M&Aの失敗理由・事例を紹介!失敗の確率や要因・対策方法も解説
近年国内でも増加しているM&Aですが、異なる2つの企業が統合するM&A取引は相応に難易度が高く、失敗に終わるケースも存在します。
本記事では、M&Aの失敗要因や過去の失敗事例を分析するとともに、失敗しないM&Aを実現するための対策について解説します。
M&Aにおける失敗とは
M&Aが失敗となるケースは、主に以下の4パターンがあります。
- 買収後に粉飾が発覚する
- のれんの減損損失が発生する
- 投資対効果が見合わない
- 企業イメージが悪化する
買収後に粉飾が発覚する
M&Aでは、買収対象企業の財務・税務・法務などに関する情報を精査する買収監査(デュー・デリジェンス)を外部の専門家に依頼することが一般的です。
しかしながら、買収監査が不十分だったことにより、買収後に売り手企業の粉飾や不正会計、法令違反が発覚し、買い手の経営が悪化するケースがあります。
最悪の場合、買い手企業が経営破綻に追い込まれる場合もあるため、事前の調査を怠るとM&Aに失敗するだけでなく、自社そのものを追い込みかねないということを留意する必要があります。
のれんの減損損失が発生する
M&Aによって企業を買収した後、貸借対照表(BS)の資産の部には買収価額が記載されることになります。この買収価額には、買収価額と買った会社の純資産額の差額である「のれん」が含まれることになります。
M&A実施後は、買い手企業はのれんを長期にわたり減価償却しますが、当初予定したシナジーを得られなかったなどの理由により、買収対象企業の評価額が下がると、減損処理により損失を計上する必要があります。
当初の想定よりも事業が落ち込み、買収した会社の企業価値が減少したと監査法人から指摘された場合、多額の減損を計上する必要が生じてしまいます。
投資対効果が見合わない
M&Aでは、譲渡金額が高すぎた場合に、投資対効果が見合わず買収に使用した投資金額を買い手が回収できないということがあります。
売り手企業の企業価値は、買収したい企業が複数存在する場合、どうしても値段が上昇しがちです。
また、買収対象企業に対する調査が不十分であった場合、実際の評価額よりも高い金額でM&Aを実施してしまう「高値掴み」が発生することがあることにも留意する必要があります。
企業イメージが悪化する
売り手のコンプライアンス・ハラスメント・環境汚染・訴訟のなどの問題が発生することで、M&A後に自社のイメージが悪化してしまうことがあります。
文化・宗教などに違いが見られる海外企業とのM&Aで発生しやすい失敗パターンです。
M&Aが失敗する確率
近年国内で件数が増加しているM&Aですが、その成功率は決して高くないと言われています。
日本企業が海外企業を買収するケースのみに目を向けると、その失敗率は8~9割と言われています。(参照:日本経済新聞「成功率はわずか2割 M&Aは失敗の歴史」)
しかし、日本国内のみに焦点を当てた場合はそこまで失敗率は高くなく、約5割のM&A事例が成功していると言われています。(参照:マールオンライン「日本のM&Aの成功率は5割――実証研究の第一人者が検証し、課題を提示」)
失敗する企業も存在しますが、M&Aを活用し成長を実現している企業も存在します。自社単独では為し得ない非連続的な成長を遂げるために、M&Aはリスクを伴いますが有効な手段と言えます。
M&Aの失敗要因
買い手の失敗要因
買い手企業の主なM&Aの失敗要因としては、以下の5点があります。
- 目的が不明確
- FAや仲介のいいなり
- 根拠薄弱な取引価額
- 買収後の従業員退職
- 買収後の放置
目的が不明確
これはM&Aありきの経営戦略となり、M&Aが目的化してしまっているケースです。M&Aは、あくまでも経営戦略を達成するための手段であるため、本来何のためにM&Aを実施するのかを見失わないことが肝要です。
企業買収がゴールになってしまうと、まずはM&Aをすれば事業がうまくいくと考えてしまいがちですが、目的との適合性を考えずにM&Aを実行すると、想定していた効果が得られず失敗に終わる可能性があります。
FAや仲介のいいなり
ファイナンシャルアドバイザー(FA)やM&A仲介会社が持ち込んできた案件に対して、深く検討せず言われるがままに買収してしまうことは、失敗に繋がります。
ファイナンシャルアドバイザーやM&A仲介会社などに相談するときは、きちんと細かな点まで打ち合わせや相談を実施することが望ましいと言えます。
根拠薄弱な取引価額
これは、適切でない取引価額設定によって、本来あるべき取引価額よりも大幅に高値で買収してしまい、結果として想定していた買収効果が得られず費用対効果が見合わないというパターンです。
統合後のシナジーに期待しすぎるあまり、適切な評価額を大幅に上回る金額で買収を行なってしまうと、M&A成立後の業績悪化に繋がることになります。
買収後の従業員退職
これは、特に海外の企業を買収する際に多いケースです。企業統合後に、両者の企業文化の違いから、買収企業の優秀な人材が離職してしまうことがあります。
M&Aで買い手が買収するのは、売り手が所有する事業や設備に留まらず培ったノウハウや優秀な人材を含みます。買収成立後にキーパーソンが離職してしまうと、想定したM&Aによるシナジーを発揮できなくなる恐れがあります。
買収後の放置
経営陣に買収後も引き継ぎ経営を任せることは悪いことではないですが、完全に放置してしまう場合、買収後の経営陣がインセンティブを失っていることなどで経営が悪化する可能性があります。
買い手企業もシナジー創出に向けて適切に統合作業(PMI)を実施することが大切です。
売り手の失敗要因
売り手企業の主なM&Aの失敗要因としては、以下の5点があります。
- 買い手企業のいいなり
- 情報の漏えい
- 不誠実な対応
- 合理性のない条件変更
- 株主と経営陣の意見不一致
買い手企業のいいなり
M&Aでは買い手の交渉力が強い場合も多くあり、条件などに関する取り決めを買い手が有利に進めるケースが存在します。
このとき、売り手があまりにも買い手に対して譲歩しすぎると、後に売り手企業内に不満が生まれる原因となり、M&A後の統合が上手く進まない可能性があります。
情報の漏えい
これは、売り手の失敗事例として多いパターンであり、M&Aの売り手は情報漏えいに関して特に注意して情報を管理する必要があります。
M&A実行に関する情報が実行前に漏れてしまうと、顧客がいる場合は不安を抱かせることとなります。例えば取引自体が停止になってしまったり、その後のM&Aの実行自体にも影響する場合があります。
不誠実な対応
この失敗の要因は、売り手だけでなく、買い手対しても同様のことが言えます。
例えば、希望条件が満たされない場合に、相手方企業から求められた情報提供を渋ったり、直前に条件変更を申し出たりするなどの対応は両社に軋轢を生み、M&Aそのものの破談や、M&A実行後の統合の妨げになります。
必要な情報は全て提供し、その上で条件に不満がある場合はM&Aアドバイザーに相談し解決策を検討することが最も望ましい対応と言えます。
合理性のない条件変更
M&Aでは、ほとんどの場合買い手と売り手の希望条件が異なります。
売り手は可能な限り取引価額を上げるインセンティブがあり、一方で買い手は極力費用を抑える必要があるため、そのような状況は自然と言えます。
一方で、M&Aが成約直前になり条件の変更を申し出るなどの対応は、十分な検討期間や準備期間が得られず、M&Aそのものが破談となったり、実行後の統合の妨げとなる可能性が高まります。
株主と経営陣の意見が不一致
株主と経営陣が一致している場合にはこの問題は生じませんが、異なる場合には注意が必要です。
株主ではない経営陣がM&Aに反対することで、M&Aそのものの検討の継続が難しくなったり、いざM&Aを実行した後の統合段階で買い手との間で大きな溝が生まれてしまう可能性があります。
M&Aの失敗事例
キリンホールディングス株式会社のM&A失敗事例
2011年11月、キリンホールディングスはブラジル2位のシェアを誇るビール会社、スキンカリオールに対し3,000億円の資金で買収を実施し、失敗しています。
2015年12月期の決算でブラジルキリンは1,100億円の減損を計上し、473億円の赤字を出しています。最終的に、ブラジルキリンは2017年6月に、オランダのハイネケングループに770億円で売却されました。
LIXILのM&A失敗事例
2014年、住設機器メーカーのLIXILは、グローエ・ドーン・ウォーターテック(LIXILアフリカ)を約4,000億円で買収し、同時にグローエ子会社のジョウユウも傘下に収めました。
しかし、2015年4月にジョウユウの不正会計が発覚し、ジョウユウが債務超過で破綻処理となった結果、LIXILは関係会社投資の減損損失・債務保証関連損失などで608億円の損害を計上しています。
丸紅のM&A失敗事例
2012年、総合商社大手の丸紅は、買収金額約2,800億円でアメリカの穀物会社ガビロンを買収しました。
丸紅はアメリカでの穀物集荷事業拡大と中国を中心としたアジア販路拡大を期待してM&Aを実施しましたが、適切にシナジーを創出することができず、500億円の減損損失を出す結果となっています。
東芝のM&A失敗事例
2006年、東芝は6,600億円でアメリカの原子力会社のウエスチングハウスを買収しています。
しかし、2011年の東日本大震災時の福島第一原発事故により世界的に原発の安全性が問われる事態に発展するとともに、ウエスチングハウスとの経営統合にも失敗し、買収先の不正会計や原発事業の巨額損失が発覚しました。
その結果、東芝はウエスチングハウス関連で7,000億円に及ぶ巨額の損失を計上するに至りました。
第一三共のM&A失敗事例
2008年、大手製薬会社の第一三共は4,900億円でインドの医薬品メーカーであるランバクシーを買収しています。
しかし、第一三共によるランバクシーの株式公開買付(TOB)期間中に問題が発覚しました。米国FDAがランバクシーの2工場で「抗生物質の取り扱い」「製造器具の洗浄状況」「生産管理」「品質管理」などに関する問題を指摘し、30種以上の医薬品のアメリカへの輸入を禁止しました。
結果としてランバクシーの株価は大暴落し、第一三共にも3,595億円の評価損が発生、2,154億円の最終赤字を計上するに至っています。
パナソニックのM&A失敗事例
2009年、大手家電メーカーのパナソニックは6,600億円で三洋電機を買収しています。
しかし、三洋電気の主力であった民生用リチウムイオン電池事業の事業価値の毀損などを背景に、その後2年で三洋電機の企業価値は半分近くまで下落し、計上していたのれんのうち2,500億円を減損処理するに至っています。
グリーのM&A失敗事例
2012年10月、グリーは当時設立5年で売上高が5億円のゲーム会社であったポケラボを138億円で買収しています。
その後はヒット作に恵まれずに2015年6月期には63億円の減損損失を計上するに至っています。また、それと同時にアメリカのソーシャルゲームプラットフォーム会社へ出資していた90億円も減損処理しています。
M&Aで失敗しないための対策
こうしたM&Aによる失敗のリスクを最小限に抑えるためには、以下の4点に特に留意する必要があります。
- 相手先企業との親和性を見極める
- M&Aの目的を明確化する
- 当事者間の情報格差をなくす
- M&Aの専門家からサポートを受ける
相手先企業との親和性を見極める
2つの会社がM&Aにより1つになるということは、2つの会社の業績の単純加算よりも高い業績を目指さなければM&Aを実施する意味合いが薄れてしまいます。
こうした、買い手と売り手の持つ経営資源が合わさることで、2社を単純合算した以上の業績を達成することを「シナジー効果」といいます。
このとき、買い手と売り手の目指すべき経営戦略や想定するシナジーが合致しているかどうかは非常に重要な点になるため、交渉段階におけるトップ面談などを通じて、M&A実行に先立ち確認しておくことが求められます。
M&Aの目的を明確化する
買い手と売り手の双方にとって、適切にM&Aの目的を明確化することは重要です。
特に売り手企業において、会社全体の方針から「なぜこのM&Aを実施するのか」を従業員に適切に説明することができなければ、従業員は先行きに不安に感じ、本来生むべき両社のシナジー効果も半減してしまいます。
例えば、「販路拡大」「関連事業分野への進出」「新規事業創出」などといった、自社がM&Aという手段を活用する必要性を認識している従業員が増えると、そのM&Aの成功確率は高まります。
当事者間の情報格差をなくす
買い手と売り手の間で可能な限り情報格差をなくすことはM&Aを成功させるために重要です。
その意味で、M&Aにおいて専門家を活用して実施する買収監査(デューデリジェンス)は、M&Aの成功のために特に重要なプロセスになります。
買収監査では、将来のキャッシュアウトの原因となる簿外債務や、社内外におけるトラブルやリスク要因の発見はもちろんのこと、M&Aによって見込まれるシナジーや経営戦略といった前向きな要素の確認も重要です。
M&Aの専門家からサポートを受ける
M&Aを成功させるためには、適切なM&Aアドバイザーの支援を受けることが重要です。
M&Aアドバイザーとは、M&A仲介会社やフィナンシャル・アドバイザーといった、M&Aプロセスを支援し、円滑な取引の実行を手助けする存在です。
M&AアドバイザーによってM&Aの成功・失敗は左右されると言っても過言ではないため、M&Aの知識はもちろん、業界知識も持ち合わせた、優秀なアドバイザーを選択することが大切です。
そうした優秀なM&Aアドバイザーに出会うためにも、複数のM&Aアドバイザーに相談し、その中で最も優秀かつ誠実と思われる人を選ぶことが望ましいでしょう。
おわりに
本記事のまとめ
M&Aは、企業が単独では難しい非連続的な成長を遂げるために効果的な手法と言える一方で、失敗のリスクもあり、一般的なM&Aの成功率は日本国内に限っても5割ほどとされています。
M&Aの失敗事例を見ると、事前の調査が不十分であったケースや、事前の準備・検討、委細に渡る確認が不足していたことに起因するものが多く見受けられます。
M&Aは企業の将来を左右する経営戦略であり、失敗の可能性を極限まで小さくできるよう、情報を十分に揃えた上で、専門家の支援も活用しながら推進していくことがポイントです。
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