美容院・美容室のM&A・売却・買収事例、業界動向
近年、美容院・美容室業界におけるM&A事例が増加しています。大手事業者のファンドなどへの売却をはじめとして、小規模事業者の居抜き案件の売却も増加しています。
本記事では、そうした美容院・美容室業界の市場動向を解説するとともに、美容院・美容室におけるM&Aのメリットや、M&A・売却・買収事例を、売り手・買い手それぞれの立場からまとめてご紹介します。
美容院・美容室業界の概要・市場動向
美容院・美容室業界とは
美容院や美容室は、法律上で「美容所」として位置づけられる施設のことを指します。
美容所は、美容師法によると「美容の業を行うために設けられた施設」のことを指します。ここでいう美容とは、「パーマネントウエーブ、結髪、化粧などの方法により、容姿を美しくすること」を意味します。
美容院と美容室の両社に明確な違いはなく、法律的にはいずれも「美容所」の施設に該当し、両者の相違点は名称のみになります。
一方で、類似する施設である理容室は「理容師法」により「理容所」と定められています。美容所も理容所も提供するサービスにほとんど違いはありませんが、「理容所」では剃刀を使った顔のシェービングができるのに対して「美容所」では行えないという違いがあります。
美容院・美容室業界の市場動向
美容院・美容室の大部分は個人経営
厚生労働省が調査した「美容業の実態と経営改善の方策(2018年)」によると、美容室の88.7%の経営主体は個人経営です。その他、不詳分を除くと残り10.6%が「株式会社・有限会社」による運営です。(参照:厚生労働省「美容業の実態と経営改善の方策(2018年)」)
従業員数規模の割合は、1人運営が32.4%と全体の3割を占めています。5人未満の美容室でみると、全体の約8割を5人未満が占めており、小規模店舗が市場の大部分を占めている業界であると言えます。
市場規模は伸び悩み
美容院・美容室業界における近年の市場規模は、緩やかな減少傾向にあります。
矢野経済研究所「理美容市場に関する調査(2020年)」によると、2015年には1兆5,220億円であった市場規模が、2020年には1兆3,810億円まで、5年で約1,400億円ほど減少しています。2020年は特にコロナ禍による影響を大きく受けている点も特徴です。
業界動向として、低価格化サロンが台頭し、高付加価値型サロンとの二極化が加速しています。こうした中で、大部分を占める多くの中価格帯のサロンは差別化に苦労しているのが現状です。
店舗数や美容師は緩やかに増加
美容院・美容室の事業者数は増加傾向にあります。市場規模がわずかに減少傾向にあるのに対して、事業者の数が増加していることで、業界全体としての競争環境はますます厳しくなっていると言えます。
厚生労働省「令和2年度衛生行政報告例の概況(2020年)」によると、2015年には240,299店舗であったところから、2020年には257,890店舗まで、17,000店舗以上増加しています。
また、従業美容師数も2019年3月末時点で53万人を超え、前年比2%割合で増加しており、過去最高人数を更新するに至っています。
高い離職率が課題
美容院・美容室は、立ち仕事の時間が長く肉体的・精神的に疲弊する一方で、給料が安い点が要因となり、従事する美容師の離職率が高いことで知られる業界です。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2019年)によると、理美容師(理容師・美容師)の平均年収はおよそ250万円〜270万円ほどです。
常に離職率が高い中で、いかにして人材を確保するかは、業界全体として共通の課題であると言えます。
美容院・美容室業界のM&A動向
市場規模の伸び悩みや競合との競争激化、人材不足・後継者不足などによって、近年では美容院・美容室でも事業承継の手段としてM&Aの活用が増加傾向にあります。
中規模以上の美容院はファンドなどにより買収される事例が見られる一方、小規模の美容院は居抜きとして売却となる傾向が見られることが特徴です。
なお、M&Aと居抜きは異なります。M&Aでは経営権や従業員など店舗に関する全ての権利を譲渡・売却するのに対し、居抜きは内装をそのままの状態にし、店舗や施設の権利を譲渡・売却する行為となります。
美容院・美容室におけるM&Aのメリット
売り手のメリット
美容院・美容室のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。
- 有力グループ店の傘下で更なる業容拡大を目指せる
- 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し従業員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
- M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる
買い手のメリット
美容院・美容室のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。
- 未進出の地域で顧客基盤を獲得できる
- 資格保有者等の優秀な人材を確保できる
- 新規顧客・継続顧客の獲得
- 内装などの設備投資の低減
- (異業種の場合)新規事業への参入
美容院・美容室のM&A・売却・買収事例
ブルパス・キャピタルによるAshantiのM&A
投資ファンドのブルパス・キャピタルは、「amie」ブランドのヘアサロンを中心に、首都圏近郊にて直営店約50店舗を展開するAshantiへの資本参加を実施しました。
- 実行時期:2021年10月
- スキーム:非公開
- 取引価額:非公開
- 目的:全国への店舗展開を通じた更なる事業成長推進
ジャフコグループとAZ-StarによるヘッドライトのM&A
日本最大のベンチャーキャピタルであるジャフコと、企業投資ファンド運営会社であるAZ-Starは、美容師・施術者との業務委託契約をベースにした運営モデルで140店舗以上の美容室・アイラッシュサロンを展開するヘッドライトの発行済株式の100%を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2021年2月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:アジアへの新規出店、ヘッドライトの成長と企業価値向上
ヤマノホールディングスによるL.B.GのM&A
美容室運営を手掛けるヤマノホールディングスは、中価格帯美容室を展開するL.B.Gの議決権比率52%の株式を取得し、子会社化しました。
- 実行時期:2019年10月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:非公開
- 目的:グループ全体としての美容事業の成長
CLSAキャピタルパートナーズによるAguグループのM&A
香港系投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズは、「Agu Hair Salon」のブランド名で全国展開する美容室チェーンのAguグループのM&Aを実施しました。
- 実行時期:2018年3月
- スキーム:非公開
- 取引価額:約100億円
- 目的:上場を見据えた積極的な出店の推進
アルテサロンホールディングスによるダイヤモンドアイズのM&A
「アッシュ」など複数の美容室チェーン運営を手掛けるアルテサロンホールディングスは、アイラッシュ事業を手掛けるダイヤモンドアイズの全株式を取得し、子会社しました。
- 実行時期:2014年12月
- スキーム:株式譲渡
- 取引価額:1億2,400万円
- 目的:アイラッシュ事業進出と事業内容・サービス内容の拡充
おわりに
本記事のまとめ
美容院・美容室のM&A・売却・買収事例や業界動向についてご紹介しました。
美容院・美容室業界では近年M&Aによる売却が増加傾向にあり、その背景には業界内における競争の激化や人材の確保、後継者確保の課題があります。
M&Aを行うことで、売り手には後継者の確保や大手傘下に入ることによる事業拡大、創業者利潤の獲得などのメリットがあり、買い手には人材確保や新規事業参入・経営の多角化を図ることができるというメリットが見込めます。
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