PEファンドのモデルテストとは?LBOモデル構築から面接対策まで網羅解説

PEファンドの選考において、モデルテストは多くの優秀な候補者が足元をすくわれる最大の難関です。「BSがバランスしなかったらどうしよう」「時間内に終わらない」といった不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、採点官が本当に見ている5つの評価軸から、0から完成までのステップバイステップの作り方、試験中にモデルが崩れた時のリカバリー術、そして面接での説明技術まで、内定獲得に必要な全てを網羅的に解説します。この記事を読み終えた時、「何が来ても大丈夫」という自信を持って選考に臨めるようになるはずです。
PEファンドのモデルテストとは?選考における位置づけと出題形式
PEファンドの選考プロセスにおいて、モデルテストは候補者の実務能力を見極める最重要ステップとして位置づけられています。このテストでは、投資判断に必要なLBOモデルをExcelで構築し、投資の妥当性を数値で示すことが求められます。
戦略コンサル出身者からIBD経験者まで、多くの優秀な候補者がこの試験で苦戦するのは、単なる財務知識だけでなく、時間内に完成させる実践力が問われるためです。ファンドによって出題形式や評価基準は異なりますが、共通して求められるのは「投資家としての思考プロセス」を数字で表現する能力です。

なぜPEファンドはモデルテストを課すのか?(採点官の本音)
モデルテストは単なるExcelスキルの確認ではありません。採点官が本当に見ているのは、限られた時間と不完全な情報の中で、投資判断に資するアウトプットを出せるかという実務能力です。PEファンドでの業務では、デューデリジェンスから投資委員会への提案まで、常にタイトなスケジュールで意思決定を迫られます。
そのため、選考段階で候補者の思考プロセス、作業の正確性、そして投資家としてのセンスを総合的に評価する必要があるのです。経験豊富な採用担当者は、モデルの完成度だけでなく、仮定の置き方や優先順位の付け方からも候補者の素養を読み取っています。

モデルテストの出題形式パターン(スクラッチ型・穴埋め型・口頭型)
モデルテストには複数の形式があり、事前に把握しておくことが対策の第一歩です。最も一般的な「スクラッチ型」は、白紙の状態から3時間から6時間でLBOモデルを構築するもので、財務三表の連動理解と構築スピードが問われます。
「穴埋め・修正型」は既存モデルの誤りを発見・修正する形式で、デバッグ能力とモデルの読解力が試されます。「口頭型」は面接の場で電卓や暗算を用いて投資採算を概算するもので、瞬時の判断力が求められます。外資系ファンドでは英語でのモデル作成が必要になるケースもあり、事前の確認が重要です。
ファンドタイプ別の出題傾向(バイアウト/グロース/ディストレス)
志望するファンドのタイプによって、モデルテストで求められる内容は大きく異なります。バイアウトファンドではLBOモデルが王道であり、レバレッジを活用した投資リターンの計算が中心となります。一方、グロースファンドでは事業計画の妥当性評価が重視され、売上成長の蓋然性やマーケットサイズの分析が問われることもあります。
ディストレスファンドでは再生シナリオの数値化が求められ、債務再編やコスト削減効果の定量化が必要です。国内ファンドと外資系ファンドでも出題傾向に違いがあるため、転職エージェントから事前に情報収集することが有効です。

採点官が本当に見ている「5つの評価軸」
モデルテストで高評価を獲得するためには、採点官がどのような基準で候補者を評価しているかを理解することが不可欠です。多くの候補者は「正確な計算ができれば合格」と考えがちですが、実際の評価はより多面的です。
構造設計、正確性、スピード、伝達力、判断力という5つの軸から総合的に評価され、特に「投資家としての視座」が感じられるかどうかが合否を分けるポイントとなります。ここでは、実際の採用担当者の視点から、各評価軸で何が重視されているかを具体的に解説します。
構造設計(タブ設計・情報の流れ・拡張性)
モデルの第一印象を決定づけるのは構造設計です。採点官がファイルを開いた瞬間、タブ構成と情報の流れから候補者の実務センスを判断します。Input(前提条件)、Calculation(計算)、Output(出力)の明確な分離、タブ間の論理的なつながり、後から変数を追加しやすい拡張性など、「プロの仕事」を感じさせる骨格が高く評価されます。
実際の業界経験者が作成するモデルには共通のお作法があり、それを知らない候補者は一目で見抜かれてしまいます。構造設計の段階で手を抜くと、後続の作業効率も大幅に低下します。
正確性(3表整合・リンクの一貫性・循環参照の処理)
BS、PL、CFの財務三表が正しく連動していることは、モデルの信頼性の根幹です。特にBSバランス(貸借一致)の不整合は即座に発見され、致命的な減点対象となります。リンクの一貫性、符号の統一、そして循環参照への適切な対処(スイッチ機能の実装など)ができているかが厳しくチェックされます。
金利計算などで発生しやすい循環参照は、反復計算の設定かスイッチによる解消のいずれかで対処する必要があります。エラー表示の放置は「プロフェッショナリズムの欠如」とみなされ、内容以前の問題として評価を下げる要因となります。
スピード(優先順位付けと時間配分の判断力)
制限時間内に「完成」させることは、合格の最低条件です。しかし、全てを精緻に作り込もうとして時間切れになるケースが非常に多く見られます。採点官が評価するのは、重要度の低い項目を意識的に簡素化し、コアな部分に時間を集中させる判断力です。
例えば、細かい運転資本の予測に時間をかけるより、Exit時のバリュエーションやIRRの計算を優先すべきです。「完璧を目指して未完成」よりも「適切な簡素化で完成」の方が遥かに高く評価されることを覚えておいてください。時間配分の失敗は実務でも致命的だからです。
伝達力(ゴールシート・サマリー・注釈の配置)
モデルは「作って終わり」ではありません。投資判断の結論であるIRRやMOICが一目でわかるゴールシート、前提条件を整理したドライバーリスト、要所に配置された注釈など、第三者が見て理解できる「伝わるモデル」が評価されます。採点官は実際に変数をいじって、全ての計算が正しく連動するかを確認します。
その際、どこに何があるかすぐに分からないモデルは、操作性の面で低評価となります。投資委員会で使用されるモデルは、作成者以外の複数の関係者が閲覧・操作することを前提に設計されていることを意識してください。
判断力(「意志ある簡素化」と仮定の妥当性)
全ての勘定科目を精緻に予測する必要はありません。重要性の低い科目を売上比固定で処理するなど、「なぜそう簡素化したか」を説明できる判断力こそが、投資家としてのセンスを示す最大の加点ポイントです。仮定の置き方には候補者の投資家としての視座が如実に表れます。
成長率やExit倍率の設定において、過度に楽観的でも保守的すぎてもいけません。提供資料から合理的に導き出せる仮定を置き、その根拠を明確に説明できることが、上位評価を獲得するための鍵となります。
モデルテストの作り方|0から完成までのステップバイステップ
実際にモデルを構築する手順を、本番で迷わないレベルまで具体的に解説します。多くの候補者が失敗するのは、構築手順が体に染み込んでいないため、試験中に迷いが生じて時間をロスしてしまうからです。
ここで紹介するステップは、経験豊富なPE投資家が実務で使用している標準的なプロセスです。この手順を繰り返し練習し、無意識に実行できるレベルまで習熟することで、本番でも落ち着いて作業できるようになります。
最初の15分|資料読み込み・論点整理・ゴール設定
試験開始後、いきなりExcelに向かうのは悪手です。最初の15分は提供資料の読み込みに充て、「何を求められているか」「どの数字がキーなのか」を整理します。まず、案件の概要(業種、規模、投資スキーム)を把握し、次に入手可能なデータ(過去財務、事業計画、バリュエーション情報)を確認します。
その上で、完成形のゴールシートをイメージし、逆算して必要な計算ステップを整理します。この段階で論点を明確にしておくことで、構築中の迷いが大幅に減少します。資料に不明点があれば、この段階で質問することも重要です。
全体設計(タブ構成・セル色ルール・入力箇所の決定)
構築に入る前に、タブ構成とセル色のルールを決定します。標準的な構成は、Assumptions(前提条件)、Operations(事業計画)、Debt(借入金スケジュール)、Output(ゴールシート)の4タブです。セル色は、青が入力値、黒が計算式、緑が他シートからの参照という業界標準ルールを適用します。
この「設計」を先に固めることで、作業中の迷いを減らし、ミスを防ぎます。また、後から見直す際にも、どこに何があるかすぐに把握できます。この準備に5分から10分かけることは、決して時間の無駄ではありません。
入力から計算、出力の順で組む(崩れない組み立て方)
モデル構築は「入力、計算、出力」の順で進めることが鉄則です。まず、Assumptionsシートに全ての前提条件を入力します。次に、PLの売上から営業利益、EBITDAまでを計算し、続いて借入金返済スケジュールを組みます。その後、CFを作成し、最後にBSを組み立ててバランスチェックを行います。
この順序を守ることで、後からエラーが発生しにくい堅牢な構造になります。特に、BSとCFの連動は最も間違いやすいポイントなので、慎重に進めてください。各ステップで検算を行う習慣をつけることも重要です。
シナリオ・感応度分析の効率的な追加方法
ベースケース完成後、ダウンサイドシナリオや感応度分析を追加します。最初からシナリオ切り替えを想定した設計にしておくことで、この工程を短時間で完了できます。具体的には、CHOOSE関数やOFFSET関数を活用してシナリオを切り替える仕組みを入力シートに実装します。
感応度分析では、Exit倍率と売上成長率、またはExit倍率とEntry価格の組み合わせが一般的です。データテーブル機能を使えば効率的に作成できます。「リスクへの感度」を示すことは投資家としての視座を示すことになり、評価につながります。
提出前チェック(整合性・見た目・説明可能性の最終確認)
提出前の最後の15分から20分は、検算とフォーマット整備に充てます。最優先はBSバランスチェックで、チェック行が「0」を示していることを必ず確認します。次に、エラー表示(#DIV/0! や #REF!)がないかを全シートで確認します。
見た目の整備として、列幅の調整、フォントの統一、印刷範囲の設定を行います。最後に、「なぜこの仮定にしたか」の説明を頭の中で整理し、面接での質問に備えます。この最終確認を省略すると、小さなミスが大きな減点につながる可能性があります。
時間配分テンプレート|3時間・4時間・6時間別の標準スケジュール
制限時間に応じた標準的な時間配分を理解することは、本番での成功に直結します。時間配分を事前に決めておかないと、一つの作業に没頭して全体のバランスを崩してしまいがちです。
ここで示すテンプレートはあくまで目安であり、自分のスキルレベルや得意分野に応じて調整が必要です。重要なのは、練習を通じて自分なりの時間感覚を掴むことです。本番前には必ず時間を計測しながらの練習を行い、実際のペースを体得してください。
3時間コースの時間配分例
3時間という厳しい時間制限では、「完璧」を捨て「完成」を最優先します。資料読み込みと設計に15分、Assumptions入力に15分、PL・EBITDA計算に30分、借入金スケジュールに30分、CF・BS構築に45分、シナリオ・出力整備に30分、エラーチェック・清書に15分が目安です。
この時間配分では、細かい運転資本の予測や詳細な感応度分析は省略し、コアとなるLBOリターン計算に集中します。準備段階で3時間の模擬試験を複数回経験し、時間感覚を体に覚え込ませることが不可欠です。
4時間・6時間コースの時間配分例
時間に余裕がある場合でも、前半で骨格を完成させ、後半は「磨き」に充てる構成は同じです。4時間コースでは、基本構築に2時間半、感応度分析と追加シナリオに45分、清書と見直しに45分を配分します。
6時間コースでは、より精緻なモデル構築に3時間半、複数シナリオの作成と感応度分析に1時間半、説明資料の準備と見直しに1時間を充てます。追加時間は感応度分析の充実や、投資仮説の説明資料準備に回すことで、面接での評価向上にもつなげられます。時間が長いからといって緩むことなく、集中力を維持することが重要です。
試験中にモデルが崩れた時のリカバリー術【保存版】
試験中に「BSがバランスしない」「循環参照でエラーが出る」といったトラブルに直面した時、パニックにならずに冷静に対処できるかが合否を分けます。多くの候補者は、こうした緊急事態への対応を準備していないため、想定外のトラブルで思考が停止してしまいます。
ここでは、プロが実践するトラブルシューティングの技術を伝授します。これらのリカバリー術を事前に習得しておくことで、「何が来ても大丈夫」という自信を持って試験に臨めるようになります。
「バランスしない」時の3分間デバッグ手順
BSが一致しない時、闇雲に探すのは時間の無駄です。まず、CFのキャッシュ変動額と、BSの現金残高増減を照合します。次に、借入金の増減とCFの財務活動を確認します。さらに、株主資本の変動(当期純利益や配当)とCFの関係を検証します。この3ステップで、原因箇所を最短で特定できます。
多くの場合、原因は借入金返済スケジュールとCFの不整合、または未払費用などの運転資本項目の処理ミスです。チェック行を細かく設置しておくと、どの項目で差異が発生しているか一目で分かります。
循環参照(Circular Reference)の解消テクニック
金利計算などで発生しやすい循環参照は、事前に対処法を習得しておけば恐れる必要はありません。解消方法は2つあります。一つ目は、Excelの反復計算機能をオンにする方法で、ファイル、オプション、数式から設定できます。二つ目は、循環を断ち切るスイッチ(0/1フラグ)を組み込む方法です。スイッチ方式では、フラグが0の時は循環を断ち切り、1の時に循環計算を有効にします。プロは後者のスイッチ方式を好む傾向があり、採点官にも好印象を与えます。本番前に両方の方法を練習しておきましょう。
#DIV/0! や #REF! エラーの即時特定と修正
エラー表示の放置は「プロフェッショナリズムの欠如」とみなされ、技術的な問題以上に印象を悪くします。#DIV/0! エラーは、分母がゼロまたは空白の場合に発生するため、IFERROR関数で予防処理を施します。#REF! エラーは、参照先のセルが削除された場合に発生します。
発生時の原因特定には、数式タブの「参照元のトレース」機能が有効です。セルに矢印が表示され、どこから参照されているかが視覚的に把握できます。予防策として、行や列の削除は極力避け、内容をクリアする方法を取ることをお勧めします。
時間切れになりそうな時の「戦略的撤退」判断
残り時間が少ない中で、「このまま完成を目指すか」「一部を諦めて提出可能な状態にするか」の判断が求められる場面があります。この時の鉄則は、「未完成でも論理的に整合した部分だけで投資判断を示す」ことです。崩れたモデルを提出するより、簡素化されていても完結したモデルの方が遥かに高く評価されます。
具体的には、複雑なシナリオ分析を省略し、ベースケースのIRRとMOICだけでも明示します。ゴールシートに「時間制約により簡素化」と注記することも、判断力の証明になります。
【出身別】最短で通過水準に到達するための対策ポイント
コンサル出身者とIBD出身者では、つまづきやすいポイントが異なります。自分のバックグラウンドに応じた弱点補強を意識した対策が、最短での合格につながります。
ここでは、主要な出身業界別に、陥りがちな落とし穴と具体的な克服法を解説します。自分の弱点を客観的に認識し、重点的にトレーニングすることで、限られた準備期間でも効率的にスキルを向上させることができます。
コンサル出身者の弱点と克服法(財務3表の連動理解)
戦略コンサル出身者の多くは、PL分析には慣れていても、BSやCFとの連動理解が浅いケースが少なくありません。コンサルティングファームでの業務では、PLベースの分析が中心となるため、財務三表が連動するモデルを構築した経験がない方も多いです。
克服法としては、まず「財務三表が回るモデル」を何度も作り、PLの変化がBSやCFにどう波及するかを体感で理解することが第一歩です。特に、減価償却とCapexの関係、運転資本の増減とCFの関係を重点的に学習してください。理論よりも実践で手を動かすことが近道です。
IBD出身者の弱点と克服法(テンプレ依存からの脱却)
IBD出身者は実務でモデルを触った経験があるものの、自社のテンプレートに依存しているケースが多く、白紙からのスクラッチ構築で苦戦することがあります。また、投資銀行では精緻さが求められるため、「引き算」の思考ができず時間オーバーになるパターンも見られます。
克服法としては、テンプレートなしで一から構築する練習を繰り返すことが重要です。また、試験では「完璧な精緻さ」より「適切な簡素化と完成」が評価されることを意識し、思考転換のトレーニングを行ってください。何を省くべきかの判断力を磨くことが鍵です。
FAS・事業会社出身者の弱点と克服法(投資仮説の数値化)
会計や事業の数字に強い一方で、「投資家視点でのバリューアップ仮説」を数字に落とし込む経験が少ないケースがあります。FASや事業会社では財務分析は行うものの、「いくらで買って、どう価値を上げ、いくらで売るか」というLBOの思考プロセスには馴染みがないことが多いです。
克服法としては、単なる財務シミュレーションではなく、投資家として「何に投資し、どう価値を上げ、いくらでExitするか」というストーリーを数字で語る練習が重要です。バリューアップの具体的施策とその財務インパクトを結びつける訓練を行いましょう。
絶対に避けるべき「不合格になるモデル」の特徴5選
多くの候補者が犯す典型的なミスを事前に知っておくことで、自分のモデルをセルフチェックする基準が持てます。「これをやったら即アウト」というパターンを押さえておけば、少なくとも致命的な失敗は避けられます。
ここで紹介する5つの特徴は、採点官が最も厳しくチェックするポイントであり、一つでも該当すると合格が難しくなります。練習の段階からこれらを意識し、徹底的に排除する習慣をつけてください。
BSがバランスしていない(Balance Checkの不一致)
BSの貸借不一致は、モデルの信頼性をゼロにする致命的なミスです。どれだけ他の部分が優れていても、この一点で不合格となる可能性が高いです。対策として、必ずBS残高のチェック行を設け、常に「0」が表示されている状態を維持しましょう。
チェック行の計算式は「資産合計 – 負債合計 – 純資産合計」とし、条件付き書式で0以外の値が赤く表示されるよう設定しておくと安心です。構築中は定期的にこのチェック行を確認し、差異が発生した時点で原因を特定する習慣をつけてください。
エラー表示(#DIV/0!、#REF!等)の放置
計算上の問題がなくても、エラー表示が残っているだけで「雑な仕事をする人」という印象を与えます。エラーセルはモデル全体の信頼性を損ない、採点官に不快感を与えます。予防策として、割り算を行うセルには必ずIFERROR関数を適用してください。
IFERROR(計算式, 0)とすることで、エラー時に0を表示できます。提出前には必ず全シートを確認し、エラー表示がないことを確認してください。Ctrl+Endで各シートの使用範囲を確認し、想定外のセルにエラーがないかもチェックします。
ハードコード(直接入力値)の散在
計算式の中に数字を直接埋め込む「ハードコード」は、後からの修正を困難にし、ミスの温床になります。例えば「=B5×1.03」のように成長率を直接式に書き込むと、仮定を変更する際に全ての該当箇所を探して修正する必要が生じます。
対策として、全ての入力値は所定のInputシートに集約し、計算式からは参照するルールを徹底しましょう。「=B5×$Input.$C$10」のように記述することで、仮定の変更が一箇所で済み、感応度分析も容易になります。セル色ルールの徹底がハードコード防止に効果的です。
結論(IRR/MOIC/投資推奨)が不明確
どれだけ精緻なモデルを作っても、「結局、投資すべきなのかどうか」が明確に示されていなければ評価されません。モデルテストの目的は投資判断の材料を作ることであり、その結論が不明確では本末転倒です。対策として、ゴールシートには必ずIRR、MOIC(投資倍率)、投資推奨を明示してください。
例えば「IRR 25%、MOIC 2.5x、投資推奨: Attractive」のように、一目で結論が分かる形式にします。複数シナリオがある場合は、各シナリオの結果も並べて比較できるようにしましょう。
仮定の根拠が説明できない
面接で「なぜこの成長率にしたのですか?」と聞かれて答えられないのは致命的です。全ての仮定には、提供資料に基づく根拠か、合理的な推論のいずれかが必要です。「なんとなく5%にした」では、投資家としての判断力を疑われます。
対策として、モデル作成時に主要な仮定については根拠をメモしておきましょう。「過去3年の平均成長率が4%だったため、保守的に見て3%とした」のように説明できるよう準備します。仮定の根拠を明確にすることは、自分自身の思考を整理することにもつながります。
モデル提出後の面接対策|「なぜその数字にしたか」を説明する技術
モデルテストは提出して終わりではありません。多くのファンドでは、モデルを基にした面接が行われ、ここで評価が覆ることも珍しくありません。
モデルの作成能力だけでなく、投資家としての思考プロセスを言語化し、質問に対して的確に回答できる「プレゼン力」と「防御力」が問われます。ここでは、面接での評価を高めるためのコミュニケーション技術を解説します。
ドライバー説明(前提条件の妥当性を主張する方法)
「なぜこの売上成長率にしたのか」「なぜこのExit倍率を置いたのか」を、資料の裏付けと論理的推論で説明できるよう準備しておきます。モデル作成以上に、この「前提の妥当性」の主張が面接での評価を左右します。
効果的な説明フレームワークは、「資料から読み取れる事実」「その事実からの推論」「保守性/楽観性の判断」の3段階です。例えば、「過去3年の売上成長率が平均8%であり、市場環境を考慮して若干保守的に6%としました」のように説明します。自信を持って堂々と説明することが重要です。
投資アングルとバリューアップ仮説の説明
単なる財務シミュレーションではなく、「この投資でどう価値を上げるのか」というバリューアップストーリーを語れることが、投資家としての素養を示すポイントです。PEファンドは、買収後の経営改善によって企業価値を向上させることで利益を得るビジネスモデルです。
そのため、コスト削減、売上成長、M&Aによるシナジーなど、具体的なバリューアップ施策とその財務インパクトを説明できることが求められます。モデルの数字と経営戦略のストーリーを結びつけて説明する練習をしておきましょう。
モデルの欠点を自ら補足する技術
完璧なモデルは存在しません。「時間があれば詳細な運転資本分析を追加すべきでした」「為替感応度はより精緻な分析が必要です」と自ら補足できることが、視座の高さを示します。この自己批判的な補足は、謙虚さと専門性の両方をアピールできる効果的な手法です。
ただし、致命的な欠陥を認めるのではなく、「より良くするための改善点」として伝えることが重要です。面接官は、候補者が自分の仕事を客観的に評価できるかを見ています。建設的な自己評価ができることは、実務でも重要な能力です。
想定問答集(よく聞かれる質問と回答例)
面接での頻出質問を事前に把握し、回答を準備しておくことで、本番での余裕が生まれます。「このモデルで最も自信のある部分は?」という質問には、構造設計や整合性の高さを具体的にアピールします。「逆に不安な部分は?」には、改善点を建設的に述べます。
「実際に投資するとしたら、追加で何を調べますか?」には、デューデリジェンスで確認すべき項目を挙げます。「この投資案件の最大のリスクは?」という質問も頻出であり、ダウンサイドシナリオと紐づけて説明できるよう準備してください。
プロが実践する「美しいモデル」のお作法7箇条
技術的に正しいだけでなく、見た目も操作性も優れた「プロのモデル」には共通するルールがあります。これらのお作法を守ることで、「実務経験がある」「業界の常識を知っている」という信頼感を醸成できます。
採点官は、モデルを開いた瞬間の第一印象で候補者のレベルを判断します。内容の正確性は当然として、見た目の美しさと操作性の高さも評価対象であることを忘れないでください。
セル色の統一ルール(入力:青、計算:黒、外部リンク:緑)
業界標準のセル色ルールを徹底することで、採点官が一目で構造を理解できるモデルになります。入力値(ハードコード)はフォントを青色に、計算式はフォントを黒色に、他シートからの参照(外部リンク)はフォントを緑色にします。
このルールはPEファンドに限らず、投資銀行やFASでも広く共通しています。セル色を見るだけで、どこが仮定でどこが計算かが分かるため、レビューや修正が格段に効率化されます。最初の設計段階でルールを決め、構築中は一貫して守ることが重要です。
単位・桁・符号の統一
百万円単位なのか千円単位なのか、支出はマイナス表記なのかプラス表記なのかを統一します。単位や符号が混在しているモデルは信頼性が低く見え、実際の計算ミスも発生しやすくなります。
一般的には、売上や利益は百万円単位のプラス表記、費用はマイナス表記またはカッコ表記、CFは流入をプラス、流出をマイナスとします。シートの最上部に「単位:百万円」と明記し、符号のルールもAssumptionsシートに記載しておくと親切です。一度ルールを決めたら、全シートで一貫して適用してください。
名前の定義とラベルの明確化
セルやレンジに適切な名前を定義し、各行・各列にわかりやすいラベルを付けることで、可読性が大幅に向上します。例えば、Exit倍率のセルには「Exit_Multiple」という名前を定義しておくと、計算式が「=EBITDA5×Exit_Multiple」のように読みやすくなります。
行ラベルは「売上高」「売上原価」のように具体的かつ簡潔にし、英語でも「Revenue」「COGS」のように統一します。名前定義は数式タブから設定でき、後からの修正や確認も容易になります。ラベルの階層構造を揃えることも見た目の美しさに寄与します。
コメント・注釈の適切な配置
複雑な計算式や、重要な仮定の根拠は、セルコメントや注釈行で説明を加えておきます。これにより、後から見返した時の理解が容易になり、面接での説明準備にもなります。コメントは右クリックから挿入でき、セル右上に赤い三角マークが表示されます。
ただし、コメントの使いすぎは逆効果なので、本当に説明が必要な箇所に限定します。別の方法として、計算行の横に注釈列を設け、簡潔な説明を記載する方法もあります。重要な仮定には「Source: 提供資料p.3」のように出典を明記すると信頼性が高まります。
その他のお作法(印刷設定・シート保護・バージョン管理)
印刷範囲の設定、入力セル以外の保護、ファイル名でのバージョン管理など、実務で重視される細かなお作法も押さえておきましょう。印刷設定では、表示タブの改ページプレビューを使い、A4やレターサイズに適切に収まるよう調整します。
シート保護は、誤操作による計算式の破壊を防ぐために有効です。ファイル名には「CaseStudy_v1.0_20240115」のように、バージョンと日付を含めます。グリッド線を非表示にし、ヘッダー行を固定するなど、見やすさへの配慮も評価されます。
効果的な練習方法と対策スケジュール(1週間・3日・前日)
本番までの残り時間に応じた、効果的な練習方法と対策スケジュールを提示します。限られた時間でも、正しい方法で練習すれば着実にレベルアップできます。
重要なのは、漫然と練習するのではなく、毎回の練習で明確な目標を持ち、改善点を特定して次回に活かすことです。時間を計測し、本番と同じ緊張感で取り組むことで、実践的なスキルが身につきます。
1週間前からの対策プラン(毎日1回「骨格だけ」を高速構築)
1週間あれば、毎日1回「骨格だけ」を高速で組む練習を7回繰り返せます。この段階では完成度より回数を重視し、手順を体に染み込ませることが目的です。初日は3時間かかっても構いませんが、毎日タイムを記録し、7日目には2時間以内で骨格が完成するレベルを目指します。
骨格とは、Assumptions、PL、借入金スケジュール、CF、BSの基本構造と、IRR・MOICの計算までを指します。細部の精緻化は一旦置いておき、全体の流れを何度も繰り返すことで、本番での迷いを減らします。
3日前からの対策プラン(同一ケース反復で速度と安定性向上)
3日前からは、同一ケースを繰り返し解くことで速度と安定性を上げます。毎回のタイムを計測し、改善点を特定していきます。1回目で気づいた非効率な手順を2回目で改善し、3回目で更に洗練させるという反復学習が効果的です。同じケースを3回解くと、最初と最後で30分から1時間の短縮が期待できます。
この段階では、本番と同じ制限時間を設定し、終了時刻になったら強制的に手を止める練習も行います。時間切れ時の対応力も実践的に身につけておくことが重要です。
前日の対策(チェックリスト暗記・手順の固定化)
前日は新しいことを学ぶのではなく、これまでの総復習に充てます。チェックリストの最終確認を行い、提出前に確認すべき項目を完全に暗記します。本番の手順をシミュレーションし、最初の15分で何をするか、各ステップの目標時間は何分かを頭の中で整理します。
Excelのショートカットキーを確認し、よく使う操作がスムーズにできることを確認します。十分な睡眠を取り、万全の状態で臨むことも大切です。当日の朝は軽く手を動かす程度にとどめ、集中力を温存してください。
おすすめの学習リソース・書籍・講座
独学でのモデルテスト対策に役立つ書籍、オンライン講座、無料リソースを厳選して紹介します。自分のレベルと弱点に応じて、適切なリソースを選択することが効率的な学習につながります。
ただし、インプットに時間をかけすぎず、できるだけ早く手を動かす練習に移行することが重要です。知識だけでは試験は突破できず、実践的なスキルの習得が不可欠です。
必読書籍(LBOファイナンス・バリュエーション・財務モデリング)
基礎から実践までをカバーする必読書籍をレベル別に紹介します。財務三表の基礎が不安な方は、まず「財務三表一体理解法」などの入門書から始めてください。LBOの仕組みを理解するには、「バイアウト入門」や「レバレッジドバイアウト」といった専門書が役立ちます。
バリュエーションについては、「企業価値評価」がスタンダードな教科書として広く使われています。実践的なモデリング技術については、英語の書籍が充実しており、「Investment Banking」(Rosenbaum & Pearl)が定番です。

オンライン講座(短期集中で実践力を身につける)
短期集中で実践力を身につけられるオンライン講座も効果的です。海外講座では、Wall Street PrepやCFI(Corporate Finance Institute)が有名で、実務で使用されるモデルテンプレートと解説動画が充実しています。日本語で学べる講座も増えており、転職エージェントが提供するモデリング講座もあります。
講座選びのポイントは、単なる解説ではなく、実際に手を動かすワークが含まれているかどうかです。動画を見るだけでなく、必ず自分でモデルを構築する練習を行ってください。
無料で使える練習素材・テンプレートの探し方
コストをかけずに練習したい方向けに、無料リソースの入手方法を紹介します。上場企業の有価証券報告書は、練習用の財務データとして最適です。EDINETから無料でダウンロードでき、実際の数字を使ったモデル構築の練習ができます。
また、海外のファイナンス系YouTubeチャンネルでは、LBOモデルのウォークスルーが無料公開されています。ただし、無料素材には質のばらつきがあるため、基本的な知識を身につけた上で活用することをお勧めします。有料講座の無料お試し期間を活用するのも一つの方法です。
よくある質問(FAQ)
モデルテスト対策に関して、候補者からよく寄せられる質問とその回答をまとめます。同じ疑問を持つ方も多いはずなので、事前に確認しておくことで不安を解消できます。ここで取り上げる質問は、実際の選考経験者や転職エージェントから集めた頻出のものです。
まとめ
PEファンドのモデルテストは、「準備」で100%差がつく試験です。本記事で解説した評価基準、作り方の手順、トラブル対処法、そして面接での説明技術を身につければ、どんな出題が来ても対応できる自信が持てるはずです。最も重要なのは、知識をインプットするだけでなく、実際に手を動かして練習を繰り返すことです。モデリングスキルは、反復練習によってのみ身につきます。
今日から始めるべき2つのアクションを提示します。
一つ目は、まずExcelを開き、ショートカットだけで財務三表の骨格を作る練習を始めることです。二つ目は、時間を計測しながらの練習を習慣化し、本番の時間感覚を体得することです。これらを継続することで、着実にレベルアップし、内定獲得に近づくことができます。




