売り手・買い手別のM&Aのメリット・デメリット

  • URLをコピーしました!

M&Aの実行においては、売り手と買い手とでは立場が大きく異なり、これに伴ってそれぞれ異なるメリット・デメリットが存在します。交渉を円滑に進めるためにも、相手のメリット・デメリットを知ることが重要です。

本記事では、M&Aに関するメリット・デメリットを、売り手・買い手それぞれの立場から解説します。

目次

売り手のメリット

事業承継問題の解決

近年、中小企業における経営者の高齢化を背景に、後継者不在企業の事業承継問題が顕在化しています。

M&Aは、親族内や、親族以外の役員・従業員の中に後継者がおらず、一方で、既存の従業員や取引先に鑑みると廃業は難しいという場合に、事業承継問題を解決するための有効な手段の一つになります。

第三者に事業を譲渡・売却することで、廃業を防ぎ、従業員の雇用を守り、事業を継続させることが可能となります。

国としてもこうした事業承継を目的としたM&Aを推進するため、「中⼩企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」のもと、「事業承継税制」の特例制度を設けるなど、M&Aを活用した事業承継の支援体制を整備しています。

雇用や取引の維持

前述のとおり、M&Aであれば、不動産や設備、従業員、技術、取引先といった全ての資産を引き継ぎ、従業員の雇用や取引先との取引関係を維持することが可能です。

廃業を選択すると、従業員は、職を失うことになってしまいますし、取引先は、最悪の場合取引停止に伴って倒産を余儀なくされてしまう可能性もあります。

廃業せず、新たな後継者に事業を承継することで、従業員や取引先への影響を最小限に抑えながら引退することが可能になります。

売却による金銭的収入

M&Aによる売却を行うと、多くの場合、現金で売却益を受け取ることができます。

非上場の株式は、中小企業の場合、売り手の経営者が株主であることが多いため、買い手と売り手の経営者同士の話し合いで金額が決まります。その際、買い手が売り手企業の価値を高く評価するほど、多くの売却益を得ることができます。

一方、廃業・清算する場合は、有形資産を処分する費用や解雇する従業員への補償など、多くのコストがかかるため、M&Aと廃業・清算を比較すると、廃業・精算を選択した場合に株主の手取り額は大きく減少する場合があります。

経営者としての重責からの解放

中小企業では、経営者やその家族が、金融機関借入の連帯保証を負っていたり、個人資産を担保として提供していたりする場合があります。

M&Aの成立によって経営権が買い手側に移動すると、一般的にはそれらの連帯保証や担保提供は解除されます。

また、経営者は年齢を重ねるにつれ、事業の承継や自身の健康面などへの不安から、大きなプレッシャーを抱えている場合があります。M&Aであれば、そういった経営者の重責からは解放され、次の経営者に未来を託して、第二の人生を歩むことが可能になります。

事業の成長・発展

M&Aにより会社を売却することで、買い手側の持つノウハウや営業リソースを活用した売上アップや、スケールメリットを生かしたコストダウンなど、買い手側との間で事業上の相乗効果が期待でき、事業の更なる成長・発展を実現することができます。

また、自社よりも規模が大きく、堅実な企業の傘下に入り、その企業が持つ資本やインフラを活用できる場合には、円滑な資金調達や生産体制の強化、販路の拡大など、買い手の持つ強みを活用しながら、市場での競争に勝ち残ることが可能となります。

売り手のデメリット

自社従業員からの不満

従業員の待遇、勤務地、仕事内容の変更、仕事量増加やリストラのリスクなど、M&A実行後の従業員は数多くのリスクにさらされる可能性があります。

売り手企業に長く務め経営者や企業に愛着を持っていた従業員は、会社が売却されることで、勤務上の条件が変わらない、もしくは良くなったとしても、モチベーションが低下してしまう可能性があります。

従業員がそうした不満を持ったままM&Aが実行され経営統合が進んでいくと、従業員側の不満が両社の軋轢となってしまう恐れがあります。

こうした観点からも、売却後の経営統合を円滑にし、M&A取引が成功だったと従業員全員が実感するためにも、M&A実行後の従業員への配慮は非常に重要となります。

M&A後の統合が上手くいかない

M&Aの実行後、売り手と買い手の両社は統合のプロセスを進めていくことになりますが、多くの場合は売り手企業が買い手企業合わせて統合プロセスを進めていくことになります。

これまで慣れ親しんだシステムやルールの変更は、従業員にとって不満となる可能性があります。彼らの感情面を考慮し、M&Aの意義をきちんと説明し、納得してもらうことが重要となります。

実務的には、100日プランとしてM&A後にやるべきことを具体的なアクションに落とし込んだ計画を策定し、関係者全員が同じ意識のもと、統合初日からアクションを1つずつクリアしていくプロセスが重要です。

希望通りの相手先企業が見つからない

従業員の雇用は維持されるのか、事業上の相乗効果は十分に見込めるのかなど、M&Aの相手先を選定するに当たり、考慮すべき点は多岐にわたります。

しかし、特に中堅・中小企業のM&Aにおいて最も重要なのは、売り手側と買い手側の双方が「このお相手なら譲り渡したい(譲り受けたい)」と思えることです。そうでない限り、M&Aは成立しません。

売り手側としては、自身の意向にマッチした相手先と出逢えるかがポイントになりますが、買い手候補となり得る先の情報を集め、その中からM&Aを検討できる先を見つけ出すことは難易度が高い取り組みになります。

肩書がなくなる

M&Aにより会社を売却する場合、売り手の経営者は売却を機に経営から退くケースがあり、その場合にはこれまでの肩書がなくなってしまうことになります。

安定的な事業の継続のため、売却後に一定の引継ぎ期間を設け、その後に経営者を交代するケースもあります。一方で、例えば売却後の組織再編により会社自体がなくなってしまう場合などには、そもそもポストがなくなってしまうため、肩書はなくなることになります。

これまで周囲からは経営者としての肩書で呼ばれることが多かったところから、その肩書がなくなってしまうことは、少々寂しく感じられる可能性があります。

買い手のメリット

事業規模の拡大

M&Aを実行すると、売り手が保有する不動産や設備といった有形資産だけでなく、優秀な人材、技術、ノウハウ、流通網、顧客基盤といった無形資産も取り込むこと可能になります。

例えばM&Aによって同業の企業を買収する場合、短期間で事業規模を拡大することができ、さらに市場全体における自社のシェアも拡大することができます。

事業規模が拡大すると、規模を活かしたコスト削減が可能になるため、利益を増大させることができます。また、シェアが拡大すれば、知名度やブランド力が向上し、ライバル企業により大きな差をつけることも見込めます。

事業成長のための時間短縮

事業展開において、スピードが重要な場面においてもしばしばM&Aが活用されます。自社単独では非常に時間がかかる事業展開も、M&Aによって既存事業者を取り込むことで大幅な時間短縮が可能になります。

例えば、コンビニエンスストア業界におけるM&Aが一例として挙げられます。

コンビニエンスストアのローソンは、ショップ99や成城石井などをM&Aにより取得しています。また、ファミリーマートはサークルKサンクスを傘下に持つユニーと統合し、ファミリーマートとしての店舗を増やしています。

統合前のファミリーマートはもともと11,000店舗程度でしたが、ユニーとの統合により一気に約6,000店舗増加し、大幅な市場シェアを獲得しました。M&Aによって、出店時間を短縮した好事例といえます。

競合企業を自社に取り込める

需要がピークに達していて、市場としてこれ以上の成長が見込めないような市場環境においては、一般的に競合企業との間でシェアの獲得競争が激化します。

こうした市場環境において、値下げ合戦などによる顧客の奪い合いに発展すると、市場全体が消耗し共倒れリスクがあるため、M&Aによって競合企業同士が統合するといった業界再編が起きやすくなります。

M&Aにより競合企業を取り込むことで、値下げ合戦から抜け出し、事業として持続性を保てる点でM&Aはメリットのある選択肢と言えます。

買い手のデメリット

期待していた効果が生まれない

M&Aによって買収する企業を選ぶ場合、買収後にどれだけの利益が見込めるか、また、どの程度の相乗効果(シナジー)が見込めるかを考慮して企業価値を算出し、買収価格を提示します。

ところが、実際にM&Aが成約すると、期待していたほどの利益が上がらず、さらには管理コストが増えてしまった、離職者が増えてしまったといった、マイナスの影響が出てしまうことがあります。

シナジーが生まれない可能性があることも念頭に置きつつ、しっかりと調査をし、事実に基づいて評価し、過大評価しすぎないようにすることが重要です。

簿外債務や偶発債務のリスク

簿外債務とは、貸借対照表(BS)に記載されていない債務のことで、賞与引当金や退職給付引当金、回収見込みの低い売掛金などがこれに当たります。

また、偶発債務とは、債務保証や取引先との訴訟による賠償金など、現時点では債務ではないが、今後発生する可能性のある債務のことをいいます。

これらの債務は、M&Aの実行前に見落としがないようにしっかりと買収監査(デューデリジェンス)を実施をすることや、契約前に確認した事実が正確であることを売り手側に保証してもらうこと(表明保証)が、こうしたリスクを回避するために有効な方法です。

また、事業のみを譲り受けることで、簿外債務や偶発債務の引継リスクを低減することもできます。

従業員の不満や離職

M&Aで買収された企業の従業員は、通常は買い手企業の一員になります。

そのとき、両社間の従業員に待遇差があったり、買収先企業の従業員の仕事内容や労働環境が変わったりすると、買収先従業員の不満が溜まり、最悪の場合には離職してしまう原因になります。

買い手企業は、買収先従業員が不満を抱く要素がないか慎重に判断し、不満を抱くような体制があれば改善の方法を検討し、必要に応じてそれを解消していく取り組みが求められます。

おわりに

本記事のまとめ

M&Aのメリットは、売り手とっては、買い手に価値を認めてもらうことで、大きな売却益を得られ、買い手企業との相乗効果を発揮することで事業の更なる発展を実現することができる点です。

買い手にとっても、自社の強みの強化や弱みの補完、新規事業への参入を迅速に行える点や、競合との競争を回避し市場における存在感を示すことができる点において、M&Aは有効な手段となり得ます。

M&Aには多くのメリット・デメリットがあるため、これらを慎重に検討したうえで、最終的に売り手と買い手の双方にとってメリットが大きい取引内容を目指すことが重要です。

M&A・事業承継のご相談はハイディールパートナーズへ

M&A・事業承継のご相談は経験豊富なM&Aアドバイザーの在籍するハイディールパートナーズにご相談ください。

ハイディールパートナーズは、中堅・中小企業様のM&Aをご支援しております。弊社は成約するまで完全無料の「譲渡企業様完全成功報酬型」の手数料体系を採用しており、一切の初期費用なくご活用いただけます。

今すぐに譲渡のニーズがない企業様でも、以下のようなご相談を承っております。

  • まずは現状の自社の適正な株式価値を教えてほしい
  • 株式価値を高めるために今後何をすればよいか教えてほしい
  • 数年後に向けて株式価値を高める支援をしてほしい
  • どのような譲渡先が候補になり得るか、業界環境を教えてほしい

ご相談は完全無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。

目次