SaaS業界のM&A・売却・買収事例、業界動向

SaaS業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。SaaS業界は近年急成長している業界の一つで、今後もあらゆるサービスがクラウド化されることが予想されています。
本記事では、そうしたSaaS業界の市場動向を解説するとともに、SaaS業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
SaaS業界の概要・市場動向
SaaS業界とは
SaaS業界とは、ソフトウェアをインストールすることなく、ネットワークを経由してソフトウェアを利用できるサービスを提供する業界をいいます。
SaaSは、Software as a Serviceの頭文字をとった用語です。
利用者は、SaaSの誕生によりインターネット環境とデバイスさえあればクラウド上で機能やサービスを完結できるようになりました。
代表的なSaaSのサービスには、Slackなどのビジネスチャット、クラウドサインのような電子契約サービス、ZoomなどのWeb会議ツール、マネーフォワードクラウドのような会計ソフトなどがあります。
SaaSに類似するものとして、IaaSやPaaSがあります。
IaaSはInfrastructure as a Serviceの頭文字で、サーバーやネットワークといったコンピューターを利用する土台をインターネット上で提供するサービスをいいます。
一方、PaaSはPlatform as a Serviceの頭文字で、ソフトウェアやアプリを動かす土台をインターネット上で提供するサービスを指します。

SaaS業界の市場動向
日本独自の商慣行に対応したビジネスモデル
日本のSaaS企業は、課題解決型のソリューションを提供する形態が大半です。
SaaS分野には、ネットワークでの情報共有・コミュニケーションを行う「グループウェア」と、顧客データの管理を自動化する「マーケティングオートメーション」などがあります。
前述した代表的なSaaS企業を含めて、いずれの場合も日本の商慣行における日常業務の効率化に寄与しています。
今後もあらゆるサービスがクラウド化されることが期待されますが、このようなビジネスモデルでは日本のSaaS企業がグローバル展開することは難しいという課題もあります。日本特有の商慣行に対応している場合、そのサービスを海外に適用するためには新たにカスタマイズして提供する必要が生じるためです。
日本のSaaS企業の中で売上高が最大のsansanでも直近の売上高は200億円であり、国内市場全体の2%程度です。(参照:sansan「業績ハイライト」)
今後SaaS業界が急成長するためには、国・地域に限定されないクラウドサービスを提供するSaaS企業の台頭が求められます。
SaaS業界の成長余地
近年急成長しているSaaS市場ですが、今後も安定した成長が見込まれます。
SaaS業界の国内市場規模は2019年には1兆3,717億円に達しており、年率10%を超える成長率で拡大してきました。2024年には1兆9,889億円まで拡大することが予測されており、この期間の成長率は7.71%です。
SaaSのほとんどは月額課金のサブスクリプション方式を採用しているため、顧客がサービスの利用を中断しない限り収益は徐々に増加します。
また、総務省「令和3年版 情報通信白書」によると、クラウドサービスを利用している企業の割合は2016年の46.9%から2020年の68.7%まで上昇しているものの、全社的に利用してる企業の割合は2020年時点で39.4%に留まっています。一部部門のみでクラウドサービスを利用している企業と、現在利用していないが今後利用する企業を合わせた割合は39.4%であり、SaaS業界の成長余地を反映していると考えられます。
加速する資金調達
急成長するSaaS業界ではスタートアップ企業による資金調達も増加しています。
UZABASE「Japan Startup Finance 2019」によると、2019年におけるSaaS企業の資金調達は、調達額が人工知能に次いで2番目に多く、調達社数も人工知能・ヘルスケアに次いで3番目に大きいことが分かります。
2019年のSaaSスタートアップ企業の調達額は744億円に及び、これはスタートアップ全体の17%にあたります。
今後も投資家からの注目度は高いセクターであるため、大型の資金調達に成功するSaaS企業が期待されます。
SaaS業界のM&A動向
SaaS業界では、同業種を買収してシナジー効果を享受する、もしくは他業種からの新規参入の足掛かりにする目的でM&Aが実施されています。
IT関連分野ではニーズの傾向が常に変動するため、需要を先読みして事業を転換することが必要です。SaaS企業の中には革新的で将来性のあるアイデアを有している企業も多いため、M&Aを通じてアイデアごと取り込む事例も見られます。
SaaSは比較的新しい業態であるためM&AによるExitを目指している企業も存在します。したがって、売り手の意向もM&Aを活発化させている要因であると言えます。
SaaS業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
SaaS業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手の抱える顧客層にアプローチできる
- 買い手の資本力を活用してサービスを拡大できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
SaaS業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 新規にSaaS業界へ参入する足掛かりとなる
- 将来性のあるアイデアや事業を獲得することができる
- 既存事業とのシナジー効果を享受できる

SaaS業界のM&A・売却・買収事例
日立製作所によるSaaS事業のM&A
日立製作所は、マレーシアに拠点にAIやデータアナリティクスのSaaS型サービスを提供するFusionex International PlcからSaaS事業を承継した新会社を完全子会社化しました。
- 実行時期:2020年4月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:自社デジタル事業「ルマーダ」のグローバル展開

SAPによるQualtricsのM&A
ドイツに本社を置くヨーロッパ最大のソフトウェア会社であるSAPは、アンケートやリサーチによるデータ分析ソフトを提供するQualtricsを買収しました。
- 実行時期:2019年11月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:80億ドル
- 目的:業務管理システムの拡大

オプトベンチャーズによるSiderの資本業務提携
ベンチャーキャピタル事業などを手掛けるオプトベンチャーズは、コードレビュー自動化ツールの「Sider」を運営するSiderの第三者割当増資を引き受けました。
- 実行時期:2019年2月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:販売活動の拡大

AdobeによるMarketoのM&A
ソフトウェアおよび関連サービスの提供を手掛けるAdobeは、企業向けのマーケティングプラットフォームを提供するMarketoを買収しました。
- 実行時期:2018年9月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:47億5,000万ドル
- 目的:「Adobe Experience Cloud」の拡充
凸版印刷によるMonoposのM&A
印刷テクノロジーをベースに情報コミュニケーション事業、生活・産業事業、エレクトロニクス事業を手掛ける凸版印刷は、ECシステムの提供などを手掛けるMonoposを買収しました。
- 実行時期:2018年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:リテールテックサービスの普及

ARMによるトレジャーデータのM&A
ソフトバンク傘下の持株会社で、携帯電話のプロセッサを提供するARMは、データプラットフォーム「Treasure Data Platform」などを運営するトレジャーデータを買収しました。
- 実行時期:2018年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:IoTプラットフォームの整備
MicrosoftによるGitHubのM&A
ソフトウェアやプラットフォームの提供、クラウドサービスの提供、PC関連デバイスの提供などを手掛けるMicrosoftは、ソースコードの共有プラットフォーム「GitHub」を運営するGitHubを買収しました。
- 実行時期:2018年6月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:75億ドル
- 目的:オープンソース分野での事業拡大
おわりに
本記事のまとめ
SaaS業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
SaaS業界は、企業のDX化の流れを受けて急拡大しており、今後も導入余地のある企業は多数存在するため安定した成長が期待されます。
現状では特定分野における課題解決型のサービスを提供する企業が多いため、顧客のニーズ把握やそのニーズをサービスに落とし込める技術力を有している企業を中心にM&Aが活発化していくと見込まれます。

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