通訳・翻訳会社のM&A・売却・買収事例、業界動向

通訳・翻訳業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。通訳・翻訳業界は特定の分野に特化した中小企業が数多く存在する業界です。
本記事では、そうした通訳・翻訳業界の市場動向を解説するとともに、通訳・翻訳業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。
通訳・翻訳業界の概要・市場動向
通訳・翻訳会社とは
通訳・翻訳会社とは、それぞれ異なる言語によるコミュニケーションをサポートする作業、特定の言語で表現された文章を自国の言語に訳する作業を請け負う会社をいいます。
通訳では音声言語を扱う一方、翻訳では書記言語を扱うため、両者は明確に違う職能であると区別されます。
翻訳・通訳は対象別に区別されており、具体的には、書籍や文章を翻訳する出版翻訳、海外の映像作品を翻訳する映像翻訳、ビジネス上の手続きや書類などの翻訳を行う産業翻訳などに分類されます。
通訳・翻訳業界の市場動向
中小企業が大半を占める業界構造
日本通訳連盟「2017年度第5回翻訳・通訳業界調査結果報告」によると、2017年時点での翻訳業界の市場規模は2,561億円と算出されています。
売上高が10億円以上の企業は全体の5%に満たないことからから、同業界のほとんどを中堅・中小企業が占めていることが分かります。
通訳業界全体の市場規模は回答企業が少ないために明らかにされていませんが、回答企業7割が年商1,000万円以下であったことから、翻訳業界と同様に多数の小規模事業者が存在する市場であると考えられます。
寡占が進行していない要因には、特定領域の通訳・翻訳に特化したビジネスモデルが一般的であることが挙げられます。各企業が通訳・翻訳機能に加えて特定の専門知識を有していることを強みとしているため、多くの中小企業が存在する業界構造となっています。
機械翻訳との棲み分け
近年ではGoogle翻訳やDeepLなどの機械翻訳が発達しており、通訳者・翻訳者の職が失われることを懸念する意見も見受けられます。
しかし、Mordor Intelligence「機械翻訳市場-成長、傾向、COVID-19の影響、および予測(2022年-2027年)」によると、2020年の機械翻訳市場規模は1億54百万ドルで2026年まで年率7.1%で成長する見込みである一方、通訳・翻訳市場全体の売上は2020年で44億97百万ドルと推計されています。したがって、機械翻訳の成長率の高さにかかわらず機械翻訳では補い切れない通訳・翻訳需要があることが分かります。
また、異言語間の微妙なニュアンスや文化の違いを表現する点においてはプロフェッショナルな通訳者・翻訳者に優位性があり、今後も通訳・翻訳市場は拡大することが見込まれます。
実際、米国労働省労働統計局「Employment Projections」では2021年から2031年までのあらゆる職種の雇用者数が予測されていますが、通訳者・翻訳者の雇用者数は2021年の6.94万人から2031年には8.33万人まで増加することが推計されています。
DXによる新たな翻訳ニーズ
今後、通訳・翻訳業界ではテクノロジーの活用を通じた新たな需要が増加すると予測されます。
近年ではYouTubeに代表される動画コンテンツ市場の急拡大に伴い、動画をマーケティングやブランディングに活用しようとする企業が増加しています。これらは国内に留まらず世界的に発信したほうが効果的である場合が多く、作成した動画に字幕やセリフを多言語で挿入する際に通訳・翻訳需要が生じます。
また、コロナ禍での巣ごもり需要にアプローチするため、オンラインで顧客向けのサービスを充実する動きも見られます。マーケティングキャンペーンやECサイトでの販売戦略を実施する際に製品資料や広告などを翻訳する機会が増加したことで、語学サービスに新たな需要が発生しています。
Zoomなどのオンラインミーティングや国際的な会議での同時通訳といったDXに起因する需要も急増しており、通訳・翻訳業界の成長を後押ししています。
通訳・翻訳業界のM&A
通訳・翻訳業界には特定の分野に強みを持つ中小企業が多数存在する業界であるため、業界内でのM&Aでは目的に応じたM&Aが実施されます。
同じ分野を得意とする同業他社を買収する場合、その分野の強化に加えて売り手の得意とする取引相手との繋がりも確保できます。また、AIやソフトウェアを活用する大手企業が同分野の中小企業を買収することで業務の効率化を推進することが期待されます。
異なる分野に強みを持つ同業他社を買収する場合は、その分野での翻訳スキルやノウハウを一度に獲得できるために顧客へのサービス拡充に繋がります。
他業種で海外展開を図る企業が通訳・翻訳企業を買収する事例も見られ、自社サービスの翻訳を効率的に進められるほか、現地での取引・交渉を優位に進めることを目的にしたM&Aも実施されています。
通訳・翻訳業界におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
通訳・翻訳業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- IT技術を取り込むことで業務の効率化を図ることができる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット
通訳・翻訳業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- これまで扱っていなかった翻訳分野に進出することができる
- 売り手の抱える新たな翻訳者との繋がりを獲得できる
- 他業種から通訳・翻訳業界に素早く参入できる
- 売り手の技術を生かして多言語展開を推進できる

通訳・翻訳業界のM&A・売却・買収事例
インフォメーションクリエーティブによるシルク・ラボラトリのM&A
ソフトウェア開発やITサービス事業を手掛けるインフォメーションクリエーティブは、ソフトウェア開発を手掛けるシルク・ラボラトリの全株式を取得しました。
- 実行時期:2021年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:人員体制の拡大

RWSグループによるホアン・打田特許翻訳のM&A
知財関連サービス事業を手掛けるRWSグループは、特許出願に関する翻訳業務を請ける知財専門の翻訳会社であるホアン・打田特許翻訳を買収しました。
- 実行時期:2021年7月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:グローバルなニーズへの対応強化
Link-UとComikey Mediaの資本業務提携
サーバープラットフォームビジネスを展開するLink-Uは、アジアのマンガコンテンツを、英語・スペイン語・ポルトガル語などのさまざまな言語に翻訳・ローカライズするビジネスを手掛けるComikey Mediaへの資本参加及びライセンス契約を締結することを決定しました。
- 実行時期:2021年6月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:1億円
- 目的:アジアコンテンツのプラットフォーム立ち上げ
ロゼッタとVoiceAppの資本業務提携
文書翻訳ツール開発を手掛けるロゼッタは、AIによる会議音声の同時通訳と議事録作成のための自動文字起こしを可能とするリアルタイム音声翻訳ツール「オンヤク」の開発パートナーであるVoiceAppと資本業務提携を締結しました。
- 実行時期:2020年11月
- スキーム:資本業務提携
- 取引価額:非公開
- 目的:AI精度の向上
ブリックス経営陣によるブリックスのMBO
2012年にブリックスを子会社化し、AI・ブロックチェーン・情報セキュリティを組み合わせたプラットフォーム事業を手掛けるオウケイウェイヴは、ブリックスの保有株式76.85%をブリックス出資組合に譲渡しました。
- 実行時期:2020年6月
- スキーム:MBO
- 取引価額:3億円
- 目的:主力事業への集中
TAKARA&COMPANYによるサイマル・インターナショナルのM&A
アジアで通訳・翻訳事業を手掛けるTAKARA&COMPANYは、ベネッセホールディングスの100%子会社で通訳・翻訳で政府官公庁、財界、企業での国際コミュニケーション活動をサポートするサイマル・インターナショナルの株式譲渡契約をベネッセホールディングスと締結しました。
- 実行時期:2020年3月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:グローバルビジネスの強化
おわりに
本記事のまとめ
通訳・翻訳業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。
通訳・翻訳業界は、特定の分野に強みを持つ中小企業が多数存在しており、機械翻訳では生み出せない付加価値が追求されています。
機械翻訳は今後も急拡大すると見込まれているものの、通訳・翻訳業界全体の需要全てを補うことはなく、将来的にも通訳者・翻訳者に対する需要は継続すると見込まれます。
今後は他分野への進出や多言語展開を目的としたM&Aが通訳・翻訳業界内でますます活発化していくと予想されます。
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