けるダスキンは、「ナポリの窯」および「ストロベリーコーンズ」の宅配ピザブランドを保有するいちごホールディングスと、同社の子会社であるストロベリーコーンズから宅配ピザ事業を譲り受けました。
- 実行時期:2020年6月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:フード事業の拡大
スマイルダイニングによる「パティスリー雪乃下」事業のM&A
神奈川県横浜市を拠点に、弁当販売店・居酒屋、会員制ワインバーなど各種飲食店の運営を手掛けるスマイルダイニングは、居酒屋や和食・洋食、洋菓子などの飲食店を運営するエイトから「パティスリー雪乃下」の事業を譲り受けました。
- 実行時期:2020年2月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:M&Aを活用した業容拡大
あいネットグループによる惣菜・仕出し事業「楽多厨房」のM&A
互助会を基盤にした結婚式・葬儀などの冠婚葬祭サービス・ホテルサービスを手掛けるあいネットグループは、「楽多厨房」を通じて顧客に手作り惣菜とお弁当を提供する和田フードセンターから惣菜・仕出し事業である「楽多厨房」を譲り受けました。
- 実行時期:2019年12月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ブランドの確立
日清製粉グループ本社によるトオカツフーズのM&A
日清製粉グループの持株会社であり、ニップン・昭和産業・日東富士製粉とで製粉大手4社を構成する日清製粉グループ本社は、総合中食サプライヤーで日清製粉グループ本社関連会社であるトオカツフーズの株式51%を取得しました。
- 実行時期:2019年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:中食・惣菜事業の拡大
小僧寿しによるデリズのM&A
持ち帰り寿司店「小僧寿し」などを展開する小僧寿しは、宅配代行サービス事業を手掛けるデリズを子会社化しました。
- 実行時期:2018年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:デリバリー事業の拡大
小僧寿しによるモリヨシのM&A
「小僧寿しチェーン」のFC展開を行っている小僧寿しは、東洋商事と和惣菜を中心とした製造販売を行うモリヨシを子会社化しました。
- 実行時期:2023年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:物流機能の活用
ミライトリンクによる上市魚市場のM&A
惣菜の店頭およびEC販売を行うミライトリンクは、仕出し専門店を運営する上市魚市場を子会社化しました。
- 実行時期:2022年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:経営基盤を結集
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスによるカネ美食品のM&A
ドン・キホーテなどを傘下にもつ持株会社のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、・惣菜等の製造販売などを行うカネ美食品の株式を取得しました。
- 実行時期:2022年8月9日
- スキーム:TOB
- 取引価額:約32億6,188万円
- 目的:企業価値向上
ニップンによるオーケー食品工業のM&A
中食事業など食品事業を幅広く展開しているニップンは、加工品の製造販売を主業に、惣菜類などの仕入れ販売も行うオーケー食品工業を子会社化しました。
- 実行時期:2022年7月
- スキーム:株式交換
- 取引価額:非公開
- 目的:グループ全体の企業価値向上
トーカンによる三給のM&A
食品卸売業を行っているトーカンは、業務用食材料の卸売業を行う三給を子会社化しました。
- 実行時期:2021年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:さらなる企業価値向上
ハークスレイによるメイテンスのM&A
「ほっかほっか亭」を全国に展開しているハークスレイは、創作おこわを販売する「おこわ米八」を展開しているメイテンスを子会社化しました。
- 実行時期:2019年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:高齢者の食市場の更なる開拓
ロート製薬によるおいしいプラスのM&A
医薬品などの製造販売を行っているロート製薬は、お弁当の製造・販売を行っているおいしいプラスと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2023年05月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:マーケティングの強化や販売網の拡大
OMOTENASHIによるフードデリバリー事業のM&A
宅配・ケータリング事業の一連のノウハウを有するOMOTENASHIは、飲食店紹介サイトを運営するぐるなびより法人向けフードデリバリー事業を譲り受けました。
- 実行時期:2020年1月
- スキーム:会社分割
- 取引価額:非公開
- 目的:企業価値の向上
ブロンコビリーによる松屋栄食品本舗のM&A
ステーキ・ハンバーグのレストラン事業を展開しているブロンコビリーは、調味料・惣菜の製造を行っている松屋栄食品本舗を子会社化しました。
- 実行時期:2022年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:自社ブランドの認知度の強化
貝印によるフードアンドパートナーズのM&A
製菓用品等の販売を行っている貝印は、食品・食関連商品の製造・販売事業、飲食事業を行っているフードアンドパートナーズを子会社化しました。
- 実行時期:2020年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業改善
久世による東京中央食品のM&A
外食企業向けに食材・資材を提供している久世は、老人福祉施設向けの食材卸会社である東京中央食品と資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2020年4月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:業務効率化
スターゼンによるADiRECT Singapore Pte.Ltd.のM&A
和牛輸出販売を中心に行うスターゼンは、生肉の輸出入や弁当・総菜製造を行っているADiRECT Singapore Pte.Ltd.と資本業務提携契約を行いました。
- 実行時期: 2018年01月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:企業価値向上
ナッシュによるマイナビおよびマルハニチロのM&A
食事宅配サービスを提供するナッシュは、総合情報サービス企業のマイナビおよび大手食品会社のマルハニチロと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2022年04月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:ビジネス拡大
オーシャンシステムによるヨシケイ両毛のM&A
夕食食材セットの宅配事業などを展開しているオーシャンシステムは、食材料セット等の宅配を行っているヨシケイ両毛を子会社化しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:営業エリア拡大とキャッシュ・フローの創出
SRSホールディングスによるNISのM&A
レストランチェーンの経営を行うグループの持株会社SRSホールディングスは、テイクアウト唐揚げ専門店「鶏笑」を運営しているNISを子会社化しました。
- 実行時期:2023年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:コストダウンや新商品の開発
神明ホールディングスによるショクブンのM&A
中食・外食産業を手掛けるグループの神明ホールディングスは、家庭用総合食材の宅配および業務用食料品販売を行っているショクブンを子会社化しました。
- 実行時期: 2021年02月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:顧客満足向上と拠点拡大
鈴茂器工によるBluefin Trading LLCのM&A
寿司ロボット等の米飯加工機械の開発・製造を行う鈴茂器工は、寿司などのテイクアウト専門店等を展開しているBluefin Trading LLCを子会社化しました。
- 実行時期:2019年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:販売拡大
新東京デリカによるワタミの食品製造販売事業のM&A
一貫して食品加工製造を行う新東京デリカは、外食店舗や宅食営業拠点へ商品を提供しているワタミより食品製造販売事業を譲り受けました。
- 実行時期:2018年10月
- スキーム:事業継承
- 取引価額:9億4,000万円
- 目的:両グループの更なる発展
ゼンショーホールディングスによるSushi Circle Gastronomie GmbHのM&A
グループにすき屋などのフードサービスチェーンを経営するゼンショーホールディングスは、ドイツで寿司のテイクアウト店等を運営するSushi Circle Gastronomie GmbHを子会社化しました。
- 実行時期: 2023年05月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的: 店舗運営機能などとのシナジー効果
ゼンショーホールディングスによるAdvanced Fresh Concepts Corp.のM&A
すき屋などのチェーン店を経営するゼンショーホールディングスは、北米、オーストラリアで寿司のテイクアウト店を主展開しているAdvanced Fresh Concepts Corp.を子会社化しました。
- 実行時期:2018年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:海外事業の成長力強化
おわりに
本記事のまとめ
お弁当・惣菜屋業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
お弁当・惣菜屋業界は、コロナ禍を契機に消費者の生活様式が変化したことを背景に安定した成長を続けています。
コロナ後も宅配サービスの充実や高齢者向けの配食サービスなど、新たに消費者を取り込む余地がある業界であるため、自社で提供できるメニューの拡大を目的とした事業譲渡を中心にM&Aが活発化すると予測されます。
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