印刷業界の業界動向、M&A・売却・買収事例29選!
印刷業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。印刷需要の変化に伴い、業界全体としてM&Aを通じた事業転換が求められています。
本記事では、そうした印刷業界の市場動向を解説するとともに、印刷業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
印刷業界の概要・市場動向
印刷業界とは
印刷業界とは印刷や製版を扱う業界であり、出版印刷と商業印刷に大別されます。
出版印刷は書籍・雑誌・地図・参考書など、出版社や新聞社が発行する商業出版物で用いられる印刷をいいます。
商業印刷は、企業や団体の事業活動に用いられる印刷物を指します。商業印刷はさらにチラシ・パンフレットなどの宣伝用印刷、カタログやマニュアルなどの業務用印刷の2つに分類されます。
印刷業界の市場動向
デジタル化に伴う市場縮小
インターネットの普及によりデジタル化が進行し、出版印刷、商業印刷ともに市場が縮小しています。
矢野経済研究所の印刷市場調査によると、印刷業界全体の売上高は一貫して減少しています。また、新たな生活様式に対応した販促施策として、デジタルメディアを活用して購買意欲を喚起する潮流が加速したことで、印刷需要の一層の低下が想定されています。
こうした市場環境変化を背景に、印刷業界の大半を占める中小事業者が印刷需要の減少を吸収できずに倒産しており、近年の業界課題であると言えます。
印刷需要の変化
近年の印刷需要の特徴の一つとして小ロット多品種のニーズが高まっていることが挙げられます。
中小事業者が多い印刷業界では変化する需要に対応して新たに設備投資を行うことが難しいため、こうした需要は生産効率の低下を引き起こしています。
一方で、こうした新たな需要をチャンスと捉え、従来型の印刷サービスから特定の需要に特化した専門性の高い事業に転換する事業者も現れてきています。
周辺サービスへの事業展開
印刷需要の減少を背景に、大手印刷会社を中心に周辺サービスへの事業多角化に取り組んでいます。
印刷サービスを起点としたプロモーションや、ブランディングのための総合的なソリューション提案、バックオフィスなどの業務プロセスを代行するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)事業に取り組む事業者が増えてきています。
印刷業界のM&A動向
印刷業界は、市場縮小や印刷需要の変化を背景にM&Aを通じた業界再編が加速しています。
大手印刷企業にとっては、総合化を図ることを目的に従来の印刷事業に留まらないサービスを展開するために、他事業領域を手掛ける企業とのM&Aは有効な手段となります。
中小事業者にとっては、多様化する印刷ニーズを取り込むために、M&Aを通じて専門性の高い印刷技術を獲得したり、大手資本傘下で安定した需要の捕捉を実現する事例が見られます。
このように、今後も規模の大小を問わず印刷業界のM&A件数は増加していくことが見込まれています。
印刷業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
印刷業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手の資本力を活かして幅広い顧客ニーズに対応できるようになる
- 買い手の印刷技術を活用した事業展開が実現できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
印刷業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 売り手の保有する印刷技術を獲得できる
- 設備投資を伴わず印刷工場や売り手の保有設備を確保できる
- 原材料などを一括購入することによるスケールメリットを享受できる
印刷業界のM&A・売却・買収事例
オストリッチダイヤによる北越パッケージのM&A
一般印刷物の企画・印刷・加工などを手掛けるオストリッチダイヤは、パッケージの企画、デザイン、製造、加工紙、液体容器の製造などを手掛ける北越パッケージから印刷事業を譲り受けました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:パッケージング事業への経営資源の集中
スキットによるアヤトのM&A
商業印刷事業とオリジナル印刷商品開発・販売を手掛けるスキットは、富山県に拠点に企業や公的機関向けに定期刊行物・販促宣伝品・伝票などの印刷事業を手掛けるアヤトの全株式を取得しました。
- 実行時期:2020年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:顧客層の更なる拡大
凸版印刷によるMajend MakcsのM&A
印刷大手の凸版印刷は、タイで軟包装の製造、販売を手掛けるMejend Makcs社の90%の株式を取得しました。
- 実行時期:2020年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:建装材事業におけるグローバルな生産拠点・販売ネットワークの確立
キヤノンプロダクションプリンティングによるイーデールのM&A
キヤノンの子会社であるキヤノンプロダクションプリンティングは、ラベル・パッケージ印刷機の製造・販売事業などを手掛ける英イーデール社を完全子会社化しました。
- 実行時期:2022年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ラベル・パッケージ印刷機分野の拡大
朝日印刷によるHarleighとShin-Nippon IndustriesのM&A
印刷包材事業や包装システム販売事業などを手掛ける朝日印刷は、マレーシアに拠点を置き、各種包装の印刷・製造・販売事業を手掛けるHarleigh社およびShin-Nippon Industries社の2社の株式をそれぞれ65%取得しました。
- 実行時期:2019年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:Harleigh社は約136万米ドル、Shin-Nippon Industries社は約220万米ドル
- 目的:ASEAN諸国における製造拠点・顧客基盤の確立
凸版印刷によるInterprintのM&A
印刷大手の凸版印刷は、ドイツ・アルンスベルク市に本社を構える建装材用化粧シート印刷メーカーであるInterprint社の全株式を取得しました。
- 実行時期:2019年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:3億400万ユーロ
- 目的:建装材事業におけるグローバルな生産拠点、販売ネットワークの確立
共同印刷によるPT Arisu Graphic PrimaのM&A
雑誌、書籍などの出版印刷やカタログ、カレンダーなどの商業印刷製造や、医薬、産業資材、建材の製造などを手掛ける共同印刷は、インドネシアでフレキソ印刷を手掛けるPT Arisu Graphic Primaを子会社化しました。
- 実行時期:2017年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:東南アジアでの市場拡大
スフィダンテによるCONNECTITのM&A
スマホアプリの開発事業者のスフィダンテは、年賀状が作れる「スマホで年賀状」アプリを運営しているCONNECTITを吸収合併しました。
- 実行時期:2023年06月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:企業価値のさらなる向上
ラクスルによるネットスクウェアのオンデマンド印刷事業のM&A
プラットフォーム事業を展開しているラクスルは、法人向けオンデマンド印刷事業を行うネットスクウェアよりオンデマンド印刷事業を譲り受けました。
- 実行時期:2023年8月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:QCDをはじめとするサービス提供価値の向上
フュージョンによる凸版印刷のM&A
総合マーケティング支援事業を行っているフュージョンは、日本の大手印刷会社の凸版印刷と資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2023年2月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:事業拡大
王子イメージングメディアによるAdampak Pte. Ltd.のM&A
王子HDグループの機能材カンパニーである王子イメージングメディアは、高機能ラベル印刷加工会社のAdampak Pte. Ltd.を子会社化しました。
- 実行時期:2022年09月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:原紙から加工までの一貫生産
東洋インキSCホールディングスによる東洋インキのM&A
パッケージ関連事業、印刷・情報関連事業を展開する親会社の東洋インキSCホールディングスは、完全子会社である東洋インキおよび6社を合併しました。
- 実行時期:2023年1月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:DX活用などによる業務効率化
ミツウロコグループホールディングスによるトライフォースのM&A
不動産開発、不動産賃貸を行うグループ会社のミツウロコグループホールディングスは、印刷事業を行っているトライフォースを子会社化しました。
- 実行時期:2021年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:8,700万円
- 目的:総合的な競争力向上
日本創発グループによるアド・クレールのM&A
デジタルコンテンツ事業などを扱う子会社を持つ日本創発グループは、印刷業務、広告代理店事業を行っているアド・クレールと株式交換をしました。
- 実行時期:2021年5月
- スキーム:株式交換
- 取引価額:非公開
- 目的:企業価値向上
光陽社によるKKのM&A
製版・印刷・デジタルコンテンツ制作事業などを行う光陽社は、光陽社の事業活動の支配管理を行うKKをMBOしました。
- 実行時期:2021年3月
- スキーム:MBO
- 取引価額:非公開
- 目的:売上高及び収益の増加
トライサクセスによるトライ・エックスの複写・印刷業の広島事業部のM&A
複写・印刷業事業を行っているトライサクセスは、商品企画・製作・販売などを行うトライ・エックスの複写・印刷業の広島事業部を譲り受けました。
- 実行時期:2021年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:3億8,000万円
- 目的:広島事業部の設立
日本創発グループによる小西印刷所のM&A
デジタルコンテンツ事業などを行う子会社を持つ日本創発グループは、総合印刷業を行っている小西印刷所を子会社化しました。
- 実行時期:2020年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:顧客対応力向上
サカタインクスによるA.M.Ramp & Co.GmbHのM&A
18の国と地域で印刷用インキの製造製造販売を展開するサカタインクスは、印刷用インキの製造販売会社のA.M.Ramp & Co.GmbHを子会社化しました。
- 実行時期:2020年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:欧州セグメントの拡充
日本創発グループによる研精堂印刷のM&A
クリエイティブサービスを事業などを展開する日本創発グループは、総合印刷業を展開している研精堂印刷を子会社化しました。
- 実行時期:2020年1月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業拡大、ワンストップサービスの拡充
トランザクションによるイメージ・マジックのM&A
販促品やノベルティ事業を持つトランザクションは、オンデマンドプリントサービスによるモノづくりのサポートを行うイメージ・マジックと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2020年4月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:企業価値の最大化
プリントネットによる新晃社のオンライン印刷通販サイト事業のM&A
インターネットによる印刷物事業を行っているプリントネットは、新晃社のインターネットによる印刷通販サイト「ネットDEコム/ネットデコム」事業を譲り受けました。
- 実行時期:2019年11月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:1億2,000万円
- 目的:売上増加
ミクシィによるスフィダンテのM&A
家族向け写真・動画共有アプリを提供するミクシィは、スマホフォトプリント事業等を手掛けているスフィダンテを子会社化しました。
- 実行時期:2019年06月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:家族向けコミュニケーションサービスを強化
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズによる富士フイルムGSテクノのM&A
印刷関連機器などの開発を行う富士フイルムグローバルグラフィックシステムズは、製版・印刷・プリント基板関連機器事業を行う富士フイルムGSテクノを吸収合併しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:一層幅広いソリューション提供
ナカバヤシによる日本通信紙のM&A
アルバムや図書館製本作業の大手のナカバヤシは、各種印刷・データプリントサービス・BPO事業を行っている日本通信紙を子会社化しました。
- 実行時期:2023年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:BPO総合支援サービスの展開の加速
リンテックサインシステムによるプリンテックのM&A
サインディスプレイ用素材販売等を行っているリンテックサインシステムは、デジタルプリントサービス、出力・施工を行っているプリンテックを吸収合併しました。
- 実行時期:2023年4月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:組織運営の効率化と収益力の強化
DNPフォトイメージングジャパンによるKJSの証明写真機事業のM&A
証明写真事業などを手掛けるDNPフォトイメージングジャパンは、事務用機器事業を行うKJSの証明写真機事業を継承する新設会社を子会社化しました。
- 実行時期:2020年06月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:家事支援事業への経営リソースを集中
サトーホールディングスによるStafford Press, Inc.のM&A
自動認識ソリューション商品の製造・販売などを展開するサトーホールディングスは、花卉用タグ・ラベルの事業を行うStafford Press, Inc.を子会社化しました。
- 実行時期:2023年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:花卉市場におけるシェアの拡大など
Antalis S.A.SによるAutoadhesivos Cohal,S.A.およびGaralmi,S.A.のM&A
紙・包装資材等の卸売を行っているAntalis S.A.Sは、パッケージ製造、ラベル・パッケージ販売を行っているAutoadhesivos Cohal,S.A.およびGaralmi,S.A.を子会社化しました。
- 実行時期:2022年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業地域拡大、欧州地域でのプロダクト・ラインの拡充
おわりに
本記事のまとめ
印刷業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
中小事業者が大半を占める印刷業界では、近年M&Aを通じて事業継承を図る企業が増えてきています。また、大手事業者もスケールメリットの獲得や事業の多角化を実現するためにM&Aを積極的に活用しています。
デジタル化の進展による印刷需要の減少や多様化する印刷ニーズに対応するために、今後は業界全体として更なるM&Aの活発化が予想されます。
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