整骨院のM&A・売却・買収事例、業界動向
整骨院業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。整骨院業界は事業者数の増加により競争が激化している業界です。
本記事では、そうした整骨院業界の市場動向を解説するとともに、整骨院におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
整骨院業界の概要・市場動向
整骨院とは
整骨院とは、捻挫・骨折・打撲などのけがに対して整復・固定・後療などの治療を施す施設をいいます。柔道整復師という国家資格を所有する施術師が治療にあたり、外科手術や投薬ではなく手技によって治療することを目的とします。
整骨院での治療は、原因がはっきりしている場合は健康保険・労働災害保険・自動車損害賠償責任保険などが適用されますが、原因が明確でない場合は保険適用外になります。
整骨院に対して、整体院では関節や骨格のずれや筋肉のコリを解消することを目的としており、手技の基本形が定められていないため施術内容の幅が広いという違いがあります。
また、鍼灸院では鍼と灸を用いて施術が行われ、医師の診断と同意書が必要になります。
整骨院の市場動向
供給過多な整骨院市場
厚生労働省「柔道整復療養費について」によると、就業柔道整復師数は平成10年の29,087人から平成28年の68,120人まで2.34倍増加しています。同様に、施術所数も同期間で23,114か所から48,024か所まで2.08倍増加しています。
平成10年に柔道整復師養成施設の開設に関する規制が緩和されたことで、柔道整復師養成施設、定員数共に増加傾向にありましたが、平成21年度ごろをピークに以降は横ばいで推移しています。
一部保険適用の治療を行うことで安定した収入が見込める点、新規開業のハードルが低く独立開業が多い点から業界内の供給数が激増したことで、現在は非常に競争率が高い業界です。
周辺業種との競争激化
周辺業種との競争も、整骨院業界の競争が激化している要因の一つです。
矢野経済研究所「柔道整復・鍼灸・マッサージ市場に関する調査を実施(2020年)」によると、柔道整復市場は2014年から2018年にかけて年率13.8%で縮小しているのに対して、柔道整復・鍼灸・マッサージを合算した市場規模は年率3.6%の縮小に留まっています。
このように、周辺業種と比較して整骨院の需要が大きく落ち込んでいることが分かります。
この背景には、人口減少に加えてリラクゼーションサロンや整体などの民間資格サロンが増加したことで、整骨院から患者が流れていることが考えられます。また後述するように、業界内で不正請求や資金流用問題など不祥事が相次いだことで患者の信用を失ったことも原因です。
多発する不正請求
整骨院業界では競争激化や整復師の知識不足などを理由に不正請求が多発しています。
2017年から2018年の二年間において、不正・不当に請求して「不支給」となった件数はは3万8,500件に上り、東京新聞「<税を追う>接骨院、不正請求3.8万件 不支給に 施術・負傷部位水増し」によると不支給額は1億5千万円に達すると推計されています。
整骨院では、患者が治療費の1~3割を支払い、残りは整復師自身が健保組合などに療養費支給申請書の提出を通じて請求する「受領委任」が特例的に認められています。
しかし、患者からの署名をもらえれば一ヶ月の療養費をまとめて請求できるため、施術回数や負傷部位を偽る事例が後を絶ちません。また、保険適用外の施術を保険適用の施術として組合に過剰請求する事例や、患者と組合に二重請求するといった事例が横行していました。
現在は療養費請求時の審査厳格化や研修制度の導入が実施されており、不正請求は解消されつつあります。
整骨院のM&A動向
整骨院業界では事業者が乱立しており供給過多の状況であるために、多店舗展開する大手・中堅企業による同業者の買収が活発です。
また、他社との差別化のために整体院・鍼灸院などの関連業種とのM&Aを通じて、自社で提供できる治療を充実させようとする動きも見られます。他業種展開を考えている場合、既に経験・ノウハウを持った整体師や鍼灸師を確保できるためにM&Aが有効です。
整骨院市場は緩やかな縮小傾向にありますが、高齢化の影響により一定の需要が見込めるために、関連サービスを組み合わせることで新たなニーズを掘り起こすためのM&Aも実施されています。
整骨院業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
整骨院業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 買い手の患者を取り込むことができる
- 買い手のブランド力や知名度を活用できる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
整骨院業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 新たな事業エリアに進出できる
- 技術力のある整復師を獲得できる
- 売り手の既に抱える患者を取り込むことができる
- 他業種からの参入の場合、整骨のノウハウを獲得できる
- SNSやインターネットを用いたサービスを拡充できる
- 設備や治療機器をそのまま活用することができる
整骨院のM&A・売却・買収事例
MCJによるMJGの一部事業のM&A
PC関連事業や総合エンターテインメント事業を手掛けるMCJは、整骨院や鍼灸院、整体サロンを経営するMJGから店舗19か所、研修所1か所を取得しました。
- 実行時期:2020年5月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業ノウハウの共有
GENKIDOによるEXPANDのM&A
整骨院・鍼灸院を全国展開するほか、整骨院のノウハウをもとに保険適用外サービスを提供する店舗や、ボディケアサロン、アジアンスパなどの店舗を展開するGENKIDOは、徳島県・兵庫県で複数の鍼灸整骨院を展開するEXPANDの全株式を取得しました。
- 実行時期:2018年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:ノウハウの共有
ケイズグループによる整骨院事業と鍼灸整骨院事業のM&A
鍼灸整骨院104店舗(2021年8月時点)の運営や、治療院のフランチャイズ、保険請求代行、人材紹介、コンサルティングなどの事業を手掛けるケイズグループは、整骨院運営と治療機器販売事業を手掛けるケア・トラストから整骨院事業の一部を(2019年8月)、東京・埼玉で鍼灸整骨院と美容鍼灸院するルーツアイランズから鍼灸整骨院事業を(2020年4月)それぞれ譲り受けました。
- 実行時期:2019年8月・2020年4月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:事業再生
ケイズグループによるトレーナー事業のM&A
前述のケイズグループは、柔道整復師向けの国家試験対策事業や、トレーナー事業、セミナー事業、整骨院コンサルティング事業などを手掛けるPflasterからトレーナー事業を譲受しました。
- 実行時期:2020年4月
- スキーム:事業譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:既存事業の強化
ウィルグループとリグアの資本業務提携
国内外で人材ビジネスを手掛けるウィルグループは、整骨院・鍼灸院に対するCRMシステムの販売、記帳代行サービスの提供及び業界情報ポータルサイト運営といった経営・健康支援事業を手掛けるリグアの第三者割当増資を引き受けました。
- 実行時期:2016年4月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:7億2千万円
- 目的:整骨院・鍼灸院の付加価値向上
アトラとミツフジの資本業務提携
フィットネスジムの運営、整骨院のフランチャイズ、柔道整復師向け保険請求代行などの事業を手掛けるアトラは、銀メッキ導電性繊維「AGposs」の開発および衣料品・ウェアラブルIoT製品への応用や、ウェアラブルIoTソリューション「hamon」の開発・提供を手掛けるミツフジによる第三者割当増資を引き受け、株式19.4%と新株予約権を取得しました。
- 実行時期:2016年8月
- スキーム:第三者割当増資
- 取引価額:非公開
- 目的:新製品・新サービスの販売展開
アドバンテッジパートナーズによるりらくのM&A
プライベートエクイティ事業を手掛けるアドバンテッジパートナーズは、リラグゼーションサロンを運営するりらくの全株式を取得しました。
- 実行時期:2013年8月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:経営支援
おわりに
本記事のまとめ
整骨院業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
整骨院業界は、整骨院と柔道整復師が飽和状態にある業界であり、整骨需要も緩やかに減少しているために厳しい競争環境にあります。
そのため、関連業種と連携して提供できる治療を充実させる、大手・中堅企業が事業規模を拡大する、といった目的で今後M&Aがますます活発化していくと見込まれています。
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