株式交換とは?メリット・デメリットや手続き、株式移転との違いを解説
株式交換は、組織再編のスキームの1つとして注目を集めており、相手企業を完全子会社化する際に用いられる手法です。株式交換には色々なメリットやデメリットが存在します。
本記事では、そうした株式交換のメリット・デメリット、手続きと流れ、株式移転との違い、事例などについてそれぞれ詳しく解説していきます。
株式交換の概要
株式交換とは
株式交換は、発行済株式の全てを他の会社に引き継ぐことで完全親子会社関係を構築する手法です。発行済み株式の全てを取得された子会社のことを「完全子会社」と呼び、取得した会社のことを「完全親会社」と呼びます。
親会社が子会社の株主に渡す対価は、株式以外に現金を交付することも可能です。
株式交換の対価が完全親会社の株式の場合には、株式交換を実施する直前の完全子会社の株主は、株式交換を行うことで完全親会社の株主になります。
株式交換の対価が現金の場合には、株式交換を実施する直前の完全子会社の株主は、完全親会社に株式譲渡を行ったのと同じの状態になります。
三角株式交換
株式交換には三角株式交換と呼ばれる手法があります。
通常は買い手企業と売り手企業の間で株式の交換が行われるところ、三角株式交換では買い手企業の株式ではなく買い手企業の親会社株式で対価を支払います。
この場合、親会社となる買い手企業を「株式交換完全親会社」と呼び、子会社となる売り手企業を「株式交換完全子会社」と呼びます。
簡易株式交換
株式交換を実施すると買い手や買い手企業の株主関係が変わるため、株主総会の特別決議により株主の承認を得る必要があります。
一方、親会社が対価として交付する株式が親会社の純資産の5分の1以下になる場合には、以下の場合を除き、株式交換の実施に株主総会の決議を必要としない「簡易株式交換」とすることができます。
- 発行済み株式総数の6分の1超の株主が株式交換に反対している場合
- 親会社が非上場企業で発行済株式が譲渡制限株式の場合
- 株式交換の結果として株式交換差損が生じる場合
略式株式交換
親会社が子会社の90%以上の議決権を保有している状態で行われる株式交換のことを「略式株式交換」と呼びます。このとき、以下の場合を除き、簡易株式交換と同様に株主総会決議を省略することができます。
- 子会社が完全子会社になるとき、その子会社が公開会社でその株主に対し譲渡制限株式が交付される場合
- 子会社が完全親会社になり、かつその子会社が全株式譲渡制限会社である場合に株式の交付を行う場合
株式交換と株式移転の違い
株式交換と株式移転の主な違いは以下の3点です。
株式交換 | 株式移転 | |
---|---|---|
取引後の親会社 | 既存会社 | 新設会社 |
利用目的 | グループ内子会社の完全子会社化や企業の譲り受け | 持株会社設立など |
効力発生日 | 株式交換契約書で定めた日 | 新設会社の成立日 |
親会社
株式交換は、完全子会社となる会社の全発行済株式を親会社となる既存会社や合同会社が譲り受けます。
一方、株式移転は、子会社となる既存会社の全発行済株式について、親会社となる会社を新しく設立し移転します。
利用目的
株式交換は、組織再編で完全子会社でない会社の株式を100%保有し、完全親子会社関係にすることによって主にグループ連携を強化する目的で活用されます。
一方、株式移転は、主に持株会社を設立する目的で実施されます。
効力発生日
株式交換の効力発生日は株式交換契約書で定めた日となります。
一方、株式移転の効力発生日は新設した会社の成立日となります。
株式交換のメリット・デメリット
株式交換のメリット
株式交換のメリットは以下の点が挙げられます。
- 株式対価の場合は買収資金が不要
- 買収後も別法人として存続が可能
- 少数株主の強制的な排除が可能
- 売り手企業の株主が買い手企業の株式を取得できる
株式対価の場合は買収資金が不要
株式交換は自社株式を対価にできる手法であるため、現金を用意することなく取引を実行できます。
取引の際は内部留保金を活用したり銀行から融資してもらうことで現金を対価にするか、株式を対価にするかを選択します。
手元資金が不足する場合や負債による調達を避けたい場合に、現金ではなく株式を対価として選択できることは買い手にとって大きなメリットと言えます。
買収後も別法人として存続が可能
株式交換の仕組み上、完全子会社は完全親会社とは別の法人で事業を継続できる点は、特に従業員のモチベーション下げないなどの点などでメリットになります。
他のM&A手法によっては社内の再編を伴うものがありますが、株式交換では株式交換前後でもこれまでと同様に業務を行うことができます。
少数株主の強制的な排除が可能
株式譲渡の場合は全株主から譲渡についての合意を得られなかった場合、反対する株主を排除するためにスクイーズアウトと呼ばれる特別な手続きによって反対株主から株式を取得する必要があります。
スクイーズアウトは、特に株主の数が多く株式が分散している場合や株主間に対立が見られる場合には労力のかかるプロセスです。
一方、株式交換の場合は株主総会の特別決議で承認を受けることで成立し、反対株主の株式も強制的に買い手企業に移動することになります。
売り手企業の株主が買い手企業の株式を取得できる
対価を買い手企業の株式とした場合、売り手企業の株主は買い手企業の株主となるため、株式交換による統合がシナジー効果を生めばそれに応じた利益を得られることになります。
また、売り手企業の株主が株主の立場で統合後の経営に関与することも可能となります。
株式交換のデメリット
株式交換のデメリットは以下の点が挙げられます。
- 上場企業は株価下落の可能性がある
- 買い手企業の株主構成が変化する
- 複雑な手続きの実施が必要
上場企業は株価下落の可能性がある
新株を発行して対価に設定する場合、買い手企業の発行済株式数が増加するため、既存株主の持分比率は希薄化することになり、株主としての影響力が減少します。
上場企業の場合には、株式の希薄化によって市場評価が下がり株価が下落する可能性があります。
買い手企業の株主構成が変化する
株式交換では完全子会社の株式を取得するため、完全親会社の株主構成は変化することになります。完全子会社の株主が加わることで相対的に議決権比率が下がる既存株主が生まれます。
こうした点に留意し、株式交換後の株主比率の変化と経営への影響は株式交換の実施前に詳細に検討しておく必要があります。
複雑な手続きの実施が必要
株式交換を実施する場合には債権者保護や株主保護、株券の提出公告などの様々な手続きが必要になります。
各手続きに相応の日数がかかることになるため、契約締結からクロージング(決済)までに長時間を要するとともに、複雑なスケジューリングが求められることになります。
株式交換の手続きと流れ
一般的に、株式交換の主な手続きと流れは以下のとおりです。
- 取締役会決議・株式交換契約締結
- 適時開示(上場企業のみ)
- 公正取引委員会への事前届出(一定条件を満たす場合)
- 金融商品取引法上の手続き(一定条件を満たす場合)
- 事前開示書類の作成と備置
- 株主と債権者への対応
- 株式交換の効力発生・変更登記
- 事後開示書類の作成・備置
- 株式交換無効の訴えへの対応
取締役会決議・株式交換契約締結
株式交換契約締結の決定は、取締役会設置会社の場合は取締役会決議によって行い、取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数の判断により決定されます。
株式交換契約書には以下の事項を含める必要があります。なお、売り手企業の新株予約権を買い手企業の新株予約権と交換するケースではその旨も契約書に規定する必要があります。
- 契約当事者の商号・住所
- 対価の種類・価額・算定方法・割り当て方など
- 株式交換の効力発生日
適時開示(上場企業のみ)
上場企業の場合、取締役会などで重要事項を決定した際に公表が求められます。株式交換の場合は、株式交換契約の締結が重要事項にあたるために契約締結後直ちに開示することが必要です。
なお、株式交換契約締結の決定時に適時開示が求められるほか、基本合意を締結した際にも適時開示が必要になる場合がある点には注意が必要です。
公正取引委員会への事前届出(一定条件を満たす場合)
株式交換によるM&Aを行う際、買い手・売り手の売上高が下記の基準を満たす場合は独占禁止法に基づく公正取引委員会への事前届出を行い、審査を受けることが必要になります。
- 買い手企業が属する企業結合集団の国内売上高合計が200億円超の場合
- 売り手企業とその子会社の国内売上高合計が50億円超の場合
原則、届出受理後30日間は株式取得禁止期間となり株式交換を実行することができないため、スケジュール設計には注意が必要です。
金融商品取引法上の手続き(一定条件を満たす場合)
株式交換では、金融商品取引法に基づき売り手企業の株主が50人以上いる場合に買い手企業が対価として交付する株式について有価証券届出書を提出する必要があります。
提出後、原則として株式交換の効力を発生させることができるのは15日経過後です。
売り手が非公開会社の場合や、交換される株式の情報が既に一般開示されている場合などには届出が不要になります。
事前開示書類の作成と備置
株式交換契約の有効性を担保するためには株主総会や債権者保護手続などの手続きを経ることが必要ですが、そのためには株式交換契約の内容・条件、相手企業の定款や財務状況など把握できるような資料を作成して、株主や債権者に開示する必要があります。
作成した書類や電子媒体資料は本店に備置し、利害関係者の求めに応じて株式交換成立の6か月後まで継続して閲覧できる状態にしたり、書面で交付したりする必要があります。
株主と債権者への対応
株主総会の招集・承認決議
株式交換の効力発生日の前日までに、売り手・買い手それぞれの株主総会の特別決議によって株式交換契約を承認する必要があります。
株主総会は開催日の2週間前までに招集通知を各株主に発送する必要があります。非公開会社の場合は原則として1週間前までに送付します。
なお、簡易株式交換や略式株式交換に該当する場合には株主総会が不要になります。
債権者保護手続(一定条件を満たす場合)
株式交換では以下の場合に債権者保護手続が必要です。該当する場合には、債権者には一定期間にわたり異議を述べる権利を与え、異議に対しては弁済や担保提供などで対応することが必要になります。
手続実施会社 | 条件 | 対象債権者 |
---|---|---|
売り手 | 売り手企業の新株予約権付社債が、買い手企業の新株予約権との交換によって買い手企業に承継される場合 | 該当する社債の保有者 |
買い手 | 同上 | 買い手企業の全債権者 |
買い手 | 交換対価に買い手企業の株式以外の財産が含まれる場合(金額ベースで5%以上) | 買い手企業の全債権者 |
株券・新株予約権証券提出に関する公告
売り手企業が株券発行会社の場合、公告などによって株券保有者に株券の提出を求めることが必要です。買い手企業に承継される新株予約権が紙媒体の証券として発行されている場合も同様です。
このとき、売り手企業は株式交換の効力発生予定日の1か月以上前に株券・新株予約権証券提出について公告し、各株主・新株予約権者に個別通知する必要があります。
株式交換の効力発生・変更登記
株式交換契約の効力が発生し登記事項に変更が生じたら、効力発生日から2週間以内に変更登記が必要です。
買い手は変更内容に応じて以下事項の登記が必要です。売り手は株主が入れ替わるだけのため基本的に変更登記は不要ですが、発行していた新株予約権を消滅させた場合は変更登記が必要です。
- 発行済株式総数
- 資本金の額
- 新株予約権の数と内容
事後開示書類の作成・備置
株式交換の効力発生後から6か月間、売り手・買い手共同で株式交換の内容や手続きの経過などを記載した事後開示書類を作成し、それぞれの本店に備え置き利害関係者へ開示することが必要です。
開示資料には以下の事項を記載します。
- 買い手企業が取得した売り手企業の株式の数
- 株式交換の効力発生日
- 債権者保護手続、反対株主株式買取請求手続、新株予約権買取請求手続、株式交換差止請求手続の経過
株式交換無効の訴えへの対応
株式交換の手続きが完了した後、手続きの不備や株式交換契約の虚偽、株主や債権者の保護不履行などが発覚した際には株主や債権者、当事会社の取締役によって株式交換の無効を訴えることができます。
無効の訴えは株式交換契約の効力発生日から6カ月以内に実施することが必要です。
会社分割の事例
フェイスが日本コロムビアを完全子会社化
2017年、音楽配信会社フェイスは、事業戦略の推進や経営リソースの一元化のために、株式交換によって老舗レコード会社の日本コロムビアを完全子会社化しました。
両社は2010年にアライアンスによりコンテンツ事業での協業を開始し、その後2014年にはフェイスが株式公開買付(TOB)を実施し日本コロムビアを連結子会社とした経緯があります。
株式交換比率には固定比率方式が採用されています。
株式交換を活用したユーグレナの事業拡大
ミドリムシなどの微細藻類を培養し、健康食品・化粧品・バイオ燃料に活用するユーグレナは、株式交換を活用した事業拡大を展開しています。
2015年に、ユーグレナはOEM供給先であったアートコーポレーションとエボラ、ユーグレナ製品の卸売を手掛けていたユーキを株式交換により完全子会社化しています。
2017年にも、ユーグレナはOEM供給先であったイースター、遺伝子解析サービスのジーンクエスト、2018年に健康食品企画・販売を手掛けるフック、2021年にスキンケア用品の企画・販売などを手がけるLIGUNAを株式交換で子会社化しています。
これらは簡易株式交換の手続きによって実施され、一部を除き変動比率方式を採用しています。
EduLabによる教育デジタルソリューションズの完全子会社化
2020年4月に、EduLabは教育デジタルソリューションズを株式交換により完全子会社化しました。
株式交換比率はEduLabの株式211株に対して教育デジタルソリューションズの普通株式1株となっています。
教育デジタルソリューションズの強みである大学入試広報エリアでのメディア事業を強化し、新サービスを創り出すことを目的に株式交換が実施されました。
おわりに
本記事のまとめ
主に対象会社を完全子会社化するために用いられる手法である株式交換について解説しました。
株式交換は、少数株主を強制排除でき、株式を対価とする場合は買収資金準備が不要といったメリットがあります。一方、法的手続きが比較的複雑な上、税制や税務リスクなどを慎重に考慮する必要があります。
株式交換の実施に当たっては、これらのメリット・デメリットを適切に把握し、M&Aの専門家の支援を受けながら進めていくことがよいでしょう。
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