マルチプル法とは?M&Aで使える計算式と目安を初心者向けに解説

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「自分の会社は一体いくらで売れるのか?」M&Aを検討する経営者なら誰もが抱く疑問です。この答えを客観的な数字で導き出す最も実践的な手法が「マルチプル法」です。

類似する上場企業の株価倍率を基準に企業価値を算定するこの方法は、計算がシンプルで市場データに基づく客観性があるため、中小企業のM&Aで広く活用されています。

本記事では、専門家に頼る前に自分で計算できるレベルまで、計算式・業界別の目安・類似企業の選び方を徹底解説します。読了後には、M&A仲介会社から提示された評価額が妥当かどうかを判断する力が身につくでしょう。

目次

マルチプル法とは?30秒で理解する基本の仕組み

マルチプル法とは、類似する上場企業の株価倍率を基準に、対象企業の企業価値を算出する評価手法です。別名「類似会社比較法」とも呼ばれ、M&Aにおけるバリュエーション(企業価値評価)の代表的な方法として広く活用されています。

この手法の特徴は、不動産取引における「近隣相場」のように、市場で実際に取引されている価格データを参照する点にあります。上場企業の株価には投資家の期待や業界動向が反映されているため、算出された評価額は買い手・売り手双方にとって客観性のある数値となります。

マルチプル法は、マーケットアプローチの一種として、実務での使いやすさから中小企業のM&Aでも頻繁に採用されています。

なぜ中小企業のM&Aで「マルチプル法」が選ばれるのか

M&Aの現場でマルチプル法が重用される理由は、その「スピード」と「客観性」にあります。DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)のように複雑な将来予測を必要とせず、市場データに基づいて評価額を算定できるため、交渉の「共通言語」として機能します。

特に中小企業のM&Aでは、精緻な事業計画の策定が難しいケースが多く、将来キャッシュフローの予測に恣意性が入りやすいという課題があります。一方、マルチプル法は現実の市場価格を反映した指標を使用するため、実態に即した評価が可能です。また、計算プロセスがシンプルで短時間に結果を得られることから、M&Aの初期段階における価格目線の形成に適しています。

マルチプル法で使う4つの主要指標と計算式【一覧表付き】

マルチプル法では、目的や業種に応じて複数の指標を使い分けます。代表的なものとして、EBITDA倍率、EBIT倍率、PER、PBRの4つがあります。これらの指標はそれぞれ異なる財務数値を基準としており、対象企業の特性や取引の目的に応じて適切なものを選択する必要があります。

以下の表は、各指標の計算式と主な用途をまとめたものです。指標の選び方を誤ると評価額が実態と乖離するリスクがあるため、それぞれの特徴を正しく理解しておくことが重要です。

指標計算式主な用途
EV/EBITDA企業価値 ÷ EBITDA中小企業M&Aの標準指標
EV/EBIT企業価値 ÷ EBIT設備投資が少ない業種向け
PER株価 ÷ 1株当たり純利益安定収益企業の株式価値評価
PBR株価 ÷ 1株当たり純資産資産重視の業種向け

EBITDA倍率(EV/EBITDA):中小企業M&Aの標準指標

EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)を基準とするEV/EBITDA倍率は、中小企業M&Aで最も使用される指標です。計算式は「企業価値(EV)= EBITDA × 倍率」となります。EBITDAは営業利益に減価償却費を足し戻した数値であり、設備投資の多寡による利益のブレを排除できる点が特徴です。

これにより、「本業で稼ぐ力」を純粋に評価できます。また、財務構造や税制の違いによる影響を受けにくいため、異なる企業間の比較に適しています。中小企業では減価償却費の計上方法が企業ごとに異なることも多く、EBITDAを使うことで公平な比較が可能になります。

EBIT倍率(EV/EBIT):設備投資が少ない業種向け

EBIT(利払前・税引前利益)は、営業利益に近い概念の指標です。EBITDAとの違いは減価償却費を足し戻さない点にあり、設備投資が少ないサービス業やコンサルティング業などで使用されます。これらの業種では固定資産が少なく減価償却費の影響が軽微なため、EBITでも十分に実態を反映できます。

計算式は「企業価値(EV)= EBIT × 倍率」です。EBITDAよりも保守的な評価となりやすい特徴があり、減価償却費を考慮した厳格な評価を求める買い手との交渉で活用されることがあります。業種特性を踏まえて、EBITDAとEBITのどちらを採用するか判断することが重要です。

PER(株価収益率):安定収益企業の株式価値評価

PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)は、当期純利益を基準とする指標で、株式価値を直接算出する際に使用します。計算式は「株式価値 = 当期純利益 × PER」です。純利益ベースの評価となるため、黒字が安定している企業の評価に適しています。

上場企業の株価分析で広く知られた指標であり、投資家にとって馴染み深い点もメリットです。ただし、純利益は特別損益や税効果の影響を受けやすく、一時的な要因で数値が大きく変動するリスクがあります。そのため、複数年の平均値を使用したり、異常値を調整したりする処理が必要になるケースもあります。

PBR(株価純資産倍率):資産背景重視の業種向け

PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)は、純資産(簿価)を基準とする指標です。計算式は「株式価値 = 純資産 × PBR」となります。不動産業や金融業など、保有資産の実態価値が企業価値に大きく影響する業種で参考にされます。

PBRが1倍を下回る場合は、株価が純資産を下回っている状態を意味し、資産価値に対して割安と判断されます。ただし、簿価と時価に乖離があるケースでは、純資産の調整が必要です。また、知的財産やブランド力といった無形資産が重要な企業では、PBRだけでは適正な評価が困難な点に注意が必要です。

【業界別】EBITDAマルチプルの目安一覧

M&A実務では、業界ごとにおおよその「相場観」が存在します。これは過去の取引事例や上場企業のデータから導かれた参考値であり、自社の評価額が適正かどうかを判断する際の重要な外部基準となります。

ただし、同じ業界であっても成長性や収益性、競争環境によって倍率は大きく変動するため、あくまで目安として捉えることが必要です。以下は上場企業データおよびM&A成約事例から導かれる参考値です。中小企業の場合は規模ディスカウントを考慮し、下限寄りで見るのが一般的です。

業界EBITDA倍率の目安備考
IT・SaaS8〜15倍成長性が高いほど上振れ
製造業(機械・部品)4〜7倍技術力・特許で変動
建設・設備工事3〜6倍受注残・顧客基盤が影響
小売・卸売4〜6倍商圏・ブランド力で変動
飲食・サービス3〜5倍店舗立地・リピート率が重要
医療・介護・調剤5〜8倍許認可・地域独占性で上振れ
人材派遣・BPO5〜8倍契約継続率が評価に影響

【5ステップ】自分でできるマルチプル法の計算手順

ここでは、専門家に依頼する前に自分で企業価値の目安を算出する方法を5つのステップで解説します。M&A仲介会社との交渉前に「価格の目線」を持っておくことで、提示された評価額の妥当性を判断する力が身につきます。

計算に必要なのは、自社の決算書と類似上場企業の財務データです。インターネット上で公開されている情報だけでも、概算値の算出は十分に可能です。以下の手順に沿って進めることで、専門知識がなくても自社の企業価値の目安を把握できるようになります。

STEP

自社の「調整後EBITDA」を算出する

まず自社の直近3期分の決算書から、EBITDA(営業利益+減価償却費)を算出します。ここで重要なのは「正規化(ノーマライズ)」と呼ばれる調整作業です。

具体的には、役員報酬を市場水準に調整する、一時的な損益(訴訟費用、災害損失、保険金収入など)を除外する、親族への過大な給与を適正化するといった処理を行います。これにより、継続的な収益力を示す数値に補正されます。正規化を怠ると、本業の実力とは異なる数値で評価されてしまうため、この作業は非常に重要です。

STEP

類似上場企業を3〜5社選定する

次に、自社と比較可能な類似上場企業を選定します。選定基準は、業種・ビジネスモデル・規模・成長性の4つの観点です。四季報やEDINET、各種スクリーニングツールを活用し、売上規模・利益率・事業領域が近い企業をリストアップします。

完全に一致する企業は存在しないため、複数の候補を挙げて総合的に判断することが大切です。類似企業の選定はマルチプル法の精度を左右する最重要ポイントであり、なぜその企業を選んだのかを論理的に説明できるよう、選定根拠を明確にしておきましょう。

STEP

類似企業のEBITDAマルチプルを計算する

選定した各企業の「企業価値(EV)÷ EBITDA」を算出します。EVは「時価総額+有利子負債−現預金」で計算します。複数社の倍率を算出したら、異常に高いまたは低い数値(外れ値)を除外し、平均値または中央値を採用します。

中央値を使用すると、極端な数値の影響を受けにくくなります。また、同じ業界でも成長ステージや収益性によって倍率は異なるため、選定した企業の特性を踏まえて、どの数値を採用するか検討することが必要です。

STEP

自社のEBITDAに倍率を掛けて事業価値を算出

「自社の調整後EBITDA × 類似企業の倍率」で事業価値(EV)を算出します。レンジで見る場合は、下限・中央・上限の3パターンを計算しておくと交渉時に有用です。

例えば、調整後EBITDAが5,000万円、採用倍率が4〜6倍の場合、事業価値は2億円〜3億円のレンジとなります。この幅を持った提示により、交渉の余地を残しつつ、根拠のある価格帯を示すことができます。一点の金額ではなく、幅で捉えることがM&A交渉では実践的です。

STEP

純有利子負債を控除して株式価値を導く

算出した事業価値から「有利子負債−現預金(=純有利子負債)」を差し引くと、株式価値が算出できます。これがM&Aにおける売買価格の目安となります。例えば、事業価値(EV)が2.5億円、有利子負債が8,000万円、現預金が3,000万円の場合、純有利子負債は5,000万円となり、株式価値は2億円と計算されます。

この株式価値が、オーナー経営者が手にする金額のベースとなります。ただし、実際の売買価格はデューデリジェンスの結果や交渉によって変動する点を理解しておきましょう。

評価精度を左右する「類似企業選定」の実務テクニック

マルチプル法の精度は、類似企業の選定で8割が決まるといっても過言ではありません。適切な類似企業を選べば説得力のある評価額となり、不適切な企業を選べば恣意的だと批判されるリスクがあります。

この章では、実務で活用できる選定のポイントを解説します。類似企業選定は単なる作業ではなく、評価の妥当性を担保する重要なプロセスです。買い手・売り手双方が納得できる評価額を導くために、以下の実務テクニックを押さえておきましょう。

「業種が同じ」だけでは不十分な理由

単に「同じ業種コード」というだけでは、適切な類似企業とはいえません。収益モデル(ストック型かフロー型か)、顧客属性(BtoBかBtoCか)、地域性、成長ステージまで考慮する必要があります。例えば、同じIT業界でも、受託開発とSaaSでは収益構造が全く異なり、適用すべき倍率も大きく変わります。

表面的な業種分類ではなく、ビジネスの本質的な類似性を見極めることが、妥当な評価額を導く鍵となります。複数の観点から類似性を検証し、比較対象として適切かどうかを丁寧に判断しましょう。

類似企業が見つからない場合の対処法

ニッチ産業や独自性の高い事業では、完全に一致する上場企業が存在しないケースがあります。その場合の対処法として、ビジネスモデルを「分解」して収益の柱ごとに異なる類似企業を適用する方法があります。

例えば、製造と販売を行う企業であれば、製造部門は製造業の倍率、販売部門は卸売業の倍率を適用し、加重平均する方法です。また、周辺業界や隣接業界まで対象を広げることも有効です。海外の上場企業を参照するケースもありますが、市場環境の違いを考慮した調整が必要になります。

選定根拠を「説明できる」ことの重要性

M&A交渉では、なぜその企業を類似として選んだのかを論理的に説明できることが、評価額の説得力を高めます。選定基準を明文化し、客観的な根拠を持っておくことが、相手方からの値下げ交渉への防御策となります。

買い手から「この類似企業は不適切だ」と指摘された場合に、合理的な反論ができなければ、評価額の引き下げを余儀なくされます。選定プロセスを記録に残し、第三者にも納得してもらえる形で整理しておくことが実務上非常に重要です。

中小企業・非上場企業特有の調整ポイント

上場企業のデータをそのまま中小企業に適用すると、評価額が実態と乖離するケースがあります。これは、上場企業と非上場企業では株式の流動性や経営の支配構造が根本的に異なるためです。適正な評価を行うには、この違いを調整する必要があります。

ここでは、非上場企業特有の調整項目として、非流動性ディスカウントとコントロールプレミアムについて解説します。これらの概念を理解しておくことで、評価額の根拠を正しく読み解く力が身につきます。

非流動性ディスカウント(DLOM)の考え方

上場企業の株式はいつでも市場で売却できますが、非上場企業の株式は買い手を見つけるのに時間とコストがかかります。この「流動性の差」を反映し、上場企業ベースの評価額から10〜30%程度の割引を適用するのが一般的です。

この割引率は「非流動性ディスカウント(DLOM: Discount for Lack of Marketability)」と呼ばれます。割引率の水準は、株式の譲渡制限の有無、会社規模、業績の安定性などによって変動します。この調整を考慮しないと、非上場企業の評価額が過大になるリスクがあります。

コントロールプレミアムとは

M&Aで経営権(支配権)を取得する場合、少数株主として投資する場合よりも高い価値を認めるのが通例です。経営権を持つことで、経営方針の決定、配当政策、役員人事などをコントロールできるためです。このプレミアムは20〜40%程度とされ、買収側が上乗せして支払う根拠となります。

上場企業の株価は少数株主の取引価格を反映しているため、100%買収の場合にはコントロールプレミアムを加算して評価することがあります。このプレミアムの適用可否は、取引形態によって判断が異なります。

実務での落としどころ

中小企業M&Aでは、非流動性ディスカウントとコントロールプレミアムを相殺して考えることも多く、最終的には「交渉」で決まります。理論的な調整率を厳密に適用するよりも、両者の要素を認識した上で、妥当な水準を協議によって決定するのが実務的なアプローチです。

しかし、これらの概念を理解しておくことで、提示された価格の根拠を読み解く力がつきます。専門家から説明を受けた際にも、調整の妥当性を自分で検証できるようになり、交渉を有利に進めることができます。

マルチプル法 vs DCF法:結局どちらを使うべきか

企業価値評価の二大手法であるマルチプル法とDCF法です。マルチプル法が市場の相場観に基づくマーケットアプローチであるのに対し、DCF法は将来キャッシュフローの現在価値を算出するインカムアプローチです。どちらにも長所と短所があり、評価の目的や対象企業の特性によって使い分けることが重要です。

この章では、中小企業M&Aにおける両手法の適性を比較し、実務での活用方法を解説します。どちらか一方に偏ることなく、両方の視点を持つことが適正評価への近道です。

中小企業M&Aでマルチプル法が適している理由

DCF法は将来のキャッシュフロー予測を基に価値を算出しますが、中小企業では精度の高い事業計画を作成することが難しく、「予測の恣意性」が問題になりがちです。経営者の感覚的な見通しや、楽観的な成長シナリオに基づいた計画では、算出された評価額の信頼性が低下します。

一方、マルチプル法は市場で実際に成立している価格を参照するため、主観が入りにくい特徴があります。中小企業M&Aの初期段階での価格目線の形成には、マルチプル法の方が適しているケースが多いです。

両手法の「クロスチェック」が理想

実務では、マルチプル法とDCF法の両方を算出し、結果を比較検証する「クロスチェック」が推奨されます。両者の乖離が大きい場合は、前提条件(成長率、割引率、類似企業選定)を再検討するきっかけになります。

マルチプル法が市場の相場観を、DCF法が将来の成長ポテンシャルを反映するため、両方の視点から評価することで、より説得力のある価格レンジを導き出せます。どちらか一方だけに依存するのではなく、複数のアプローチで検証することが、適正な企業価値を見極めるポイントです。

マルチプル法のメリット・デメリットを正しく理解する

マルチプル法を効果的に活用するために、そのメリットとデメリットを正確に把握しておきましょう。どのような評価手法にも長所と短所があり、それを理解した上で使うことが重要です。メリットばかりを見て採用すると、後になって想定外の問題が生じることがあります。

逆に、デメリットを過度に恐れて使わないのも機会損失です。マルチプル法の特性を正しく理解し、適切な場面で活用することで、M&A交渉を有利に進めることができます。

メリット

マルチプル法の主なメリットは以下の3点です。第一に、計算がシンプルで短時間に算出可能な点です。DCF法のような複雑なモデル構築が不要で、必要なデータが揃えば数時間で結果を得られます。第二に、市場データに基づく客観性があることです。

実際の株価や取引データを使用するため、「相場感」として買い手・売り手双方が納得しやすい評価となります。第三に、交渉の出発点として有効な点です。具体的な価格レンジを提示することで、交渉の土台を作り、議論を建設的に進めることができます。

デメリット

一方で、以下の3点のデメリットにも注意が必要です。第一に、類似企業選定に主観が入りやすいことです。選ぶ企業によって結果が大きく変動するため、選定の恣意性を完全に排除することは困難です。第二に、市場環境の影響を受けやすい点です。

株式市場の好不況で倍率が変動し、景気サイクルによって評価額が上下します。第三に、企業固有の強みが反映されにくい点です。特許やブランド、優秀な人材など、数字に表れない定性的な価値が見落とされがちです。

「使い方を間違えなければ強い」3つの原則

マルチプル法を正しく活用するための原則は以下の3つです。第一に、類似企業は最低3社以上選定し、その根拠を明文化すること。単一企業との比較では客観性が担保できません。第二に、異常値は除外し、レンジ(幅)で評価額を提示すること。

一点の金額ではなく幅を持たせることで交渉の余地が生まれます。第三に、単独手法で結論を出さず、DCF法など他の手法と併用すること。これらの原則を守ることで、マルチプル法は強力な評価ツールとなります。

よくある質問(FAQ)

赤字企業でもマルチプル法は使えますか?

EBITDAや純利益がマイナスの場合、通常のマルチプル法は適用が困難です。代替手法として「EV/売上高倍率(PSR)」を使用する方法があります。これは売上高に対する企業価値の倍率で、赤字でも適用可能です。

SaaSや成長投資段階のスタートアップでは、売上高倍率が一般的に使われています。また、黒字化後の想定利益をベースに評価する方法もありますが、将来予測の妥当性が問われるため、根拠の説明が重要になります。業種や成長ステージに応じた指標選択が必要です。

類似企業は何社くらい選べばよいですか?

3〜5社が目安です。少なすぎると外れ値の影響を受けやすく、1社の異常な数値が結果を大きく歪めてしまいます。一方、多すぎると類似性の低い企業が混在するリスクがあり、比較の精度が低下します。

選定後は各社の倍率を並べて中央値や平均値を算出し、なぜその企業を選んだのかの根拠とともに提示することで、評価の客観性を担保できます。選定基準を明文化し、第三者にも説明できる状態にしておくことが、M&A交渉において実務上非常に重要です。

計算結果と実際の売却価格はどのくらい乖離しますか?

±20〜30%程度の乖離は珍しくありません。マルチプル法はあくまで「目線」を作るためのツールであり、最終価格はデューデリジェンス結果、シナジー効果、交渉力によって変動します。特に、買い手が見出す戦略的価値(シナジー)が大きい場合は、算定価格を上回る金額での成約もあり得ます。

逆に、簿外債務や訴訟リスクなどが発見されれば、大幅な減額となることもあります。計算結果は交渉のスタートラインとして捉えましょう。

EVと株式価値の違いがよく分かりません

EV(Enterprise Value:企業価値)は「会社全体の価値」を表し、債権者と株主の両方に帰属する価値です。一方、株式価値は「株主に帰属する価値」であり、オーナーが手にする金額のベースとなります。

計算上は、EVから有利子負債を引き、現預金を足すと株式価値になります(株式価値 = EV – 有利子負債 + 現預金)。M&Aで売買されるのは通常「株式」なので、最終的には株式価値を算出する必要があります。EVと株式価値の違いを正しく理解することは、評価の基本です。

まとめ:マルチプル法を「武器」として使いこなすために

マルチプル法は、M&Aにおいて「自社の価値」を客観的な数字で把握するための強力なツールです。EBITDAなどの指標と業界の倍率を掛け合わせることで、専門家でなくても企業価値の目安を算出できます。重要なのは、計算結果を鵜呑みにするのではなく、その根拠(類似企業の選定理由、採用した倍率の妥当性)を自分の言葉で説明できるようになることです。

専門家に相談する前に、本記事の計算手順で「自社の価値の目線」を持っておくことで、提示された評価額が妥当かどうかを判断する力が身につきます。M&Aは情報戦でもあります。まずは自分で計算し、納得のいく評価を勝ち取るための第一歩を踏み出してください。

マルチプル法を正しく理解し活用することで、対等な交渉ができる「武装した経営者」として、M&Aを成功に導きましょう。

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