M&Aで用いられる契約書の種類・内容・ポイントを解説

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M&A取引においては、それまでの交渉結果を明文化し、契約書として締結することが不可欠です。

本記事では、M&A取引の過程で締結される秘密保持契約書や基本合意契約書、株式譲渡契約書などの契約書について、それぞれの内容やポイントについて解説します。

目次

M&Aで用いられる契約書の種類

M&Aで用いられる主な契約書は以下の5種類があります。

  1. 秘密保持契約書
  2. アドバイザリー契約書
  3. 意向表明書
  4. 基本合意書
  5. 最終契約書

次章以降では、上記5つの契約書の内容やポイントについて詳細に解説していきます。

秘密保持契約書

秘密保持契約書の概要

秘密保持契約書は、NDA(Non-Disclosure Agreement)やCA(Confidential Agreement)とも呼ばれます。

M&Aに限らず、交渉や業務における受発注の前段階時などにおいて当事者間で締結します。M&Aで秘密保持契約書が締結されるのは、主に以下2つの場合です。

  • 業務を正式依頼する前段階で、相談者とM&A仲介会社間で締結する場合
  • M&Aの買収側と売却側が交渉を開始する場合に、当事者間で締結する場合

契約形態としては、契約締結者双方が相手から開示を受けた秘密情報の取り扱い方や守秘義務などを定める双務式と、開示を受けた側が開示者に対して秘密保持を誓約する差入式があります。

双務式は、買い手と売り手が1対1で交渉を行うケースや、売り手も特別な守秘義務を負う必要がある場合に用いられます。差入式は、入札で複数の買い手候補に情報開示されるような場合に使われることが多いです。

秘密保持契約書の主な記載内容

秘密情報の定義・範囲

秘密保持契約書では、秘密情報に該当するものとしないものを明確に分けてその範囲を定義する必要があります。

原則、情報を伝える側が秘密情報と指定したものが秘密情報になりますが、一般的に以下の情報については秘密情報から除外するものとして記載されます。

  • 開示を受けた時点で、既に公知となっていたもの
  • 開示を受けた時点で、既に自ら適法に所有していたもの
  • 正当な権限を有する第三者から、秘密保持義務を課せられることなく適法に取得したもの
  • 相手方から開示を受けた後、自己の責によらないで公知となったもの
  • 開示を受けたものに関係なく、自ら独自開発したもの

情報を受領する側が社内で秘密情報を開示してよい範囲も明確化することが通例です。例えば「本件M&Aの検討に直接かかわる役員・従業員以外には秘密情報を開示してはならない」などの内容です。

有効期間

秘密保持契約書では、1~3年程度の有効期間が設定されることが一般的です。業界・業種、各社によって秘密情報の重要度が異なるため、当事者間で合意可能な期間を設定します。

その他の取り決め事項

上記の他、多くの秘密保持契約書では以下の事項についても記載されます。

  • 秘密情報の使用禁止
  • 秘密情報が記された書面・電子媒体などの返還・廃棄方法
  • 契約に違反した場合の損害賠償
  • 準拠法および合意管轄

秘密保持契約書のポイント

売り手のポイント

売り手にとって、秘密保持契約書はM&Aに関する情報が漏洩することを防ぐ重要な契約です。

そのため、売り手のポイントは、トップ面談やデューデリジェンス(買収監査)などを通じて開示した売り手の重要な秘密情報を、買い手が目的外利用したり第三者に開示したりしないように、なるべく網羅的に開示情報を秘密保持義務の対象にすることです。

口頭、書面、メールなどで伝えた内容も全て秘密情報に含まれるといったことや、M&A交渉の存在・その内容自体も秘密保持の対象になるように文言を入れておくことが望ましいです。

また、秘密情報の複製禁止や、検討終了後に情報の返還や破棄を義務として組み込むと、重要な情報の漏洩を防ぐ役割を果たすことができます。

買い手のポイント

売り手とは対照的に、買い手の秘密保持契約書におけるポイントはなるべく秘密情報の範囲を限定することにあります。

例えば、M&Aの検討中に買い手が既に保有する技術情報などを売り手から入手した場合、その情報が買い手が独自に開発した情報かどうか、後々問題になることがあります。

M&Aで知り得る情報の秘密情報の範囲を絞るためには、例外事項の適切な記載や開示時期の限定などがポイントになります。

また、独占禁止法に抵触し得る会社同士の取引の場合には、開示情報の使用目的をM&A検討に限定し、カルテル問題を生じさせないように手当てすることも重要なポイントです。

アドバイザリー契約書

アドバイザリー契約書の概要

アドバイザリー契約書は、M&A当事者である企業と、それを支援する各種専門家とで締結する契約書です。

M&A全体を支援するM&A仲介会社や、デューデリジェンス(買収監査)を実施する専門家などと、業務内容、契約金額などを契約書上で合意します。

M&A仲介会社とのアドバイザリー契約を締結する場合、契約形態には以下の2種類があります。

  • 専任契約:契約したM&A支援会社1社のみとM&Aの検討を進める
  • 非専任契約:複数のM&A支援会社と契約を締結し、並行して支援を受けながらM&Aの検討を進める

複数のアドバイザーに並行で依頼すると情報漏洩をはじめとした様々なトラブルのリスクがあるため、1社を選び専任でアドバイザリー契約を結ぶことが一般的です。

アドバイザリー契約書の主な記載内容

業務内容・範囲

M&A仲介会社などが請け負う業務内容を記載します。一般的には以下のような業務内容について記載されます。

  • M&A取引の相手方当事者の探索・紹介
  • 相手方当事者の情報収集・提供
  • M&Aに関する相談・アドバイス
  • 売り手に対する企業価値算定
  • M&Aに関する契約書その他書面の作成支援
  • M&A取引条件交渉の仲介
  • M&A全体のスケジューリング・調整

アドバイザリー報酬

M&Aアドバイザーに対する報酬・手数料には統一された規定がありませんが、発生する費用の名称やタイミングは業界内で以下のとおりに概ね統一されています。

  • 着手金:アドバイザリー契約書締結時に発生する費用
  • 中間金:基本合意契約書締結時に発生する費用
  • 成功報酬:M&A成約後に発生する費用(レーマン方式と呼ばれる計算方法で報酬額が決まるが、算定基準額の設定が各社異なる)

その他の取り決め事項

上記の他、多くのアドバイザリー契約書では以下の事項についても記載されます。

  • 免責事項
  • 秘密保持
  • 有効期限
  • (仲介方式の場合)他方取引当事者との契約
  • 準拠法および合意管轄

アドバイザリー契約書のポイント

アドバイザリー契約書を締結する際のポイントとして、契約解除方法、相手との交渉が破談した場合、M&Aの検討を一時中断する場合などにおけるアドバイザーとの契約関係を確認しておく必要があります。

例えば、アドバイザー経由で紹介された相手と一度取引を検討した後に破談したものの、しばらくして再度、両社で話をしたらM&Aが成約した場合などがあります。この場合、アドバイザーに報酬が発生するのかはきちんと確認しておくとよいでしょう。

また、M&Aアドバイザーには、買い手と売り手の双方と契約を締結して両者を支援する仲介方式と、買い手と売り手のいずれか一方と契約して支援するFA方式の2種類があります。契約内容がいずれに該当するかもきちんと確認しておくことが大切です。

意向表明書

意向表明書の概要

意向表明書は、M&Aプロセスにおいて必ず作成されるものではないですが、M&A交渉を円滑に進める目的で買い手によって作成されることが望ましい書面です。

M&A交渉が進み大筋で条件が合意できたときに買い手によって作成され、意向表明書の内容に売り手としても合意できる場合には、基本合意書を締結し買収監査へと進みます。

MOU(Memorandum of Understanding)とも呼ばれます。

意向表明書の主な記載内容

取引スキーム

M&Aには、株式譲渡や事業譲渡など、さまざまなスキームがあります。

買収側としてどのスキームを考えているかを記載し、スキームの種類によっては、より細かい内容を意向表明書の時点で記載することもあります。

譲受希望価額などの条件

買い手が今回のM&Aで譲り受けの対象としたい範囲と、そのための希望対価を明示します。対価の算定根拠を示す場合もあります。

この時点での価額などは現時点までに開示されている情報を基にした算定であるため、後のデューデリジェンス(買収監査)を経て変更される可能性があります。

法的拘束力

意向表明書は、まだ買い手の買収監査も行われておらず、限定的な情報のもと作成される書面のため、記載内容全てに法的拘束力があると買収側の今後の検討の自由度が損なわれてしまいます。

そのため、買収側は、意向表明書に法的拘束力はない旨の明示をすることが一般的です。

その他の取り決め事項

上記の他、多くの意向表明書では以下の事項についても記載されます。

  • 買い手企業の概要
  • M&Aの目的・メリット
  • 今後のスケジュール
  • デューデリジェンス(買収監査)の実施概要
  • 買収資金の調達方法

意向表明書のポイント

M&A取引において意向表明書は必ず作成する必要のあるものではありませんが、それまでの交渉内容を書面化し、その後の取引を円滑に進めていくためにも、ぜひ作成すべき書面であると言えます。

特に、M&A実行後のシナジーの目論見や譲受希望価額の設定は、後々のその後のステップに進むために大きく影響する項目であるため慎重に検討が必要です。

基本合意書

基本合意書の概要

基本合意書は、最終契約書の締結に向けて重要な条件について合意された内容を確認するために締結される契約書です。一部の条項を除いて法的拘束力を持たないことが一般的です。

意向表明書と同様、M&Aプロセスにおいて必ずしも締結が必要なものではないですが、その後の取引を円滑に進めるために多くの場合は締結されます。

基本合意書の主な記載内容

独占交渉権

基本合意書で記載される内容は基本合意書と大部分が重複し、基本的に法的拘束力を持たないものですが、買い手への独占交渉権を定める場合は、多くの場合この条項には法的拘束力を付与します。

独占交渉権とは、一定期間、売り手が他の買い手候補と交渉することを禁じるもので、一般的に2~3カ月程度の期間が設定されます。

買収監査には通常大きな費用が発生しますが、買収監査の途中で別の買い手が現れ、売り手から取引の中断を告げられた場合に買い手は損失を被ることになります。そうした可能性を減らすためにも、多くの場合、売り手は買い手から独占交渉権の付与を求められることになります。

基本合意書のポイント

M&Aにおける基本合意契約書のポイントは、売り手と買い手が交渉条件に折り合いをつけ、その後のM&A交渉を円滑に進めることにあります。

基本合意書はいくつかの基本事項をまとめたものにすぎず、最終的な合意を定めたものではないため、その時点における仮の合意事項となります。

しかし、基本合意書締結以後に、合理的な理由なく一方的に交渉条件を変更すると相手方当事者の不信感を買いM&Aが円滑に進まない可能性が高まるため、基本合意書締結時点できちんと内容は検討されたものである必要があります。

最終契約書

最終契約書の概要

最終契約書は、M&A取引について当事者間で合意した詳細な内容や条件を明文化した契約書で、法的拘束力を持つ書面になります。

最終契約書はスキームによって異なり、株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」、事業譲渡であれば「事業譲渡契約書」が最終契約書となります。

最終契約書の主な記載内容

取引対象物の特定・取引の合意

株式譲渡契約書の場合は、取引対象物は株式であり株式数が記載されます。事業譲渡契約書の場合は、事業譲渡対象の資産および負債が記載されます。

譲渡価額を記載し、手法によって対価の一部を退職慰労金で支払う場合は、その旨も記載します。価額の調整、アーンアウト、エスクローなどの定めがあるときにはそれらも記載します。

表明保証

契約にあたり、双方の企業の一定事項が真実である証明をする条項が表明保証条項です。取引の前提となっている情報について、売り手に重要な事項については表明保証してもらうことによって、事前には発見できなかったリスクを回避することができます。

あわせて、表明保証事項の内容に相違があれば損害賠償を請求できる旨を定めます。

順守・誓約

双方の企業が順守すべき事項として、「クロージング日までに売り手は重要な資産を処分しない」といったことや、「クロージング日までに売り手は会社に重要な変更をもたらす経営判断を行わない」といった、取引の前提を担保する内容を規定します。

クロージングの前提条件

一定の前提条件を満たされない場合には取引が実行されない旨が記載されます。クロージング条項とも呼ばれ、これらの前提条件が満たされた場合にのみ、取引が実行されます。

内容としては、株式の譲渡手続きやチェンジオブコントロール条項への対応、許認可の取得、届出などといった、クロージングまでに実行していないと手続きが進まない類のものが該当します。

当該条項は通常誓約条項にも記載され、遅滞なく対応する必要があります。

賠償・補償

表明保証条項や遵守条項に違反した場合に損害賠償を請求するための条項です。

買い手は、様々な可能性を想定した上で本条を規定する必要があります。売り手は、損害賠償を請求された場合非常に大きな金額になる可能性があるため、賠償金額は譲渡価額の一定額を超えないものと記載することが望ましいと言えます。

また、損害買収請求を行える期間も設定し、期間は決算時期を考慮し、1年以内とするのが一般的です。

解除

通常、最終契約の締結からクロージング(資金決済)までは一定期間があるため、クロージングまでに一定事由が起こった場合に解除できる旨を記載します。

最終契約締結時には想定できなかった事項が生じた場合に備えて規定されます。

その間にクロージング条項を満たすなどの行動が予定されるため、最終契約書を締結したときに考えられなかったことが生じるケースに備えて規定されるのです。

その他の取り決め事項

前述の条項のほか、競業禁止や秘密保持義務、合意管轄および準拠法などが記載されます。事業譲渡などで譲渡対象が多岐にわたる場合には、最終契約書の別紙として譲渡目録を用意し、最終ページに合綴します。

最終契約書のポイント

最終契約書の作成に当たっては、M&Aの経験豊富な専門家の支援を受けることが重要です。

最終契約書面の参考として、インターネット上のひな型やサンプルを使うケースも存在しますが、M&A取引ごとに個別事情は異なるためそのまま流用するのは危険です。

弁護士や司法書士などは契約内容や契約書の問題点をきちんとレビュー可能であり、こうした適切な専門家に依頼することが良いでしょう。

おわりに

本記事のまとめ

本記事ではM&Aで用いられる契約書の種類・内容・ポイントを解説しました。

M&A取引における主要な契約書である基本合意書や最終契約書は、それまでの交渉の内容が示されるものですが、ただ条件を明示するだけでなく、様々なリスクに留意して盛り込むべき条項が多数あります。

法的拘束力のある契約書は締結後の撤回が困難なため、専門家の支援なしに進めることはリスクが高いです。M&Aを円滑にリスクなく進めるために、信頼できるM&Aの専門家とともに推進することをおすすめします。

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