事業譲渡とは?手続きの流れや株式譲渡との違い、メリット・契約・税金を解説
事業譲渡とは、会社の一部または全部を売買するM&Aの手法の一つです。事業譲渡には簿外債務を引き継がないなどのメリットがあり、他のM&A手法とは異なる特徴があります。
本記事では、そうした事業譲渡のメリット・デメリット、手続きと流れ、株式譲渡との違い、税金などについてそれぞれ詳しく解説していきます。
事業譲渡の概要
事業譲渡とは
事業譲渡とは、売り手企業が所有している事業の一部や全てを第三者企業に譲渡する手続きです。
事業譲渡には、すべての事業を譲渡する全部譲渡と、特定の事業のみ譲渡する一部譲渡の手法があり、状況に応じて使い分けられています。
事業譲渡は個別承継となるため、譲渡する対象の資産を決める必要があります。商品や工場などの設備、不動産といった有形のものから、ノウハウ、ブランド、知的財産や特許権といった無形のものまで譲渡対象となります。
なお事業譲渡の場合は譲渡後も売り手企業の経営権が移動する訳ではないため、対象事業の譲渡後も、売り手企業の株主は引き続き会社の経営権を保持し、法人格を残すことが可能です。
事業譲渡と株式譲渡の違い
株式譲渡は、売り手企業の株主が法人もしくは個人に自社の保有株式を譲渡する手続きです。株式譲渡の場合、過半数の株式を譲り渡すことで、会社の経営権が買い手に移転することになります。
事業譲渡と株式譲渡の主な違いは、①取引主体、②譲渡対象、③契約内容、④実施目的の4点です。
株式譲渡 | 事業譲渡 | |
---|---|---|
1. 取引主体 | 個人(法人株主の場合は法人) | 事業を有する法人 |
2. 譲渡対象 | 株式 | 特定の事業資産 |
3. 契約内容 | 株式譲渡契約 | 事業譲渡契約 |
4. 実施目的 | 株式の過半数を獲得することによる売り手企業の経営権獲得 | 売り手企業の保有する特定の事業の取得 |
事業譲渡のメリット・デメリット
売り手のメリット
事業譲渡の売り手にとってのメリットは以下の点が挙げられます。
- 法人格を継続して使うことができる
- 選択と集中が実現できる
- 後継者問題を解決できる
- 負債がある場合も譲渡先が見つかりやすい
法人格を継続して使うことができる
事業譲渡では法人格を継続して使うことができるため、例えば、事業Aは売却したいが事業Bは自社に残したいといった場合に、事業譲渡は適した方法と言えます。
また、既存の事業を全て売却したうえで、同名の法人格で新しい事業も始めるといったことも可能です。
現在保有する会社の法人格を継続して使いたいときには、事業譲渡を選びましょう。
選択と集中が実現できる
事業譲渡は株式譲渡と異なり事業を切り出して売却することができるため、事業譲渡を行うことで会社経営における事業の選択と集中が実現できます。
事業譲渡で得た利益を会社の資金として残る事業に注力することもできます。すなわち、不採算事業や非主力事業を切り離し、採算性の高い主力事業に経営資源を集中させる体制を構築することが可能です。
後継者問題を解決できる
後継者のいないオーナー企業の場合、事業譲渡によって事業の運営者を変えることで、その事業を存続させることができます。
例えば、オーナー経営者の引退に伴って会社を廃業する場合、将来性のある事業は事業譲渡で切り離して第三者に譲渡することで、これまで雇っていた従業員や商品を販売していた顧客・取引先への影響を抑えることができます。
負債がある場合も譲渡先が見つかりやすい
事業譲渡では、売りたい事業だけを選別し、残したい資産・買い手が欲しがらない負債は個別に譲渡対象から除外することができます。
そのため、会社全体で見ると負債を抱えている場合でも、譲渡先の見つけやすい事業だけを選別して事業譲渡することが可能となり、負債が重い企業でも譲渡先を見つけやすくなります。
売り手のデメリット
事業譲渡の売り手にとってのデメリットは以下の点が挙げられます。
- 競業避止義務を負う
- 譲渡利益に法人税が課される
- 手続きが煩雑
競業避止義務を負う
会社法の規定により、事業譲渡した会社は、20年間にわたり同一の区市町村や隣接する区市町村で譲渡した事業と同一の事業を行うことが禁止されています。
そのため、事業譲渡後も同じ事業を行う予定がある場合には、この点に注意が必要です。
譲渡利益に法人税が課される
事業譲渡で法人が譲渡代金を受け取ると、受け取った売り手企業には法人税や住民税などの税金が課されることになります。
ただし課税対象は事業譲渡により発生した利益と会社の他の損益を通算した金額となるため、売り手に多額の繰越欠損金があったり、役員の退職金を損金計上する場合などは、節税も可能になります。
手続きが煩雑
事業譲渡の手続きは、複雑かつ手間がかかる点が特徴としてあります。会社を丸ごと承継させるわけではないため、取引先や従業員との契約も1つずつ契約し直す必要があります。
なお売り手は債権者保護手続きが不要ですが、個別で債権者の同意が必要になります。
このように、1つひとつ契約を締結し直す必要があるため、手続きが煩雑になります。
買い手のメリット
事業譲渡の買い手にとってのメリットは以下の点が挙げられます。
- 簿外債務の承継リスクがない
- 取得したい資産を選択できる
- 節税効果がある
簿外債務の承継リスクがない
事業譲渡では、必要な資産を選択して譲り受けることができるので、取引実行時点では予見できなかった偶発債務・簿外債務の承継を回避することができます。
承継したくない資産や負債がある場合には、売り手との協議で譲受対象から外すことが望ましいでしょう。
取得したい資産を選択できる
株式譲渡とは異なる事業譲渡の大きな特徴として、取得したい資産を選ぶことができる点があります。
契約時に買い手と売り手で何を承継するのか選別することで、買い手にとって本当に必要な資産だけを承継することが可能です。
節税効果がある
買い手は、事業譲渡を選択することで節税効果が期待できます。
譲り受けた資産やのれんを償却していくことで資金流出のない損失が計上されることになるため、他の手法と比べて節税効果を見込むことができます。
買い手のデメリット
事業譲渡の買い手にとってのデメリットは以下の点が挙げられます。
- 譲渡対価の支払いに消費税が課される
- 譲受完了までの手間が大きい
- 譲渡に必要な資金を用意する必要がある
譲渡対価の支払いに消費税が課される
事業譲渡では、譲渡される資産の中に消費税課税対象の資産が含まれる場合には消費税が課されることになります。主な消費税課税対象資産は以下のとおりです。
- 建物
- 設備・機械類
- 商標
- 特許権
- ソフトウェア
- 原材料
- 在庫商品
- のれん代
以下は消費税非課税資産となります。
- 土地
- 株式
- 小切手
- 売掛金
- 貸付金
消費税は買い手が負担し、税務署への納付は売り手が行います。
譲受完了までの手間が大きい
事業譲渡では、譲受対象となる資産・負債について、それぞれの個別に契約を再締結する必要があります。
売り手が所有する資産に抵当権が付されていたり、担保になっている場合には特に契約の結び直しに時間かかる場合が多くあります。そのため、事業譲渡が完了するまでには他の手法と比べて手間がかかることが一般的です。
譲渡に必要な資金を用意する必要がある
事業譲渡の買い手は、事業を譲り受けるための対価として資金を準備する必要があります。
事業譲渡契約に基づく買収資金だけでなく、消費税やその後の運用資金も必要となるため、先を見据えた資金の調達が必要になります。
事業譲渡の手続きと流れ
事業譲渡は、移転する資産、負債、契約関係などは個別に移転することになるため、場合によっては長期スケジュールとなることもありますが、他の組織再編のような会社法上の多くの手続きは定められておらず、比較的柔軟にスケジュールを定めることができます。
一般的に、事業譲渡は以下の手順で進めることになります。
- 事業譲渡契約締結
- 反対株主の株式買取請求
- 株主総会特別決議
- 従業員の雇用関係引き継ぎ
- 名義変更手続き
事業譲渡契約締結
事業譲渡の手続きでは、売り手と買い手が事業譲渡契約を締結します。このとき、売り手は事業譲渡について取締役会の決議を済ませておく必要があります。
事業譲渡契約書には、譲渡内容・譲渡対価・支払方法・財産の移転手続き・譲渡日・競業避止義務・契約の引継ぎ、従業員の引継ぎなどを記載することが一般的です。
移転する事業によっては許認可が必要な事業もありますが、事業譲渡では許認可を移転させることができないため、買い手が必要な許認可を保有していない場合は事前に当該許認可取得に向けた対応検討が必要になります。
反対株主の株式買取請求
事業譲渡は、株主の権利を保護するための手続きが定められています。
事業譲渡に反対する株主がいる場合、その株主は会社に対して保有する株式の買取請求を行うことができます。
株主総会決議が必要となる場合は、効力発生日の20日前までに株主に通知を行うことが必要です。また、反対株主は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に買取請求手続きを行うことが必要です。
株主総会特別決議
事業譲渡においては、株主総会の特別決議が必要となる場合とそうでない場合があります。
株主総会決議が必要なケース
事業譲渡が次のいずれかに該当する場合は、譲渡日の前日までに株主総会の特別決議が必要になります。
- 売り手企業:
-
事業の全部を譲渡、もしくは事業の重要な一部の譲渡
- 買い手企業:
-
事業の全部を譲受け
売り手企業が買い手企業の規模と比較して小規模である場合も、事業の全部の譲渡に該当するときは原則買い手企業で株主総会の特別決議が必要となるため注意が必要です。
株主総会決議が不要なケース
以下の簡易・略式事業譲渡に該当する場合、株主総会の特別決議を省略することができます。
- 簡易事業譲渡:
-
譲渡する資産の帳簿価額が、売り手企業の総資産の1/5を超えない場合、重要な一部の譲渡に該当しないとされ、株式総会の特別決議、反対株主の株式買取請求権が発生しません。
- 簡易事業譲受け:
-
事業譲渡の対価が買い手企業の純資産の1/5を超えない場合、買い手企業は株主総会の特別決議が不要になります。このとき、反対株主の株式買取請求権は発生しません。
- 略式事業譲渡:
-
事業譲渡を行う当事者となる会社の間に議決権の90%以上を保有される関係がある場合、支配されている側の会社については株主総会を省略することができます。
従業員の雇用関係引き継ぎ
売り手企業に属する従業員は、売り手企業を退職し、買い手企業に改めて入社するという雇用関係締結先変更の手続きを踏むことになります。
実務上は、従業員の心情に配慮して「転籍承諾書」といった名目の書面を提出することが一般的です。
また、事業譲渡実行のタイミングで、売り手企業から退職金を支給することがあります。ただし、保有キャッシュが十分でない場合など、退職金を支払わないことが望ましい状況では、買い手企業に退職金を引き継ぐこともあります。
名義変更手続き
財産・債務・権利・契約などを移転するための名義変更手続きを行います。
登記が必要な財産などは買い手企業が実施しますが、売り手企業でも必要な情報の開示や資料作成が必要となるため、買い手と売り手の間で連携して進めることが重要です。
事業譲渡における税金
事業譲渡において、売り手と買い手にかかる税金はそれぞれ以下のとおりです。
売り手にかかる税金
法人税
売り手の契約当事者は対象会社自身となるため、買い手からの対価は売り手の会社に入ることになります。そのため、事業譲渡で生じた利益に対しては、法人税等(実効税率約34%)が課税されることになります。
消費税
売り手は消費税を負担しませんが、買い手から消費税を徴収して、売り手が税金を納める必要があります。
消費税では、譲渡対象資産が消費税の課税対象かどうかを把握しておく必要があります。資産の中には非課税の資産も含まれることがあるため、注意が必要です。
買い手にかかる税金
消費税
課税対象資産に対して10%の税率をかけた額を、消費税として買い手が負担し売り手に支払います。
課税対象資産が多いと、支払う消費税額が増えることになるので、譲受側(買い手)は課税対象資産に注意する必要があります。
なお、負債には消費税はかかりませんが、資産と負債の差額に消費税がかかるのではなく、営業権(のれん)を含めた資産の金額に対して課税されるため、注意が必要です。
不動産取得税・登録免許税
譲渡対象資産に不動産が含まれている場合には、不動産取得税と登録免許税が発生することになります。事業譲渡により不動産の所有者が売り手から買い手に変わるため、これらの税金を買い手が支払います。
不動産差取得税、登録免許税それぞれの税率は次のとおりです。(2022年9月時点)
不動産 | 登録免許税 | 不動産取得税 |
---|---|---|
建物 | 固定資産税評価額 ×2% | 固定資産税評価額 ×4% |
土地(宅地評価) | 固定資産税評価額 ×1.5% | 固定資産税評価額 ×1/2×3% |
土地(宅地評価以外) | 固定資産税評価額 ×1.5% | 固定資産税評価額 ×3% |
おわりに
本記事のまとめ
会社全体ではなく特定の事業のみを売買する取引である「事業譲渡」について解説しました。
株式譲渡は株式のみを譲渡して経営権自体を移転させる取引であるのに対して、事業譲渡では特定の資産・負債を指定して譲渡することになります。
事業譲渡では簿外債務を譲渡するリスクは低いものの、株式譲渡と比べて手続きの手間がかかる点が特徴です。
メリット・デメリットや手続きの流れ、注意点を把握したうえで、事業譲渡を推進していく際には、事業譲渡に長けたM&Aアドバイザーの支援を得ながら進めていくことが望ましいでしょう。
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