アパレル業界の業界動向、M&A・売却・買収事例30選
アパレル業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。アパレル業界では、近年ファストファッションの台頭により市場環境が大きく変化しています。
本記事では、そうしたアパレル業界の市場動向を解説するとともに、アパレル業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
アパレル業界の概要・市場動向
アパレル業界とは
アパレル業界とは、衣服の製造、流通、販売に携わる業界をいいます。
アパレル業界がデザイン・縫製などの製造分野を中心とした業界を指すのに対して、ファッション業界とは流行や装飾性を意識しながら身の回りを装飾する業界全般をいいます。
アパレル業界は、アパレルブランドのように衣服の完成形を販売する企業と、原材料や衣料の設計・製造・流通を行うメーカーに大別されます。サプライチェーンに着目すると、繊維の生産・販売、生地の生産・販売、服の生産・卸売り、小売りに分類できます。
アパレル業界の市場動向
単価低下による収益性悪化
経済産業省「2030年に向けた繊維産業の展望」によると、国内の衣料品等の市場規模は1991年の15.3兆円をピークに2002年に10兆円まで減少しています。その後2019年まで横ばいで推移していましたが、コロナの影響で2021年には8.6兆円まで落ち込みました。
一方、1990年から2010年にかけて国内生産と輸入を合わせた国内供給数は20億点から40億点に倍増しており、同時期の市場規模推移と照らし合わせると国内の供給単価が3分の1に低下していることが分かります。
国内アパレル市場の需要減少と供給過多の要因としては、少子高齢化に伴うアパレル需要の停滞、商取引環境、商品開発力の低下、EC化の加速などが挙げられています。いずれも短期間では解消できない課題であるため、アパレル業界全体の収益低下傾向は今後も継続すると予想されます。
ファストファッション化の進展
アパレル業界では、カジュアルブランドとラグジュアリーブランドの二極化が加速しています。特に、ファストファッションはアパレル業界で最も成長している分野であり、単価の低下に寄与しています。
サプライチェーンが国境を越えて構築された結果、安価で良品質な衣料が大量に生産されて低価格志向・カジュアル志向が加速しました。この傾向は、家計における衣料品の費用が一貫して低下していることに反映されています。
ファストファッションの進展は消費者の需要だけでなく供給側の要因も作用しています。かつてのアパレル業界は、顧客のためにデザイナーが完全オリジナルで衣服を生産するオートクチュール(5階層のうち最も高価)から、クチュール、プレタポルテ、ファストファッション、コモディティ(5階層のうち最も安価)まで価格・質に応じて階層に分かれていました。
しかし業界内で、トレンドを後追いした商品開発・商品企画の外注化・原価率の圧縮による衣料品の同質化が進行した結果、業界の大半がコモディティ化されてしまいました。
こうした供給側の要因に安価を求める需要側の意向が合致した結果、ファストファッションが市場の大半を占める市場構造へ変化しています。
SPAの台頭
SPAの事業形態をとる企業は、伸び悩む国内アパレル業界の中でシェアを拡大しています。従来は製造・企画・販売をそれぞれの企業が担う水平分業型のビジネスモデルが主流でしたが、SPAでは企画から製造、販売までを垂直統合したビジネスモデルが構築されます。
SPAによって大量生産の商品を多数の店舗に効率よく分配でき、商品の供給と在庫を適切に管理できるようになるため大幅なコスト削減を実現できます。
商品開発段階においては、小売りでのPOSデータやファッション雑誌などを基に次の流行を見極めてから企画に移ることができるため、従来よりも商品企画サイクルが短縮されました。トレンドに追随する形で商品を展開するため売れ残りのリスクは低いものの、他ブランドとの差別化は難しく商品の価格が消費者への訴求ポイントになるため、大量販売を前提としたビジネスモデルと言えます。
これらの特徴を持つSPA企業が台頭してきたことで、ファストファッション分野の成長を一層加速させています。
供給過剰・値引き販売の悪循環
アパレル業界が供給過剰となっている要因の一つは、アパレル業界の販売慣習にあります。
アパレル業界は、季節ごとに販売する衣料品が売れ残った際に在庫を抱えるリスクを負っています。仮に次年度に持ち越した場合でもトレンドの変化により購入されない可能性もあるため、正価で販売される商品が売れ残った場合は値引き販売が行わるのが典型的です。
予め値引き販売を予測する消費者は正価での購入を控えることがあるため、商品の売れ残りがさらに加速する恐れがあります。供給過剰と値引き販売によって助長される悪循環を回避するためには、企業が販売状況に応じて生産を調整し、適当な在庫を確保することが求められます。
アパレル業界のM&A動向
アパレル業界では、M&Aを通じて販売チャネルの強化を図る企業や異業種とのM&Aを図る企業が増加しています。
衣服・服飾雑貨等のEC市場規模及びEC化率は年々上昇しており、2013年から2020年にかけて市場規模は1.2兆円から2.2兆円に、EC化率は7.5%から19.4%まで上昇しています。こうした販売チャネルの転換に対応するためにM&Aが活用されています。
大手企業や異業種とのM&Aにより、ICTやAI技術の活用を通じた業務の効率化、顧客データの効率的な管理運用を目指す事例も見られます。
上記のほか、サプライチェーンの垂直統合やブランドポートフォリオの拡充・転換を目的としたM&Aも増加しています。
アパレル業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
アパレル業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手の持つICT・AI技術を導入することができる
- 買い手の持つサプライチェーンを統合できる
- 買い手の商品開発力を活用した事業成長を実現できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
アパレル業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 売り手の持つブランドを獲得できる
- 売り手の持つ販売チャネルを獲得できる
- 売り手の持つサプライチェーンの統合やSPA化を加速できる
- 売り手の強みとする事業エリア取り込んで業容拡大できる
- (主に他業種とのM&Aにおいて)ICT・AI技術により業務の効率化を推進できる
アパレル業界のM&A・売却・買収事例
キムラタンによる和泉商事のM&A
ベビー・子供服の企画・生産・販売などを手掛けるキムラタンは、不動産賃貸業などを手掛ける和泉商事の全株式を取得しました。
- 実行時期:2022年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業の多角化
ワールドによるナルミヤ・インターナショナルのM&A
衣料品の販売事業とそれに関するブランド事業、デジタル事業、プラットフォーム事業を手掛けるワールドは、ベビー・子供服の企画販売を手掛けるナルミヤ・インターナショナルに対する株式公開買付により保有株式を25%から51.59%まで引き上げました。
- 実行時期:2022年2月
- スキーム:株式公開買付
- 取引価額:非公開
- 目的:ブランドの拡充
ベルーナによるセレクトのM&A
総合通販事業、化粧品・健康食品事業、グルメ事業、ナース関連事業、データベース活用事業、呉服関連事業、プロパティ事業などを手掛けるベルーナは、30代女性向け中心の人気アパレルECサイト「Pierrot(ピエロ)」を運営するセレクトの全株式を取得しました。
- 実行時期:2021年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:グループ全体での事業拡大
TSIホールディングスによる3ミニッツのM&A
アパレルの企画・製造・輸入・販売、店舗設計、飲食店運営などを手掛けるTSIホールディングスは、ファッション動画Webマガジンの運営やソーシャルメディアマーケティング支援などを手掛ける3ミニッツから20~30代女性をターゲットとするD2Cブランドである「ETRÉ TOKYO」を譲受しました。
- 実行時期:2020年7月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ブランドポートフォリオの拡充
C.R.E.A.MによるジャパンイマジネーションのM&A
「DressLab」というブランドでレディースのドレス・フォーマルスーツなどの企画・製造・販売を手掛けるC.R.E.A.Mは、女性向けカジュアルブランドの企画・生産・販売・卸売りを手掛けるジャパンイマジネーションから2ブランド「BE RADIANCE」「Fabulous Angela」を譲り受けました。
- 実行時期:2021年2月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:他分野でのブランド展開
夢展望による住商ブランドマネジメントのM&A
RIZAPグループの子会社で、10代後半~30代の女性を主なターゲットにSPA方式で衣料品・靴・雑貨のオリジナルブランドを展開する夢展望は、イタリアのシャツ・ブラウスブランド「ナラカミーチェ」とドイツ高級織物ブランド「フェイラー」の輸入・企画・販売を手掛ける住商ブランドマネジメントから「フェイラー」の事業を譲受し、「ナラカミーチェ」事業のみとなった住商ブランドマネジメントの全株式を取得しました。
- 実行時期:2018年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:新規分野への進出
ファーストリテイングによるJ BRAND HOLDINGS,LLCのM&A
「UNIQLO」「GU」などのファッションブランドを展開するファーストリテイングは、米国ロサンゼルスに本社を置き、メンズ、ウィメンズのプレミアム・デニムを中心に展開するJ BRAND HOLDINGS,LLCの株式80.1%を取得しました。
- 実行時期:2012年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:250億円
- 目的:ブランドポートフォリオの拡充
ギフティによるpaintoryのM&A
eギフトプラットフォーム事業を国内外で展開しているギフティは、オリジナルのアパレルを制作・販売できるウェブサービスを行っているpaintoryを子会社化しました。
- 実行時期:2022年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:600万円
- 目的:新たな法人のギフト需要の獲得
Eストアーによる志風音のM&A
SaaS型ECシステム「ショップサーブ」を提供するEストアーは、アパレルを中心とした商品企画・製造・販売などを行っている志風音を子会社化しました。
- 実行時期: 2022年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:収益増
Branditによる惠山のアパレルブランド事業のM&A
ファッション業界のDXを推進するBranditは、婦人服の企画・製造・販売事業を展開する惠山が運営しているアパレルブランド「Vicente」を譲り受けました。
- 実行時期:2022年3月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ブランド認知および売上アップ
游洛庵による倉染匠のブランドの事業のM&A
染呉服製造元卸業、悉皆業を行っている游洛庵は、呉服の染色を行う倉染匠より「一乃倉」ブランドの事業を譲り受けました。
- 実行時期: 2023年01月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:時代に合わせたブランド創り
アツギによるレナウンインクスのM&A
パンティストッキング、ソックスの製造販売などを行うアツギは、繊維製品(肌着・靴下等)の製造・販売を行っているレナウンインクスを子会社化しました。
- 実行時期:2020年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:将来的なシナジー効果創出
パルグループホールディングスとノーリーズのM&A
アパレル事業を主軸とするパルグループホールディングスと、百貨店にも多数出店しているアパレルブランドを持つノーリーズは資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2019年8月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:ノウハウ共有による効率化
丸井グループによるFABRIC TOKYOのM&A
百貨店型からSC型へと事業モデルの転換を進める丸井グループは、オーダーメイドのビジネスウェア事業を行うFABRIC TOKYOと資本業務提携を行いました。
- 実行時期: 2019年05月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:新規顧客獲得の支援
ナルミヤ・インターナショナルによるハートフィールのM&A
多様な子供服を企画販売しているナルミヤ・インターナショナルは、小中学生の男児向けアパレルブランドを展開するハートフィールを子会社化しました。
- 実行時期:2019年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:7億円
- 目的:事業拡大
ラオックスホールディングスによるバーニーズジャパンのM&A
グループにてリテール事業などを展開するラオックスホールディングスは、紳士服や婦人服等の販売・輸入を行っているバーニーズジャパンを子会社化しました。
- 実行時期:2023年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業領域の拡大
TSIホールディングスによるシタテルのM&A
アパレル事業を行うグループ会社を管理するTSIホールディングスは、インターネットのプラットフォーム事業を行っているシタテルと資本業務提携契約を行いました。
- 実行時期: 2022年07月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:シナジー効果による事業基盤強化
DORAYAKIによるReZARDのM&A
「究極のブロッコリーと鶏胸肉」を全国に展開しているDORAYAKIは、YouTuberヒカル率いるアパレルブランドReZARDと資本業務提携を行いました。
- 実行時期:2022年03月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:更なるサービス価値提供
クロスプラスのローズマダムのマタニティウエア事業一部のM&A
アパレル卸売事業を主力事業とするクロスプラスは、マタニティ用アパレルを展開するローズマダムが展開するマタニティウエア事業を一部譲り受けました。
- 実行時期:2020年06月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:企業価値向上
サニーサイドアップグループによるステディスタディのM&A
PR事業を主軸にするサニーサイドアップグループは、アパレル領域のPRにおいて豊富な実績を持つステディスタディを子会社化しました。
- 実行時期:2020年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:収益力強化や事業領域の拡大
シーズメンによるスピックインターナショナルのM&A
衣料品および服飾雑貨の販売を展開しているシーズメンは、衣料品等の製造、卸売、小売業を行うスピックインターナショナルを子会社化しました。
- 実行時期:2021年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:シナジー効果の創出
newnによるリリートレーディングのM&A
ファッションブランドなどを展開しているnewnは、ランジェリーブランドを展開するリリートレーディングを子会社化しました。
- 実行時期:2022年09月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ランジェリーブランドのリニューアル
青山商事によるエススクエアードのM&A
「洋服の青山」を展開する青山商事は、オーダースーツブランド「麻布テーラー」を展開するエススクエアードを子会社化しました。
- 実行時期:2022年4月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:オーダー市場でのさらなるシェア拡大
デイトナによるオーディーブレインのM&A
自動二輪車用部品事業を行っているデイトナは、洋服のデザイン制作および販売を行うオーディーブレインを子会社化しました。
- 実行時期:2022年5月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:新ブランドの開発
ダブルエーによる玉屋の婦人服販売事業のM&A
婦人靴の企画・販売を行っているダブルエーは、婦人服事業を行う玉屋より駅ビルや地下街を中心に婦人服販売を行うMISCH MASCH事業を譲り受けました。
- 実行時期:2023年3月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:顧客層の拡大およびシナジー効果創出
CFOジャパンによるカネジョウのM&A
中小企業の経営支援に取り組むCFOジャパンは、衣料品小売専門店のカネジョウを子会社化しました。
- 実行時期:2021年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:地域経済への貢献
SMNによるルビー・グループのM&A
マーケティングテクノロジー事業を展開しているSMNは、ラグジュアリーブランドのEコマース構築、運営を行うルビー・グループを子会社化しました。
- 実行時期:2021年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:16億円
- 目的:事業規模拡大
三共生興によるLEONARD FASHION SASのM&A
ファッションに特化したブランドライセンスおよび製品輸入等を行う三共生興はファッションブランドを展開しているLEONARD FASHION SASを子会社化しました。
- 実行時期:2022年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業展開の拡大
プロルート丸光によるサンマールのM&A
服飾雑貨等の卸売り販売を行っているプロルート丸光は、紳士服小売を行っているサンマールを吸収合併しました。
- 実行時期:2022年6月
- スキーム:吸収合併
- 取引価額:非公開
- 目的:経営資源の集約と効率的な組織運営
ITbookホールディングスによる三鈴のM&A
ICTに関するコンサルティング業務を行うITbookホールディングスは、女性向け衣料品の企画、製造、小売を展開する三鈴を子会社化しました。
- 実行時期:2020年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:2億2,000万円
- 目的:利益の拡大
おわりに
本記事のまとめ
アパレル業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
アパレル業界では衣料品の単価低下、SPA企業の成長、EC化の進展により業界構造が大きく変化しています。
特に、成長が著しいファストファッションに対抗するため、自社のブランドの拡充や販売チャネルの強化を目的としたM&Aの加速が今後も活発に実施されると考えられています。
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