駐車場業界の業界動向、M&A・売却・買収事例14選
駐車場業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。駐車場業界では事業規模の拡大や好立地の駐車場を獲得するため、M&Aが活発に行われています。
本記事では、そうした駐車場業界の市場動向を解説するとともに、駐車場業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
駐車場業界の概要・市場動向
駐車場業界とは
駐車場業界とは、自動車を駐車するスペースを貸し出し、その利用料で収益を得る業界を指します。駐車場業は大きく月極駐車場と時間貸駐車場に分けられます。
月極駐車場とはひと月単位で賃貸される駐車場で、一般的に書面による賃貸借の契約を結びます。時間貸駐車場とはコインパーキングとも呼ばれ、利用者が空いている車室に駐車し、利用した時間分の料金を払う駐車場を指します。月極駐車場と時間貸駐車場を併設した駐車場も存在します。
土地があれば参入できるため、比較的参入障壁の低い業界と言われ、所有している土地を有効活用したい個人事業主や中小企業が多く見られます。
駐車場業界の市場動向
駐車場不足を背景とした収益拡大
近年の駐車場業界は好調です。自動車販売数の増加や公共投資の増加により、高い収益を維持しています。
特に都心部はビルが密集し、駐車スペースが足りないため需要が高く、地方より駐車料金が高額になる傾向にあります。月極駐車場は千代田区で4~5万円、北区で2~3万円、23区外の八王子で1~2万円程度が相場になっています。また駅から離れるほど駐車料金は下がる傾向にあります。
一方、参入障壁が低い業界のため、供給過多となっている地域もあります。特にコインパーキングでは稼働率が収益と直結するため、稼働率を上げるための工夫が必要になります。
近年、大手企業では稼働率向上のためタイムリーに空き情報を提供したり、携帯から最寄りの駐車場を検索できるなど様々な施策が行われています。
小型コインパーキングの増加
駐車場業界は小型の土地でも参入でき、初期投資もそれほど掛からないため、個人事業主や中小企業が多く参入しています。
日本パーキングビジネス協会「駐車場便覧2020」によると2018年のコインパーキング数は85,200箇所で、500㎡以下のコインパーキングが全体の93%を占めています。また前回調査の2015年は65,000箇所で、大幅に設置数が増えていることが分かります。特に地方では相続した土地を駐車場にするケースが多く、小型のコインパーキングが多く見られます。
しかし、コインパーキングの収益は立地や環境に左右されるため、土地ごとに潜在需要を見極める必要があります。
カーシェアリングの台頭
近年はカーシェアリングの市場規模が拡大しています。
カーシェアリングとは登録を行った会員間で自動車を共同利用するサービスを指します。ガソリン代や税金、駐車場代がかからず、車検やメンテナンスの必要がないため、需要が伸びています。短時間でも借りられるという手軽さも、カーシェアリングの人気の一因になっています。
カーシェアリングはレンタカーと異なり、ステーションに置いてある車を予約時間に取りに行くというシステムです。そのため、駐車場にカーシェアリングの車両を設置することで、月極駐車場の空き対策として注目されています。
駐車場業界のM&A動向
駐車場業界では近年カーシェアリングが注目されています。カーシェアリングは一般的に駐車場の一区画を利用するため、カーシェアリング用の駐車場確保を目的としたM&Aが進んでいます。
カーシェアの比較情報サイト「カーシェアリング比較360°」によると、カーシェアリング市場主要5社の2022年度第三四半期ステーション数は前年比3.0%増設、車両台数は3.6%増車となっています。今後も市場は拡大すると見られ、それに伴うM&Aも加速すると考えられます。
また、駐車場の拡大を目的としたM&Aも行われています。駐車場業界の企業をM&Aすることで、駐車場の土地を探す手間や、土地のオーナーとの交渉を省けるため、駐車場の確保を効率的に進めることができます。
駐車場業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
駐車場業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 大手企業の傘下でブランド力を向上し安定した経営を続けられる
- 売却益を獲得することで新たな事業に投資できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
駐車場業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 土地を開発する手間を省き、短期間で駐車場を獲得できる
- 売り手のもっている駐車場管理ノウハウを獲得できる
- 事業拡大によるスケールメリットを享受できる
- 売り手の保有する好立地な駐車場を獲得することができる
駐車場業界のM&A・売却・買収事例
三菱地所リアルエステートサービスによる駐車場綜合研究所のM&A
三菱地所の子会社である三菱地所リアルエステートサービスは、駐車場の管理運営を手掛ける駐車場綜合研究所を子会社化しました。
- 実行時期:2018年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:収益の拡大と他事業とのシナジー創出
イネチンホールディングスによるオートリのM&A
駐車場事業や自動車リース関連事業を手掛けるイネチンホールディングスは、関東圏を中心に駐車場業を手掛けるオートリを子会社化しました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ノウハウの共有とシナジーの獲得
日本駐車場開発によるインドネシアの駐車場販売会社のM&A
不動産や駐車場の運営を手掛ける日本駐車場開発は、インドネシアの組み立て型の自走式駐車場を販売するPT.SUN SIFA NIPPONINDOを子会社化しました。
- 実行時期:2013年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:駐車場事業での海外進出
東京建物によるマオスのM&A
不動産事業を手掛ける東京建物は、丸紅の子会社で投資ファンドのアイ・シグマ・キャピタルが株式を保有し、東京都と神奈川県を中心に駐車場事業を手掛けるマオスを子会社化しました。
- 実行時期:2015年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:駐車場事業の拡大と運営の効率化
テクニカル電子によるタキザワ企業のM&A
駐車場の管理・運営を手掛けるテクニカル電子は、新潟県を中心に駐車場事業を手掛けるタキザワ企業を子会社化しました。
- 実行時期:2017年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:6,600万円
- 目的:駐車場事業の拡大
リードによる日鉄日新ビジネスサービスの駐輪事業のM&A
駐輪場のサイクルラックなどの下請け加工を手掛けてきたリードは、日鉄日新ビジネスサービスから駐輪事業を譲り受けました。
- 実行時期:2021年2月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ビジネスチャンスの拡大と収益の向上
大和ハウス工業によるトモのM&A
住宅総合メーカーの大和ハウス工業は、駐車場経営を手掛けるトモを子会社化しました。
- 実行時期:2015年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:駐車場事業の拡大
日本駐車場開発によるロクヨンのM&A
駐車場に関する総合コンサルティングを行っている日本駐車場開発は、不動産の売買、仲介、賃貸等行っているロクヨンを吸収合併しました。
- 実行時期:2023年7月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:組織の合理化
FHTホールディングスによるアイレスのM&A
再生可能エネルギー事業などの環境事業を展開しているFHTホールディングスは、機械式駐車場据付工事・修繕工事等を行っているアイレスを子会社化しました。
- 実行時期: 2021年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:6,220万円
- 目的:不動産情報や管理物件の情報共有
住友商事によるQ-Park Operations B.V.のM&A
モビリティ事業にも展開する総合商社の住友商事は、北欧3カ国において駐車場事業を展開しているQ-Park Operations B.V.を子会社化しました。
- 実行時期:2019年03月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:モビリティプラットフォームの展開
オプテックスによるエクノスのM&A
各種センサーの企画・開発、販売を行うオプテックスは、駐車場管理誘導システム事業を行っているエクノスを子会社化しました。
- 実行時期:2023年04月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:両社のシナジーによる社会貢献性の向上
トスネットによるトップロードのM&A
交通誘導警備、および施設警備を主力として行っているトスネットは、駐車場等の交通誘導警備を行うトップロードを子会社化しました。
- 実行時期:2023年01月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:警備業等のシナジー効果の創出
第一興商によるザ・パークのM&A
カラオケと音楽エンターテインメントなどの提供を行っている第一興商は、駐車場、駐輪場の経営ならびに管理業務を行っているザ・パークを吸収合併しました。
- 実行時期:2023年3月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:グループ経営の効率化
パラカと伊藤忠商事のM&A
駐車場の運営および管理業務を行うパラカは、総合商社の伊藤忠商事と資本業務提携を実施しました。
- 実行時期: 2021年08月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:不動産オーナーのニーズへの対応
おわりに
本記事のまとめ
業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
駐車場業界は参入障壁が低く多くの個人事業主や中小企業が参入しています。しかし、需要が供給を下回っている地域も存在し、稼働率を上げるための様々な工夫が必要になっています。
また、近年はカーシェアリングの台頭により、駐車場の一区画にカーシェアリング用の車両を設置し、空き対策を行う事業主も増えています。
これらの傾向を踏まえて、大手企業のノウハウやブランド力を獲得するためのM&Aが増えています。またカーシェアリング用の駐車場獲得を目的としたM&Aも多く見られます。
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