塗料・塗料卸売業界のM&A・売却・買収事例、業界動向

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塗料・塗料卸売業界は近年M&Aが活発な業界の一つです。国内市場での塗料需要の減少により、M&Aを足掛かりとした国内企業の海外進出が加速しています。

本記事では、そうした塗料・塗料卸売業界の市場動向を解説するとともに、塗料・塗料卸売業界におけるM&Aのメリット、今後のM&A動向、買収事例をまとめてご紹介します。

目次

塗料・塗料卸売業界の概要・市場動向

塗料・塗料卸売業界とは

塗料・塗料卸売業界とは、塗料の製造、販売を担う塗料メーカーや塗料の卸売りを担う塗料卸売業者が属する業界をいいます。

塗料には、建築用塗料、バイク・自動車用塗料、印刷用塗料、家庭用塗料などがあります。塗装メーカーには、特定分野の塗料を扱うメーカーや様々な塗料を網羅的に扱う総合メーカーが存在します。

塗料は表面加工材料の一つで素材の彩色や保護を目的に使用されます。また防腐、防火、防水、遮熱、撥水など特殊な機能を有する塗料も使用されます。

塗料・塗料卸売業界の市場動向

国内需要の衰退

塗料市場はすでに成熟段階にあり、今後の市場拡大は見込めない状況です。

国内における塗料販売額は1990年代前半には8,500億円ありましたが、それ以降減少しリーマンショックによる景気後退とともに大きく市場規模が縮小しました。リーマンショック後も減少した販売額付近で横ばいで推移しています。(参照:経済産業省「経済産業省生産動態統計」)

一般的に、塗料消費量はGDPとの相関が確認されているため、日本国内市場の停滞は今後も継続すると予測されます。

国内市場停滞の要因として、供給面での要因も挙げられます。

塗料の仕入れ価格は原料となる石油価格に左右されやすいという特徴があります。石油価格は変動率が高く、かつ多様な種類の塗料から需要を見越して仕入れる必要があるため、業界全体で利益率が低いことが課題の一つです。

日本企業の海外進出が加速

国内市場が成熟した結果、成長段階にある海外市場へ進出する企業が増加しています。

日本をはじめとした先進国市場の成長は限られるため、資本力のある大手企業は新興国市場を中心に海外展開を進めています。

海外の内装塗装需要も国内事業者の海外進出を加速させています。日本国内での内装は壁紙が主流ですが、海外では塗装による内装が一般的です。

高い成長力を背景に住宅需要が増加し、かつ住宅の内装における塗装需要が高い新興国市場へ展開することで、国内市場の伸び悩みを補完しようとする動きが加速しています。

環境配慮塗料の需要増加

近年での環境意識の高まりを受けて塗料・塗料卸売業界でも環境対応の塗料が展開されています。

新築工事では工事製造部材を現場施工によって構造体に取り付ける手法が主流になったことで、溶剤系の塗料からより環境への負荷が小さい粉体系への切り替えが進んでいます。溶剤系塗料は、成分が飛散する、光化学スモッグの原因になるなどのデメリットが指摘されています。

また、水性塗料も環境への負荷が小さいですが、性能面や作業性の観点から弱溶剤系が使用される場面が多いのが実情です。

塗料・塗料卸売業界のM&A動向

塗料・塗料卸売業界では、国内市場の需要停滞を受けてM&Aを通じた業界再編が進行しています。

また、海外進出の足掛かりとして海外現地企業を買収する事例も見られます。市場が縮小傾向にある塗料・塗料卸売業界の参入障壁は高いため、世界的な市場でシェアを獲得できれば将来的に寡占状態になる可能性があります。

実際、国内外の大手塗装会社が同業他社を買収する事例が頻繁に見られており、今後もこの流れは継続すると見込まれます。

塗料・塗料卸売業界におけるM&Aのメリット

売り手のメリット

塗料・塗料卸売業界のM&A活用において、売り手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 買い手の供給網を活用した事業展開ができる
  • 買い手の事業基盤の下で安定した需要獲得が見込める
  • 後継者が不在の場合、廃業せず事業を継続し社員の雇用を守ることができる
  • 後継者問題を解決し、株式譲渡による譲渡収入とともに経営から退くことができる
  • M&Aを契機に代表者による借入金の個人保証や担保を解消できる

買い手のメリット

塗料・塗料卸売業界のM&A活用において、買い手側のメリットは以下が挙げられます。

  • 売り手の抱える経験のある人材を確保できる
  • 売り手の持つ海外販路を活用することで海外進出の足掛かりになる
  • 仕入れを一括で行うことでスケールメリットを享受できる
  • 売り手が扱っている特定分野の塗料を提供できるようになる

塗料・塗料卸売業界のM&A・売却・買収事例

日本ペイントホールディングスによるCromology Holding SASのM&A

家庭用・建築構造物用・自動車用・工業用・船舶用・表面処理塗装の開発・製造・販売を手掛ける日本ペイントホールディングスは、塗料および塗料周辺製品の製造・販売を手掛けるCromology Holding SASの全株式を取得しました。

  • 実行時期:2022年1月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:1,479億円
  • 目的:ヨーロッパへの進出

Sun Chemical Group S.p.AによるSAPICI S.p.A.のM&A

印刷インキ・有機顔料・合成樹脂などの製造・販売を手掛けるDICの完全子会社であるSun Chemical Group S.p.Aは、イタリアの接着剤・ポリマメーカーであるSAPICI S.p.A.とその持株会社であるFINAPE S.r.L.の全株式を取得しました。

  • 実行時期:2022年1月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:グローバル市場での接着剤事業拡大

日本ペイント・オートモーティブコーティングスによるTong Yang Holding CorporationのM&A

日本ペイントホールディングスの連結子会社で、自動車用塗料の製造・販売を手掛ける日本ペイント・オートモーティブコーティングスは、ケイマン諸島を拠点にするTong Yang Holding Corporationから中国で自動車用プラスチック塗料の製造・販売を手掛ける連結子会社5社の株式を追加取得して完全子会社化しました。

  • 実行時期:2021年11月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:中国での自動車塗料事業拡大

DuluxGroup LimitedによるDP JUB delniška družba pooblaščenka d.d.のM&A

日本ペイントホールディングスの孫会社でグループ内企業の中間持株会社であるDuluxGroup Limitedは、塗料・塗料周辺製品の製造・販売を行っているグループの持株会社であるDP JUB delniška družba pooblaščenka d.d.の株式99.8%を取得しました。

  • 実行時期:2021年10月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:ヨーロッパ市場での塗料事業拡大

Nippon Paint (M) Sdn. Bhd.によるVital Technical Sdn. Bhd.のM&A

日本ペイントホールディングスの完全子会社であるNippon Paint (M) Sdn. Bhd.は、シーラント・接着剤の製造・販売を手掛けるVital Technical Sdn. Bhd.の株式75%を取得しました。

  • 実行時期:2021年3月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:東南アジア地域での塗料事業拡大

東京インキによる荒川塗料工業のM&A

オフセットインキ・グラビアインキ・インクジェットインク・マスターバッチ・樹脂コンパウンド・工業材料・包装材料の製造・販売、印刷用材料・印刷機械・仕入商品の販売などを手掛ける東京インキは、紙加工用塗料や建築用塗料などの製造・販売を手掛ける荒川塗料工業の全株式を取得しました。

  • 実行時期:2021年1月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:非公開
  • 目的:販売・生産・技術面でのシナジー創出

日本ペイントホールディングスによるBetek Boya ve Kimya Sanayi Anonim ŞirketiのM&A

家庭用・建築構造物用・自動車用・工業用・船舶用・表面処理塗装の開発・製造・販売を手掛ける日本ペイントホールディングスは、グループ会社9社の体制で建築用塗料・建設用材料の製造・販売を手掛けるBetek Boya ve Kimya Sanayi Anonim Şirketiの株式95.915%を取得しました。

  • 実行時期:2019年7月
  • スキーム:株式譲渡
  • 取引価額:281億円
  • 目的:アジア市場での事業拡大

おわりに

本記事のまとめ

塗料・塗料卸売業界の市場動向、M&A動向、買収事例についてご紹介しました。

国内市場では塗料需要の成長が見込めないことから、近年は大手企業によるM&Aを足掛かりとした海外市場への進出が盛んに行われています。

こうしたシェアを拡大するためのクロスボーダーM&Aは、今後も新たな需要やスケールメリットの獲得を目指し活発化していくと予想されます。

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